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レトロな80年代の空気感が満載!クリィミーマミのJ-POPヒッツCDレビュー
レトロな80年代の空気感が満載!クリィミーマミのJ-POPヒッツCDレビュー
アニメの黎明期・発展期に生まれたアニメソングや劇伴音楽などを、ディスクガイド形式でご紹介している「アニメノオト」。その第14回は、2023年7月26日に徳間ジャパンコミュニケーションズから発売になったCD「魔法の天使クリィミーマミ 80’s J-POP ヒッツ」に注目します。(以下、敬称略)
「魔法の天使クリィミーマミ」は、1983年から1984年にかけて日本テレビ系で放送されたテレビアニメ。「ニルスのふしぎな旅」(1980)、「うる星やつら」(1981)などで注目されていた新興の制作会社「スタジオぴえろ」(現:ぴえろ)がアニメーション制作を担当しました。主人公の森沢優/クリィミーマミの声を、当時15歳の新人アイドル・太田貴子が務め、本作の主題歌「デリケートに好きして」がそのままデビューシングル曲となるなど、現実のアイドルや芸能界とのリンクも織り交ぜた演出が好評を博しました。当初は全26話(半年間)の予定が、52話(1年間)に延長となり、放送終了後も4本のOVAが制作されるなど、同時代の「魔法のプリンセス ミンキーモモ(第1作)」(1982)と人気を二分する、「80年代型魔女っ子アニメ」の典型となります。そして「マミ」に続いて、「魔法の妖精ペルシャ」(1984)、「魔法のスターマジカルエミ」(1985)、「魔法のアイドルパステルユーミ」(1986)とシリーズ展開され、「ぴえろ魔法少女シリーズ」と呼ばれるなど、80年代アニメを象徴するひとつのムーブメントを作り上げるに至ります。
「魔法の天使クリィミーマミ」誕生40周年を記念して発売された本CD「魔法の天使クリィミーマミ 80’s J-POP ヒッツ」の収録内容は、「マミ」関連曲を交えながらも、1980年代当時のJ-POPヒット曲が中心。劇中でマミを演じた太田貴子をメインに、共演キャラクターを演じた島津冴子、井上和彦、水島裕など豪華声優陣をゲストに迎えたJ-POPカバー・アルバムとして作られています。番組関連曲の新バージョンだけでなく、当時のヒット曲までを含み込むことで、番組を取り巻いていた80年代アイドル/J-POP界の空気感そのものを再現しようという、これまでのアニソンアルバムにない、斬新な切り口の本CD。では、オリジナル曲の概要を含め、収録内容をながめていきましょう。
「チェック・ポイント」(作詞:来生えつこ 作曲:筒美京平 編曲:新川博)は、ドラマ「夏・体験物語2」(1986)主題歌。その主演を務め、本曲がデビューシングルともなった藤井一子の曲で、「マミ」と同じ、徳間発売のレコードでした。中山美穂主演のドラマ「毎度おさわがせします」(1985)、「夏・体験物語」(1985)同様、思春期の性がテーマのドラマとして注目され、歌詞にもそうした雰囲気が封じ込められています。そのため、この曲を聴くと反射的になんだかモヤモヤした気持ちになってしまう方も少なくないのではないでしょうか。
「夏色のナンシー」(作詞: 三浦徳子 作曲: 筒美京平 編曲: 茂木由多加)は、1983年リリースの早見優の5作目のシングル曲。本人が出演する「コカ・コーラ」のCMソングとして記憶している方も多いでしょう。編曲の茂木由多加はプログレッシブ・ロックバンド「四人囃子」の元メンバー。早くからシンセサイザーを駆使したテクノポップサウンドの使い手として名を馳せ、アニメ「うる星やつら」にもオリジナルアルバムの曲が一部引用されるなど、ぴえろとの若干のつながりもあるアーティストです。
