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慶応に有望選手が集まる理由 野球推薦なし、入学に勉強不可欠も慶大にほぼ進学 「エンジョイ野球」へ憧れ
群雄割拠の高校野球界。勝負を決めるのは有望中学球児のスカウティングだ。だが慶応は学校の特性上、「野球が上手なら絶対合格」というわけにはいかない。
森林貴彦監督(50)は言う。
「『受けてくれるとうれしいです』という話しか、できないんです。私は来てくれた選手と、グラウンドで練習するだけです」
慶応にはスポーツ活動に文化活動も含めた推薦入試制度がある。「野球推薦」や「枠」はなく、野球部入部を志す生徒がこの制度で入れるのは1学年につき、だいたい「10人弱」といった狭き門だ。中学の内申点が満点45点中、38点以上あることが最低条件。そして作文と面接の試験を経て、合格者を決める。
推薦で入学した現役部員に聞くと「作文はガチで準備しました」「面接に向けては中学時代に学んだことと、高校でどんな3年間を送りたいか自己分析しました」と“就活”を思わせる対策をしていた。慶応の選手はインタビューの受け答えも快活で知られているが、このような訓練を経ているからと考えると合点がいく。
赤松衡樹(ひろき)部長(47)は「ウチの制度では合格の確約が出せないんです」と明かす。それでも有望中学球児の間で、慶応の人気は高い。難関の慶大にほぼ100%進学できることや、髪形自由、先輩後輩の関係性が厳しくなく、自由な雰囲気であることも大きい。森林監督の「自ら考える野球」に共鳴し、入学を目指す選手も増えている。真の文武両道を貫き、OBが野球部の経験を生かして財界、法曹界、マスコミ界などで活躍していることも人気に拍車をかけている。
前監督の上田誠氏(66)のもと、05年に45年ぶりのセンバツ出場を果たし、8強に進出してからは甲子園の常連として復権。今大会はエースの小宅ら推薦組と、清原ら内部進学者(ベンチ入りメンバー中3人)、一般入試で合格した選手たち計107人が切磋琢磨(せっさたくま)。多様性の中でスローガンの「KEIO日本一」を目指し、高校球界に新たな価値観を創造しようとしている。
1888年創部の伝統校は、“最も新しい野球部”でもある。(加藤 弘士)