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「徴用工問題の解決」に焦る韓国・尹政権、「日本へのたってのお願い」はやはり「謝罪」と「献金」か
「強硬な原告団の一部」に振り回される韓日
日本外務省の船越健裕アジア大洋州局長は1月30日、韓国外交部の徐旻廷アジア太平洋局長と約3時間にわたって協議し、徴用工問題などについて協議した。日韓の両局長は昨年12月2日と今年1月16日にも東京で協議を行っており、わずか1ヵ月余りのうちに計3回も対面で協議を行ったことになる。しかし韓国政府関係者によれば、依然、日韓両政府間で、徴用工問題の解決策について認識の相違が残っているという。
複数の関係者の証言を総合すれば、「認識の相違」とは、韓国政府が提示した解決策に対する日本政府の「呼応措置」を巡るものだという。韓国政府は、韓国大法院(最高裁)が日本企業に命じた元徴用工らへの損害賠償金の支払いについて、韓国側の財団が肩代わりする解決策をまとめている。ただ、原告団の一部は、日本企業による謝罪と賠償金の支払いを求める考えを変えていない。
韓国政府は、強硬な意見を唱える一部原告団への説得作業を続ける一方、日本側に「呼応措置」を求めている。呼応措置は、
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1.過去の引用で構わないので、改めて過去の問題に対する日本政府の謝罪表明をお願いしたい 2.被告になった日本企業による何らかの形での韓国側財団への献金をお願いしたい
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という内容であるとみられる。
このうち、「過去の謝罪の引用」については、1998年の小渕恵三首相と金大中大統領による日韓共同宣言の引用が検討されているようだ。政府内では、1995年の村山富市首相談話も検討されているが、政府内で「アジア諸国が対象になっている村山談話より、日韓関係に絞った日韓共同宣言の方がより適切」という声が出ているという。
「個人的な献金を黙認する」くらい?
日本政府としては、共同宣言にある「小渕総理大臣は、今世紀の日韓両国関係を回顧し、我が国が過去の一時期韓国国民に対し植民地支配により多大の損害と苦痛を与えたという歴史的事実を謙虚に受けとめ、これに対し、痛切な反省と心からのお詫びを述べた」という一文を、何らかの形で引用する形に持っていきたいのだろう。ただ、自民党内の一部には、日韓共同宣言に強い嫌悪感を示す声も上がっている。
次に、「韓国側財団への献金」のハードルは更に高い。日本政府は2018年秋に、韓国大法院が損害賠償判決を出した頃から、日本の関係企業などに対して損害賠償や謝罪に応じないよう働きかけてきた。もし賠償や謝罪をすれば、1965年の日韓請求権協定を自ら否定することになる。そうなれば、この協定の基づいて積み重ねてきた日本の韓国に対する経済協力の根拠も失われる。
日本はもちろん、韓国にも多大な損害が発生し、外交関係が大混乱に陥ることが明らかだからだ。ここで、日本政府が企業に謝罪や募金に応じるよう働きかければ、従来の日本政府の立場と矛盾する。日本政府としては、該当企業の関係者が個人的に募金に応じることを黙認する程度が精いっぱいの対応だろう。
いずれにしても、この決断は外務省の事務当局だけではできない。現時点では、今月半ばにドイツで開かれるミュンヘン安全保障会議の機会に、林芳正外相と韓国の朴振外相が会談することが想定されている。外相同士が協議した結果を基に、外務省当局が自民党と公明党に承認を得る作業を行うだろう。自公両党の幹部が納得した案をもとに、岸田文雄首相が決断し、韓国側に最終回答することになる。
文在寅政権の最大の失政
韓国側は、尹錫悦大統領が早期の訪日を強く望んでいるという。韓国メディアが「尹大統領が3月10日に東京ドームで行われるWBC=ワールド・ベースボール・クラシックの日韓戦にあわせて日本を訪れ、岸田首相と一緒に試合を観戦する案を検討している」と報じたのは、こうした尹大統領の前のめりの姿勢を示している。韓国側としては、2月末にも日本側の最終案を得て、尹大統領が韓国政府が示した案によって徴用工問題の解決を図るかどうかの最終決断を下す、という形に持っていきたいのだろう。
牧野 愛博(朝日新聞外交専門記者)
https://news.yahoo.co.jp/articles/0785015102c4bea8144583c3b66ce53375c810f7?page=1