2023?24年度の生活保護費について、厚生労働省が、世帯構成別に据え置きか増額の方針を決めた。物価高を考慮したという。ただ、それに先立ち、生活保護の基準見直しを議論した同省の部会では、多くの世帯で引き下げにつながりかねない検証結果が出ていた。弁護士ら支援団体は、検証方法を改めるよう求めている。社会保障の「最後のとりで」とされる生活保護の基準は、どうあるべきか。(中山岳)
◆生活保護受給者に苦しい物価高
「年明けから、よく買うもやしが1袋当たり10円ほど値上がりした。安いお店を回ることも体力的にできなくなってきている」。大阪市旭区の小寺アイ子さん(78)は、物価高のつらさを口にする。心臓や肝臓などの病気を患ったことをきっかけに、13年から生活保護を受けている。受給額は月約11万円。ここから家賃4万3000円や、食費、光熱費などをまかなうため、生活のゆとりは全くない。
電気代を節約するため日中は照明をつけず、エアコンの暖房もほとんど使わない。体調を崩し、毛布をかぶって寝る時間が増えた。1回100円を目安にこつこつ貯金し、孫にクリスマスケーキなどを買うことが楽しみだが、「昨年のクリスマスケーキは、例年より500円ほど高くなっていた」。おかずはひじきを作りおきし、数回に分けて食べる。バランスの取れた食事はできない。
◆厚労省の「基準額引き下げ」に待った
受給者がぎりぎりの暮らしを迫られる中、専門家でつくる厚労省の部会では昨年、追い打ちをかけかねない検証結果が出た。
部会は、食費や光熱費などに充てる「生活扶助」の基準額を巡り、生活保護を受けていない低所得世帯の消費水準と比べて、不公平が出ないように検証。すると、75歳以上の単身世帯などの生活扶助基準額が、低所得世帯の水準を上回る結果がでた。この結果をそのまま反映させれば、多くの世帯で生活扶助費が引き下げられる恐れがあった。
与党から危惧する声も出たため、厚労省は引き下げを見送った。小寺さんは「日ごろからぜいたくなどできない私たち年寄りの世帯に、なぜ引き下げの話がそもそも出るのでしょうか」と無念そうに話す。
◆コロナ禍前のデータが基…「検証手法に問題あり」
弁護士らでつくる「生活保護問題対策全国会議」は先月5日、部会の議論を踏まえて「『健康で文化的な最低限度の生活を保障する』という生活保護基準の機能が、さらに損なわれる恐れがある」という緊急声明を出した。事務局長の小久保哲郎弁護士は「引き下げ見送りは最低限の措置だ。物価上昇に対応できるように、生活保護水準をさらに引き上げることが必要だ」と主張する。
緊急声明では、厚労省部会の検証手法に問題があると指摘。検証に用いた参考データは、コロナ禍前の19年に行った全国家計構造調査で、コロナの影響や昨年の物価高を反映していない。さらに、検証で比較対象にする低所得世帯が、年収を段階別に分けたうち下位10%に当たることも問題視する。小久保氏は「こうした世帯は生活保護基準以下の厳しい暮らしをしている人もいる。比較対象にすると、生活保護基準が際限なく引き下げられる恐れがある」と説く。
小久保氏は、先月に実施した電話相談会でも高齢者らから「物価高でこのままでは暮らしていけない」といった切実な声が多く寄せられたとし、こう訴える。「厚労省は検証手法を見直すべきだ。そして、生活保護では、下回ってはならない絶対的な水準を、早急に確立することが求められる」東京新聞 2023年1月16日 06時00分
https://www.tokyo-np.co.jp/article/225473
◆生活保護受給者に苦しい物価高
「年明けから、よく買うもやしが1袋当たり10円ほど値上がりした。安いお店を回ることも体力的にできなくなってきている」。大阪市旭区の小寺アイ子さん(78)は、物価高のつらさを口にする。心臓や肝臓などの病気を患ったことをきっかけに、13年から生活保護を受けている。受給額は月約11万円。ここから家賃4万3000円や、食費、光熱費などをまかなうため、生活のゆとりは全くない。
電気代を節約するため日中は照明をつけず、エアコンの暖房もほとんど使わない。体調を崩し、毛布をかぶって寝る時間が増えた。1回100円を目安にこつこつ貯金し、孫にクリスマスケーキなどを買うことが楽しみだが、「昨年のクリスマスケーキは、例年より500円ほど高くなっていた」。おかずはひじきを作りおきし、数回に分けて食べる。バランスの取れた食事はできない。
◆厚労省の「基準額引き下げ」に待った
受給者がぎりぎりの暮らしを迫られる中、専門家でつくる厚労省の部会では昨年、追い打ちをかけかねない検証結果が出た。
部会は、食費や光熱費などに充てる「生活扶助」の基準額を巡り、生活保護を受けていない低所得世帯の消費水準と比べて、不公平が出ないように検証。すると、75歳以上の単身世帯などの生活扶助基準額が、低所得世帯の水準を上回る結果がでた。この結果をそのまま反映させれば、多くの世帯で生活扶助費が引き下げられる恐れがあった。
与党から危惧する声も出たため、厚労省は引き下げを見送った。小寺さんは「日ごろからぜいたくなどできない私たち年寄りの世帯に、なぜ引き下げの話がそもそも出るのでしょうか」と無念そうに話す。
◆コロナ禍前のデータが基…「検証手法に問題あり」
弁護士らでつくる「生活保護問題対策全国会議」は先月5日、部会の議論を踏まえて「『健康で文化的な最低限度の生活を保障する』という生活保護基準の機能が、さらに損なわれる恐れがある」という緊急声明を出した。事務局長の小久保哲郎弁護士は「引き下げ見送りは最低限の措置だ。物価上昇に対応できるように、生活保護水準をさらに引き上げることが必要だ」と主張する。
緊急声明では、厚労省部会の検証手法に問題があると指摘。検証に用いた参考データは、コロナ禍前の19年に行った全国家計構造調査で、コロナの影響や昨年の物価高を反映していない。さらに、検証で比較対象にする低所得世帯が、年収を段階別に分けたうち下位10%に当たることも問題視する。小久保氏は「こうした世帯は生活保護基準以下の厳しい暮らしをしている人もいる。比較対象にすると、生活保護基準が際限なく引き下げられる恐れがある」と説く。
小久保氏は、先月に実施した電話相談会でも高齢者らから「物価高でこのままでは暮らしていけない」といった切実な声が多く寄せられたとし、こう訴える。「厚労省は検証手法を見直すべきだ。そして、生活保護では、下回ってはならない絶対的な水準を、早急に確立することが求められる」東京新聞 2023年1月16日 06時00分
https://www.tokyo-np.co.jp/article/225473