韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領が1月11日、独自核開発の可能性に言及した。岸田文雄首相は13日、ワシントンで米国のジョー・バイデン大統領と会談し、日本の防衛力強化を約束したが、核問題については「素通りした」も同然だ。それで日本は大丈夫か。
尹大統領の核武装発言について、なぜか日本のマスコミは、ほとんど報じていない。だが、当の韓国はもちろん、米国でも注目を集めている。尹大統領はいったい、何を語ったのか。
朝鮮日報によれば、尹氏は11日、韓国国防部と外交部の報告を受けた形で「北朝鮮による挑発がさらに激しくなった場合、戦術核兵器を配備し、独自の核武装を検討する」と語った。ただし「米国が各戦力を運用する過程で、韓国がそれに参加するのが現実的な手段」と付け加えた。
1月12日付のニューヨーク・タイムズによれば、尹氏は「核開発は、まだ公式な政策ではない。北朝鮮の核の脅しが高まれば、韓国は独自に核開発するか、あるいは、米国に核の再配備を求める。米国との同盟関係を強化することによって、北朝鮮の核の脅威に対抗できる」と語った。同盟関係強化とは「米国に核共有を求める」という話だろう。
韓国の野党系、ハンギョレ新聞は14日、大統領発言を取り上げ「波紋が大きく広がっている」と報じた。同紙によれば、大統領は「韓国の科学技術で、早期に韓国も(核兵器を)保有できる」と語ったという。
尹大統領が核開発の可能性に言及するのは、これが初めてだ。日本のマスコミが報じないのは半信半疑だったせいかもしれないが、感度が鈍すぎる。ロシアによるウクライナ侵攻を受けて、韓国では核武装の議論が高まっていた。大統領発言は思いつきではない。
沈黙を続ける岸田政権とマスコミ
マスコミの鈍さは、日米首脳会談についての報道にも表れている。左派マスコミは別として、概ね「日米同盟の抑止力を強化」とか「反撃能力の協力で一致」などと前向きに評価したものの、核問題についての解説や報道は皆無に近かった。識者たちのコメントも同様だ。
日米首脳会談の共同声明は「バイデン大統領は、核を含むあらゆる能力を用いた、日米安全保障条約第5条の下での、日本の防衛に対する米国の揺るぎないコミットメント(関与)を改めて表明した」とほんの一言、核に触れるにとどまった。
この素っ気なさについて、私が見た限りでは、産経新聞が社説で「物足りない点もある。…中国、北朝鮮、ロシアが核戦力を増強する中で、日本を守る核抑止態勢の具体的強化策は示されなかった。今後の課題である」と書いたくらいだ。
いまや「核の脅威」は避けて通れない。なぜなら、日本は中国、ロシア、北朝鮮という核を保有する独裁国家に囲まれている。次に、北朝鮮は繰り返し、日本周辺にミサイルを撃ち込んでいる。そして、ロシアは現実にウクライナを核で脅しているからだ。
にもかかわらず、岸田政権は「核の脅威」など存在しないかのように、核による反撃能力について、まったく沈黙している。昨年12月23日公開コラムで指摘したが、先に閣議決定した国家安全保障戦略など防衛3文書は「非核3原則を維持し、拡大抑止を含む日米同盟が安保政策の基軸」と書いたにすぎない。
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