●3.飾りじゃないのよ涙は / 綾瀬めぐみ(島津冴子)
「飾りじゃないのよ涙は」(作詞作曲: 井上陽水 編曲: 萩田光雄)は、1984年発売の中森明菜の10枚目のシングル。それまで清純路線と不良路線を行ったり来たりしながらシングルを重ねてきた中森明菜にとって、不良路線の最後の決定打となった歌であり、アイドルを脱し、ボーカリストとしてさらに成長していくための突破口にもなった1曲です。その大切な転機を支えたのが、異才・井上陽水の詩とメロディだったわけです。マミのライバル・綾瀬めぐみを演じた島津冴子が、この難曲を見事に歌いこなしています。
●4.涙のtake a chance / 大伴俊夫(水島裕)
「涙のtake a chance」(作詞: 荒木とよひさ 作曲: 福島邦子 編曲: 小泉まさみ)は1984年発売。バラエティ番組「欽ちゃんの週刊欽曜日」(1982~1985)でアイドル的人気を誇っていた風見慎吾(現:風見しんご)の4枚目のシングルです。まだ国内に専門家のいなかったブレイクダンスを独学で習得し、それをシングル曲としてお茶の間に広めたいという風見の熱意が実り、予定されていた曲を取りやめ、ブレイクダンス向きのサウンドに急遽差し替えたといういわくつきの1曲。本曲を歌う水島裕は、1979年からすでにアルバムリリースを重ねている、もっとも初期からの「歌う声優アイドル」でもあります。
●5.LOVEさりげなく(アコースティック ver.) / クリィミーマミ(太田貴子)
「LOVEさりげなく」(作詞:三浦徳子 作曲:小田裕一郎 編曲:西村昌敏)は、アニメ「魔法の天使クリィミーマミ」の後期エンディング曲。今回はボサノバ風のアコースティックアレンジで収録されています。三浦徳子・小田裕一郎は、松田聖子「青い珊瑚礁」、杏里「CAT’S EYE」などで注目を集めていた大ヒットコンビ。「マミ」の音楽制作体制の本気度がよくわかる布陣です。
●6.淋しい熱帯魚 /クリィミーマミ&綾瀬めぐみ(太田貴子&島津冴子)
「淋しい熱帯魚」(作詞:及川眠子、作曲:尾関昌也、編曲:船山基紀)はWinkの5thシングルで、1989年の日本レコード大賞を受賞している大ヒット曲。後にテレビアニメ「新世紀エヴァンゲリオン」(1995)主題歌「残酷な天使のテーゼ」を手がける作詞家・及川眠子の出世作でもあります。マミ&綾瀬めぐみのデュエットでこの曲が聴けるのは、当時の視聴者にとってはひとつの夢の実現のようなもの。よくぞ選曲してくださった!
「C」(作詞:松本隆 作曲:筒美京平 編曲:萩田光雄)は、前述のドラマ「毎度おさわがせします」ですでに女優として爆発的な人気を得ていた中山美穂が、満を持して発売した1985年のデビューシングル曲。そのドラマを見ていた松本隆がデビュー曲の作詞をみずから志願して中山のスタッフに直談判。筒美京平にもみずから作曲を依頼したというほどの惚れ込みようだったとか。現在の太田貴子の歌声が、当時の中山美穂のニュアンスにとても近く、完成度の高いカバーになっています。
●8.木枯しに抱かれて / クリィミーマミ(太田貴子)
「木枯しに抱かれて」(作詞・作曲:高見沢俊彦 編曲:井上鑑)は、1986年リリースの小泉今日子の20枚目のシングル。小泉の主演映画「ボクの女に手を出すな」の主題歌でもあります。「メリーアン」「星空のディスタンス」でブレイクを果たしたALFEE(現: THE ALFEE)の高見沢俊彦が、「The Stardust Memory」「ハートブレイカー」に続いて小泉に提供した3作目のシングル曲です。
●9.BIN♥KANルージュ(DJ Guai-City Night MIX) / クリィミーマミ(太田貴子)
