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開成、麻布、海城…甲子園予選での「超進学校」の快進撃に見る「高校野球に現れた格差」
「開成高校は生徒の3分の1が東大に入るスーパー進学校ですが、密かに注目されているのが、岸田文雄首相もOBの野球部。全体練習は週1回しかなく、練習は木曜と土曜に隔週でグラウンドに入るだけで、練習施設が整っているわけでもありませんが、2005年にはベスト16まで進み、今年も4回戦まで勝ち上がりました。
注目の理由は、戦績もさることながら、野球のセオリーを無視したスタイル。練習時間の大半を打撃練習に当てたり、試合は一切ノーサインだったりするなど、少ない練習時間で勝つ方法を必死に模索する奮闘ぶりをノンフィクション作家の高橋秀実が書籍化。作品はドラマ化もされました」(週刊誌スポーツ担当記者)
全国に目を向ければ文武両道の名門校は珍しくないが、学校数が多く、私立上位の東京は、「受験対策」「充実した施設」「グローバル教育」といった特色を打ち出す必要があり、文武両道の高校は生まれにくい。それゆえ開成の快進撃は快挙だが、今夏は開成以外にも麻布と海城も勝利を重ねた。これはただの偶然なのか?
「東東京大会のレベルがそれほど高くないことは、理由の1つとして考えられます。東東京大会は例年出場校数が100を超えますが、ここ10年で甲子園に出場したのは関東一高と二松学舎大附属の2校だけ。出場校数だけなら神奈川、愛知、大阪などに並ぶ激戦区ですが、強豪校は少なく、勝ち上がりやすいのは事実です。
東京は圧倒的な人口を誇りますが、野球をやるには条件が悪すぎる。土地がないので学校のグラウンドは狭く、思いきりプレーできる環境ではないですし、そもそも子供の頃、キャッチボールができる場所さえない。有力選手は他県に進学してしまうケースが多いですし、人口比率で見たプロ野球選手出場地ランキングもワースト5に入ります。スポーツエリートが野球を選ばないのも、都内の子供のスポーツ事情の大きな特徴です」(フリーのスポーツ記者)
さらに、進学校の躍進には、時代が映す暗い影も見え隠れする。
「野球は非常に人気があるスポーツですが、大きなネックは費用です。サッカーはボール1つあれば始められますし、水泳なら海水パンツと水中メガネ、ダンスなら運動靴とTシャツでOKですが、野球はバットとグローブだけで数万円。ユニフォーム、ストッキング、スパイク、帽子まで揃えれば、支出は10万円単位です。昨今の経済状況では、それだけで野球を諦める子も少なくありません。
その点、私立の超進学校に通う生徒は、幼い頃から進学塾に通ってきた裕福な家庭の子供ばかり。子供がやりたいことを思い切りやらせるだけの余裕があり、トレーニングにせよ食事にせよ、サポート態勢が整っている可能性が高い。親の経済力が子供のスポーツの結果に直結するのが現実です。
一方、野球理論の変化も超進学校の生徒には有利に働いていると思います。かつては強豪校も弱小校も同じメソッドで練習していましたが、近年は色々な野球理論が登場し、練習方法やバッティングフォーム、投球フォームなども百人百様になりました。
これだけ数多くの情報が得られるようになると、並みの子供は“正解”を導き出すだけで一苦労ですが、超進学校に通う生徒は、情報を取捨選択して、最短時間でベストの結果を導き出す能力に長けています。開成が、守備を捨てて打撃で取り返すスタイルを選んだのもその1つ。身体能力や練習量の差は、知恵である程度、補えるということではないでしょうか」(同上)
東大の野球部は“最弱”で知られているが、それが覆される日が来るのかもしれない。