あわせて読みたい
「処理水放出問題」で国際世論と戦略を読み違えた中国政府の悪手…日本側の勝利はもはや時間の問題
これまで述べてきたように、処理水問題はさまざまな利害関係や工作が飛び交う外交・情報戦の様相を呈している。その上で、日本側の勝利は概ね時間の問題となりつつあると言えるだろう。
今回の結果をもたらした大きな要因は、主に2つ挙げられる。
1つ目は、従来の行政にしばしば見られた、単にパンフレットやホームページでアリバイ的な告知をするだけに類した「相手が自分から情報を取りに来てくれること、事実や正しい情報さえ提示すれば当然理解してもらえるかのような楽観的かつ受身的な前提に基づく『正確な情報の発信』」に留まらず、こちらから積極的に働きかける周到な説得と根回しを繰り返したことだ。
X(旧ツイッター)で21万人以上のフォロワーを持つ編集者「たられば」氏(@tarareba722)は8月26日、次のように指摘した。
〈 今回あまり報じられていない論点として、日本政府(官邸、外務省、経産省、農水省など)は国際社会(特にいわゆる自由主義社会側)からの支持獲得にすげえがんばって固い準備をしてきた、という話がある(中略)
少なくとも今年5月の広島G7サミットできっちり議題に入れて「首脳共同宣言」に処理水放出プロセスへの支持を入れ込ませ、その流れから8/3~のEU食品輸入規制全廃を勝ち取って、岸田首相訪米から日米韓首脳会談で地固めして(直接の議題には上がらなかったそうだけど)、放出直前(8/16)には米ブリンケン国務長官にも「海洋放出の計画は安全で満足している」と述べさせています 〉
その上で、〈いずれにせよ、日本産食品の輸入規制に関しては、世界標準ではおおむね撤廃の方向で進んでおり(政府一体となった粘り強い交渉の成果)、いまだ処理水放出に反対している国は、環境問題や食品衛生管理上の懸念というよりも、明らかにもうひとつ上のレイヤーでの政治問題である、と、日本国内向けにもうちょっと情報発信したほうがいいと思います〉と発信して、590万回以上の表示と1.2万リポスト、464件の引用、2.5万件のいいねの大きな反響を呼んでいる。
事実、2022年9月の国連総会では処理水放出の計画に「最も深刻な懸念」を表明していたミクロネシアのパニュエロ大統領が、2023年2月2日に出された岸田首相との共同声明で「ミクロネシア連邦が以前に国連総会で述べたほどの恐れや懸念はもはや有していない」として姿勢を転換させた。日本側からの積極的な働きかけがなければ、これは決して実現しなかったはずだ。
———-
参照)原発処理水放出、島嶼国に理解じわり 中露韓は反発強く(2023年3月11日 産経新聞)
———-
そして2つ目の要因は、「情報攻撃に対していち早く、直接言及し、毅然と反撃した」ことだろう。
デマやフェイクニュースには迅速かつ強力な反撃を加え、「割に合わない」状況まで徹底的に追い込むことが最も有効策であることは、拙著『「正しさ」の商人』で数々の先行研究と実例を基に繰り返し訴えてきた知見でもある。
特に外務省は、中国政府などの偽情報に前例がないほど真っ向から強く反論し、SNS上で広がったデマも具体的に取り上げながら何度も否定し続ける「攻め」の広報に転じた。
これまでメキシコ駐箚特命全権大使やブラジル駐箚特命全権大使などを歴任してきた山田彰氏(@akirayamada)は、X(旧ツイッター)上で力強く語った。
〈 風評加害者(著者注釈※何らかの利益を目的として故意に風評を広める勢力)には、科学的根拠を突き付けて厳しく反論していくこと、本来はそれは行政の役割だったはずだが、これまではその対応が十分ではなかった、という反省がある。しかし、今はしっかり反論し、正しい情報を発信する攻めの広報が行われている。
風評加害者の信用は落ち、国内世論は明らかに変わりつつある。中国の嫌がらせを見て、処理水を汚染水呼ばわりする輩も同じ穴の狢と理解するようになった面もあろう。常磐の水産物を食べて応援したいという日本人がサイレントかもしれないが圧倒的なマジョリティだ 〉
山田氏は昨年、外務省内の複数の後輩に拙著『「正しさ」の商人』を薦めてくださっていたという。この場を借りて重ねて御礼申し上げたい。
外務省の成功事例は、他の省庁の動きも活発化させた。
9月8日には総務省もX(旧ツイッター)上で〈最近、ALPS処理水に関する偽情報がインターネット上で発信されております。インターネット上の偽・誤情報にはご注意ください。総務省で取り組んでいる以下もご覧ください〉と発信し、多くの反響を獲得している。
全文はソースで
林 智裕(フリーランスライター)
https://news.yahoo.co.jp/articles/0c00455885082c0b94f14e6904d10a6f5dbaa408?page=2