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韓国サムスン電子が営業利益95%減、日米欧の半導体「自国生産」回帰に取り残される恐れ
韓国経済において最大かつ最強の企業、サムスン電子の業績が悪化している。7月27日に発表した2023年4~6月期決算は、収益が14年ぶりの低水準に落ち込んだことが分かった。背景にはメモリ半導体市況の悪化がある。また、スマートフォンやパソコンなどITデバイスの出荷台数も世界的に減少している。
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● なぜサムスン電子の業績が悪化しているのか
サムスン電子の23年4~6月期決算は、営業利益が前年同期比95%減の6700億ウォン(約730億円)に落ち込んだ。特に注目の半導体事業(DRAMやNAND型フラッシュメモリなどのメモリ半導体、演算装置、ロジック半導体の受託製造=ファウンドリ)の営業損益は、前期から引き続き赤字だった。
半導体事業の収益悪化は、経営陣の想定を上回っているだろう。今春以降、サムスン電子はメモリ半導体の減産を余儀なくされている。SKハイニックスや、米マイクロン・テクノロジーなどのメモリ半導体メーカーも減産に踏み切った。それでも今のところ、DRAM、NAND型フラッシュメモリの価格下落が止まる兆しは見られない。
また、スマホやパソコン、デジタル家電などの事業でも収益は減少した。ディスプレー事業の業績も振るわない。株主資本利益率(ROE)も低下した。22年4~6月期のROEが14.0%だったのに対し、23年4~6月期は2%だった。経営陣はコスト削減策を打ち出しているが、それを上回るペースで主力製品の価格が下落したようだ。
サムスン電子の業績悪化は、韓国経済に大きなマイナスだ。その影響の大きさは、株式市場に占める同社の存在感でも見て取れる。6月末のMSCI韓国株式インデックスを構成する銘柄のウエートで、サムスン電子の普通株は31.81%(6月末)を占めた。2位のSKハイニックスのウエート(5.80%)との差は大きい。3位はサムスン電子の優先株(4.52%)だ。
世界的に、一企業が一国の株式市場の35%を上回る時価総額を占めるケースは特異だ。サムスン電子の好不調が、韓国経済全体の設備投資、輸出、個人消費などを左右するといっても過言ではない。実際に4~6月期、韓国の国内総生産を構成する個人消費、設備投資、輸出は、前期から減少した。
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それでは、サムスン電子の業績悪化が底を打つのはいつ頃だろうか? 残念ながら、本格的な改善に転じるには時間がかかりそうだ。それに伴い、韓国経済の先行き不安定感も高まりやすくなるだろう。
韓国経済の特徴として、サムスン電子、SKハイニックスに代表されるメモリ半導体産業は成長に大きな役割を果たした。両社とも韓国国内で生産した半導体を中国などに輸出してきた。輸出に占める半導体の割合は2割程度に上昇し、韓国の輸出依存度も高まった。
しかし、世界の半導体産業の構造は急速に変化し始めている。大きな変化として、AIへの期待が大きく膨らんだ。米国ではエヌビディアなどがAI利用に欠かせないチップの設計開発体制を強化している。台湾TSMCはその製造を引き受け、ファウンドリのシェアを増やした。対照的に、汎用型のチップ製造を手がけた米インテルは、サムスン電子と同じく業績が悪化している。
さらに重要なのが、主要先進国の産業政策の修正だ。米国、わが国、EUは、経済安全保障体制を強化するため半導体の自国生産を増やそうと、補助金政策などを強化した。
一例として、米アリゾナ州ではTSMCが工場建設の拡充を計画している。補助金の支給条件に関する調整が必要な部分もあるが、計画では26年に回路線幅3ナノメートル(ナノは10億分の1)のロジック半導体の量産が始まる予定だ。そして、わが国の熊本県でもTSMCは工場を建設している。また、ドイツ政府もTSMCの工場を誘致しようと補助金を支給するもようだ。
日米欧、いずれの国と地域においても、サムスン電子はTSMCに先行を許しているように見える。半導体供給拠点が東アジアから日米欧に分散し始めている状況下、韓国国内でサムスン電子が製品を生産し、輸出することで業績を立て直すのは難しくなるかもしれない。となると、韓国経済にも不透明感が増すことになる。
真壁昭夫
ヤフーニュース
https://news.yahoo.co.jp/articles/5dcc09119e2930f479264269d09d5e413dd0460c?page=1