「BIN♥KANルージュ」(作詞:岩里祐穂 作曲:亀井登志夫 編曲:岩本正樹)は、「デリケートに好きして」からわずか2か月後に発売された、アニメ「魔法の天使クリィミーマミ」の挿入歌にして、太田貴子の2ndシングルA面曲。後に今井美樹や坂本真綾の個性的な音楽世界を作り上げることに大きな役割を果たす作詞家・岩里祐穂の初期の作品でもあります。
●10.そして僕は途方に暮れる / 立花慎悟(井上和彦)
「そして僕は途方に暮れる」(作詞:銀色夏生 作曲:大沢誉志幸 編曲:大村雅朗)は、1984年発売の大沢誉志幸の5枚目のシングル。日清カップヌードルのCMソングにも起用されていました。編曲の大村雅朗は、「デリケートに好きして」「パジャマのままで」のアレンジも担当。空間的な広がりを感じるシンセサウンドなど、本曲との共通点も少なくありません。立花慎悟役の井上和彦は、前述の水島裕同様、1980年代初頭からシングルリリースを重ねている「歌う声優」の第一人者。さすがのボーカルを聴かせてくれています。
●11.ダンシング・ヒーロー(Eat You Up) / クリィミーマミ(太田貴子)
「ダンシング・ヒーロー (Eat You Up)」(訳詞:篠原仁志 作曲:A.Kyte、T.Baker 編曲:馬飼野康二)は、1985年にリリースされた荻野目洋子の7枚目のシングル。イギリスの歌手アンジー・ゴールドによるディスコヒッツ「Eat You Up」の日本語カバーとして大ヒットしました。2017年頃には、大阪府立登美丘高校ダンス部のネット動画「バブリー・ダンス」をきっかけに再注目を浴びたため、バブル期を代表する曲のようなイメージになりましたが、実際の「ダンシング・ヒーロー」のヒットはもう少し早く、むしろ「マミ」の放送時期と近いのです。
「赤いスイートピー」(作詞:松本隆 作曲:呉田軽穂 編曲:松任谷正隆)は、1982年発売の松田聖子8枚目のシングル曲です。呉田軽穂=松任谷由実による松田聖子への初めての提供曲であり、高音のインパクトに頼らない抑制の効いたメロディ、かつ、「聖子ちゃんカット」をやめた時期とも重なるなど、松田聖子の新境地を演出した名曲として広く知られています。このシンプルだからこそ難しい歌にマミが挑戦し、しっとりと歌いこなしているというだけでも、胸に迫るものを感じるファンの方も少なくないでしょう。
●13.デリケートに好きして(DJ Guai-GROOVE MIX) / クリィミーマミ(太田貴子)
「デリケートに好きして」(作詞・作曲:古田喜昭 編曲:大村雅朗)は、アニメ「魔法の天使クリィミーマミ」の説明不要の名オープニングテーマです。作詞・作曲の古田喜昭は、1981年、シュガーに提供した「ウエディング・ベル」のヒットで一躍注目を集め、以降、「ときめきトゥナイト」(1982)OPテーマ「ときめきトゥナイト」、「OKAWARI–BOY スターザンS」(1984)OPテーマ「SHOW ME YOUR SPACE〜君の宇宙を見せて〜」、「とんがり帽子のメモル」(1984)OPテーマ「とんがり帽子のメモル」など、ファンタジックでスペイシーでドリーミーな、「これぞ80年代アニメソング」という数々の名曲を創り、一時代を築きます。名アレンジャー・大村雅朗と組んで魅力を増強した「デリケートに好きして」は、まさにその代表と言えるでしょう。
●14.I Don’t Know! /クリィミーマミ&綾瀬めぐみ(太田貴子&島津冴子)
