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NPB表彰に毎年疑問の声、スポーツ界の記者投票制の実情 Jリーグが“メディア主導”を脱したワケ
プロ野球のMVPやベストナインの一部選手への投票で問われる是非
毎年のように記者投票の方式が是非が問われるNPB表彰
プロ野球(NPB)のセ・パ両リーグのMVPやベストナインが発表された。選考方法はプロ野球担当記者による投票。しかし、一部選手への投票に疑問の声が上がるなど、毎年のように記者投票の方式が是非が問われる。では、野球以外のスポーツではいかにして表彰などの選考が行われているのか。サッカーをはじめ、オリンピック競技を長年取材してきた記者が紹介する。(文=荻島 弘一)
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Jリーグ開幕直前、サッカー年間最優秀選手賞(フットボーラー・オブ・ザ・イヤー)記者投票の開票を手伝った。「ベルディや三浦和良と書いてきた票はすべて無効」と厳しかった。結果的には「ヴェルディ」の「三浦知良」が圧倒的な票を獲得したが、先輩記者からは「責任も一緒に投票するんだ。1票で選手の人生を変えるかもしれない。いい加減な票を認めちゃいけない」。その言葉が、今も忘れられない。
プロ野球セ・パ両リーグの年間表彰で、記者投票が話題になった。最も活躍した選手に与えられるMVPやベストナインの投票結果に疑問の声があがったからだ。確かに、投票結果には突っ込みどころも満載。もちろん、それぞれ理由はあるのだろうが、SNSの厳しい指摘を見ていると悲しい気持ちになる。
同時に来月5日に表彰式があるJリーグのMVP、ベストイレブンが注目された。こちらは選手間の互選がベース。選手投票をもとに、Jリーグ幹部やJクラブ実行委員らで構成する選考委員会が決める。最多得票者がMVPになるわけではないが、より選手の声が反映されるのは間違いない。
実は、プロ野球に限らずあらゆるスポーツで選手表彰には記者が関わっている。大相撲の三賞選考委員会には資格を持った記者が加わるし、BリーグのMVP選考委員会にもメディアの代表が入っている。水泳や柔道など五輪スポーツでも、年間最優秀選手は記者が決め、表彰している。記者が関わらないJリーグの方が珍しいともいえる。
プロ野球の表彰制度は80年以上前からある。当時の記者は最も試合を見ていただろうし、競技にも精通していた。球団の所属ではないから、偏らずに選考ができる。記者の「専門性」と「公平性」が評価されていた時代で、以来記者投票が続いている。かつては、今以上にスポーツメディアの力は大きく、信頼もされていたのだろう。
サッカーも日本リーグ誕生以前の1961年にスタートした前述の「年間最優秀選手賞」は現在も記者投票。リーグだけでなく、海外クラブ所属の日本人選手、女子、学生ら1年間で「最も活躍したサッカー選手」に贈られる。早大の釜本邦茂、明大の杉山隆一が受賞し、2011年度は女子W杯優勝の澤穂希。昨年度は三笘薫が選ばれた。
Jリーグは発足時から変化、サッカー界の流れは「選考する側がメディアから選手へ」
Jリーグ以前の日本リーグは特殊だった。スポーツ新聞社が各賞を提供し、表彰していた。MVPはスポーツニッポン新聞社、ベストイレブンは報知新聞社、新人王は東京中日スポーツ、得点王とアシスト王は日刊スポーツ(選考はなし)。各社がリーグの代表者との選考委員会で決め、賞金も出した。ここでも、メディアの力は大きかった。
しかし、Jリーグは発足時から「メディアではなく、リーグ内で決める」とした。「クラブを持つメディアがあるから、公平な選考をするために」という理由を聞いたこともある(プロ野球も同じだけれど)。選手投票をベースにして選考委員会で決定という新しいスタイルだったが、今はイングランドのプレミアリーグなど選手投票が普通になりつつある。
時代の流れとともに、選考方法が変わっていくのは海外の例をみても分かる。1956年スタートのバロンドールは、全世界の投票権を持つ記者が選出。フランスのサッカー専門誌「フランス・フットボール」によるものだが、世界で最も権威のある賞は記者が決めてきたのだ。対して、1991年に始まったFIFA最優秀選手は各国の監督と主将の投票などで決まる。選考する側がメディアから選手に移りつつある。