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プロ野球審判員に「ジャンパイア」はいるのか!? 元NPB審判員記者が本音解説
私は11年から16年までNPB審判員を務めた。当時、よく聞かれた質問がある。「好きな球団や選手に有利な判定をしたことがあるか―」。答えは必ずノーだった。審判員として公平を期すため、そんな当たり前の理由とは別に明確な2つの理由があった。
(1)選手は一瞬の隙も許されない商売相手。
20歳でNPB審判員となった記者。1年目のシーズンで初めて球審を担当した時に衝撃を受けた。思った以上に選手からのヤジが激しかった。両ベンチから挙がる「低いやろ!」、「高いわ!」、「さっきそこストライク言うたぞ!さっきと一緒や!」、「ウェイクアップ!(寝てんのか)」の怒声。すさまじい迫力だった。
立派な体格の選手たちが低く響く声でプレッシャーをかけてくる。それはそうだ。選手の明暗を分ける審判員の判定。「間違えた」で済む話ではない。選手の「クレーム」は誤審から自分たちを守る術でもある。球審の精度が著しく低い時には両軍ベンチが騒々しい状態となる。限度を超えた暴言には退場宣告をしなければならない。そんな最悪の事態を防ぐためにも、判定の精度向上に努める日々だった。審判員からすれば、そんな選手たちがどこのユニホームを着ていようが、誰であろうが一緒である。一瞬の隙も許されない商売相手に「ひいきしよう」などと考えたこともなかった。
(2)こちらも生活が懸かっている。
テレビ中継されている試合で誤審があった際に「選手は生活が懸かっていますからね―」なんて解説を聞いたことがある。それは審判員も一緒だ。全審判員は1年契約で、誤審をすればするほど「契約更新なし」が近づく。かといって年俸は一般のサラリーマンと大差のない金額。自分や家族の生活よりも特定の選手を優先してジャッジする審判員がいたら、顔が見てみたい。
以上が私が「ひいきしたことがない」と言い切れる理由だ。審判員を退職して7年経った現在も聞かれる「恒例の質問」。次回からは「これを読んでください」と言おうと思う。(記者コラム・柳内 遼平)
https://www.sponichi.co.jp/baseball/news/2023/03/06/kiji/20230305s00001173708000c.html