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定時制廃止は「時代に逆行」…横浜翠嵐高校の定時制廃止方針に元教員らが反対署名
神奈川県が昨秋に示した高校再編計画に伴い、県立横浜翠嵐高校(横浜市神奈川区)の夜間定時制が将来的に廃止される問題で、元教員らでつくる「存続を求める会」が10日、募集停止の反対署名を県教委に提出した。外国籍の生徒が過半数の翠嵐定時制。「求める会」には、多文化共生が専門の大学教員や弁護士も加わり、廃止を「時代に逆行したもの」として再考を促す。(西田直晃)
◆2026年度以降の募集、県内6校で停止
募った署名は、黒岩祐治知事と花田忠雄教育長に宛てた3813筆。翠嵐定時制の元教員で「求める会」の鳥山洋共同代表が、県教委の原田賢・県立高校改革担当課長に手渡した。署名集めは定時制と全日制の卒業生らが担ったという。
県によると、定時制への入学者は近年、定員の約3割に減った。各校の「適正配置」の観点から、定時制6校の2026年度以降の募集を停止する。翠嵐定時制はその1校。県は神奈川工業(神奈川区)の夜間定時制に普通科を新設し、代替機能を担わせる方針だ。
原田課長は「定時制への進学希望者のため、県内各地から通学可能な形に再配置する。計画は交通利便性と地域性を考慮している。外国につながる生徒の支援については、特定の学校だけということではなく、各校に蓄積された取り組みを継承する」と述べた。
◆「外国人支援の歴史が絶たれる」
これに対し、署名提出後に会見を開いた求める会は「翠嵐定時制には20年を超える外国人支援の歴史があり、生徒の日本語学習や生活サポートを担ってきた。廃止されてしまえば、支援のノウハウや地域とのつながりが絶たれてしまう」と強調した。同会は再編計画の公表後に結成され、今年2月から署名集めを始めていた。
廃止反対の理由として、横浜駅からバスで約10分の好立地も挙げている。翠嵐定時制には、市内在住の在日外国人の4分の1が暮らす中区、南区の生徒が多く、市中心部で働きながら学ぶケースも多いため、彼らが通学しやすいという。
同会メンバーで、翠嵐定時制に通う生徒・保護者の在留資格の相談に乗る三木恵美子弁護士は「機能を移転しても、外国籍の生徒を支える地域のNPO、外部の支援者とのつながりを引き継げるのか。解体されてしまう」と語気を強める。
「子どもたちは、不安定な親の仕事の都合で在留資格を失ってしまう。翠嵐定時制は生徒に進路を考えさせるため、在留資格の授業を行い、法律相談にも同行してきた。本来は県全域に地域の支援者とのつながりが必要だが、現実的にそういう学校は少なく、積み重ねのある翠嵐定時制がトップランナー。学ぶ点は多い」
◆「多文化共生の理想型」
翠嵐全日制は県内屈指の進学校で、ここ数年は東大の合格者が40~50人に達している。特色の一つに「国際交流」があり、日本への留学生や米国の高校生との交流イベントを盛んに催している。
求める会のメンバーで、フェリス女学院大の小ケ谷おがや千穂教授(多文化共生)は「多様性は豊かさを生む。夜間定時制の存在は全日制の生徒にとっても、きらびやかだと捉えがちな国際交流や多文化共生が、足元にある、生活のリアリティーと隣り合わせの切実なものだと理解できるいい機会。多文化共生の理想型で、神奈川にとって大切な場所だ」と訴える。
東京新聞 2023年8月13日 16時00分
https://www.tokyo-np.co.jp/article/269800