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ソフトバンク、トラウマだった勝てないFA交渉 球団が「近藤健介争奪戦」勝因分析
それはプロ野球FA史上、まれに見る歴史的な争奪戦だった。ソフトバンクは、今ストーブリーグで日本ハムから海外FA権を行使した近藤健介外野手(29)を獲得。同一リーグの5球団による大争奪戦を制して、補強リストの最上位に位置づけていた実力者を迎え入れることに成功した。
プロ11年間の通算打率3割7厘、出塁率4割1分3厘。相手にするとやっかいな巧打者にライバル球団が飛びついたことこそが、近藤の「真の価値」を物語っている。ソフトバンク陣営としては「取れた」という喜びよりも「他球団に取られなくて良かったう受け」とい止めも、事実少なくなかった。
資金力はあっても、金だけでは勝てない戦いはトラウマでもあった。2018年オフの苦い過去がよぎる瞬間もあったはずだ。当時の西武・浅村とオリックス・西のダブル獲得を目指し、終始一貫して最高評価を交渉の席で提示し続けながら、それぞれ楽天と阪神に屈した。ライバルも資金力豊富な球団ではあったが「人の縁」と「地縁」で分の悪さを露呈した形だった。
なぜ「近藤争奪戦」に勝利できたのか。ある球団首脳はこう語る。「交渉を重ねる中で、最近の選手の傾向として『フロント主導』のチーム強化に好感を持っている選手が多いと感じている。球団内の諸々のシステムだったり、選手育成や強化の取り組みの部分。いわゆるメジャー流の組織、システム。そこに共感してもらっているという感触がある」。勝因の分析を進める中でストロングポイントとして挙がったのが、フロント主導のチームづくりだった。選手の起用や采配は言わずもがな監督や首脳陣に決定権があるが、それ以外の最終決定権はフロント。現場の意見は集約するが、あくまでフロントの考えが形になる。監督に大きな裁量権を委ねる球団もある中で、強力なフロント主導体制が「今の選手」に響いているという。
2021年まで7年間チームの指揮を執った工藤公康前監督が、在任中に選手獲得を含めたフロント案件に一切口を出さなかったことは語り草で、それだけ現場とフロントの線引きは当事者間で共通理解が構築されてきた。野球界にも〝時流〟はある。数年前までは感じ取られなかったものが、今は魅力的に映ることがあってもおかしくない。
選手個々の評価システムも当然ながら12球団さまざまだが、ソフトバンクはメジャー流に近い。出せるに越したことはないが、お金だけでは勝てないFA交渉。今の選手は何を欲しているのか――。近藤を筆頭に大型補強を完結させた鷹は、積年の課題に一つ答えを見出そうとしているのかもしれない。
福田孝洋
https://news.yahoo.co.jp/articles/f274408226423a0d42b1525ecad69729204187b2