「I Don’t Know!」(作詞:森雪之丞 作曲:中崎英也 編曲:中崎英也、杉山卓夫)は、マイケル・フォーチュナティのユーロビート・ヒッツをカバーした1st.シングル「Give Me Up」をヒットさせたBaBeが、続いてリリースした1987年の2ndシングル曲。本曲でBaBeは、1987年度の日本レコード大賞新人賞を獲得しています。Winkに続いてBaBeまでもがマミ&めぐみで聴けるとは、まさに至れり尽くせりの選曲です。
●15.Believe Again / クリィミーマミ(太田貴子)
「Believe Again」(作詞:麻生圭子 作曲:中崎英也 編曲:萩田光雄)は、1988年発売の浅香唯9枚目のシングル。斉藤由貴、南野陽子、浅香と約3年にわたって続いてきたドラマ「スケバン刑事」シリーズの締めくくりとなった、映画「スケバン刑事 風間三姉妹の逆襲」の主題歌として、特別な想いでこの曲を聴く方も少なくないでしょう。アルバムの終盤に、マミが歌うこの曲が流れだす瞬間は、本当に80年代の風が吹いてきたような感覚になり、ハッとさせられます。
※Track.16は、優と俊夫(太田貴子&水島裕)のセリフメッセージ、Track.17は、ピアノ伴奏のみでクリィミーマミ(太田貴子)が歌う「LOVEさりげなく」のショートバージョン。
カバー・アルバムというと、「軽い企画もの」というイメージがともないますが、聴き手の深い想いが染みついたかつての名曲をカバーするということは、そう簡単なものではありません。当時のファンの期待に応えるためには、綿密な選曲や、原曲風と現代風のアレンジのバランス、なによりアーティストや楽曲に対する深い愛が必要…… と、思われているよりもはるかに高度なイマジネーションや楽曲制作の精度が必要な音楽商品なのです。
ましてや本CD「魔法の天使クリィミーマミ 80’s J-POP ヒッツ」は、「魔法の天使クリィミーマミ」誕生40周年記念商品。それを当時の主題歌・挿入歌の新アレンジ・新録音だけに留めず、「クリィミーマミ」を取り巻いていた「80年代の空気感」そのものを封じ込めたタイムカプセルにしようとした、その挑戦心に心から拍手を送りたいと思います。このCDを通して聴いていくと、80年代ならではの輝きを放つ楽曲やアイドル、シンガーたちが次々と胸の中に現れてくるとともに、森沢優/クリィミーマミも、確かに同じ時代を生きていたんだと、実感できるはずです。
【商品情報】
■CD「魔法の天使クリィミーマミ 80’s J-POP ヒッツ」
・発売中
・価格:3,000円(税込)
・発売元:徳間ジャパンコミュニケーションズ
■収録内容
3.飾りじゃないのよ涙は / 綾瀬めぐみ(島津冴子)
5.LOVEさりげなく(アコースティック ver.) / クリィミーマミ(太田貴子)
6.淋しい熱帯魚 /クリィミーマミ&綾瀬めぐみ(太田貴子&島津冴子)
8.木枯しに抱かれて / クリィミーマミ(太田貴子)
9.BIN♥KANルージュ(DJ Guai-City Night MIX) / クリィミーマミ(太田貴子)
10.そして僕は途方に暮れる / 立花慎悟(井上和彦)
11.ダンシング・ヒーロー(Eat You Up) / クリィミーマミ(太田貴子)
13.デリケートに好きして(DJ Guai-GROOVE MIX) / クリィミーマミ(太田貴子)
14.I Don’t Know! /クリィミーマミ&綾瀬めぐみ(太田貴子&島津冴子)
15.Believe Again / クリィミーマミ(太田貴子)
16.優と俊夫のメッセージ (太田貴子&水島裕)※セリフのみ
17.LOVEさりげなく(ピアノ・ショートver.) /クリィミーマミ(太田貴子)
>> 「80年代の空気感」そのものを封じ込めたタイムカプセル ~ CD「魔法の天使クリィミーマミ 80’s J-POP ヒッツ」レビュー【不破了三の「アニメノオト」Vol.14】 の元記事はこちら