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<第99回箱根駅伝>「他大学のエースと勝負したい」鳴り物入りで入学したルーキーが、名門・早稲田大学復活への足掛かりを築けるか
https://number.bunshun.jp/articles/-/855686
2022/12/12 10:01
前回の箱根駅伝で早稲田大学は序盤から出遅れ、総合13位に終わった。学生のみならず日本の長距離界全体においてトップランナーの証とされる10000m27分台を持つ選手を3人も擁しており、それぞれの選手が額面通りの力を発揮できれば、上位争いにも加われたはずだ。それが、シード権を失う結果になるとは思いもしなかっただろう。
屈辱のシード落ちを経て、箱根駅伝で総合優勝13回を誇る名門が変わろうとしている。2022年6月に早大OBの花田勝彦氏が駅伝監督に就任。前駅伝監督の相楽豊氏は、チーム戦略アドバイザーという肩書きで引き続きチームをサポートしている。
花田監督は、選手として学生時代に箱根駅伝総合優勝を経験し、社会人では五輪に2度出場している。また、指導者としても、上武大学を箱根駅伝初出場に導き、実業団のGMOインターネットグループではマラソンを中心に多くの好選手を育成してきた。
着実に力を発揮できる選手が増えてきた
その手腕をさっそく母校でも振るっている。3年ぶりの箱根駅伝予選会は4位で通過。その3週間後の全日本大学駅伝は6位となり、シード権を守った。それぞれ「3位以内」という目標には届かなかったものの、花田監督が想定していた範囲内で走れた選手が多かった。これまでの早大は、良い時と悪い時との差が大きかったが、着実に力を発揮できる選手が増えてきたということだろう。
箱根駅伝予選会のレース前に、花田監督がチーム内のトップ候補に挙げていたのが、4年生の井川龍人とルーキーの山口智規だった。山口は、1年生ながら、高い期待を背負ってレースを進めていた。
山口は、5000m高校歴代3位(当時、13分35秒16)の記録を引っ提げて早大に入学。入学して間もない5月に開催された関東インカレでは5000mに出場し、さっそく対校戦デビューを果たした。しかし、直前に右ふくらはぎを痛めていたこともあって、決勝では、三浦龍司(順天堂大学・3年)らを相手に全く歯が立たなかった。
初めてのハーフマラソンでチームトップ
「スタートラインに立つからには“三浦さんに勝つんだ”くらいの気持ちでレースに臨みたい」
レース前にそう話していた山口は、走り終えて涙を流した。本気で勝ちにいくつもりだったからこそ、悔しさがこみ上げてきた。その負けん気の強さは大きな武器でもあった。7月には箱根駅伝予選会の前に、初めてのハーフマラソンに挑戦した。
「高校の時も、1キロ3分ペースは余裕があったので、ハーフマラソンを走ったらどれくらいで走れるのかなって考えたことがありました。調子が良かったので、後半にしっかり上げられるように前半は抑えめに入り、こぼれてくる選手を少しずつ捉えていくっていう走りをしました」
練習の一環という位置付けで、調整もせずに出場したにもかかわらず、山口はチームトップの1時間3分9秒で走り切った。トラックだけでなく、ロードの長い距離でも実力を示した。
「ハーフを走れたとはいえ、箱根駅伝となると舞台は違う。夏の鍛錬期は必要」
1回の好走にもおごることなく、夏もしっかりと走り込んだ。そして、指揮官からの信頼を強固なものにした。
箱根駅伝予選会でのミス「トラウマにならないように」
しかし、箱根駅伝予選会では、タイムを稼ぐ役割を担うはずが、レース終盤にアクシデントに見舞われた。突然、過呼吸に陥り、立ち止まってしまったのだ。最後まで走り切ったものの、チーム内最下位に終わり力を発揮できなかった。それでも、1回失敗したぐらいでは、指揮官の山口への信頼は崩れない。
「トラウマにならないように、彼には成功体験を積ませたい」
花田監督は山口を気遣いつつも、全日本大学駅伝では前半の山場となる4区を任せた。そして、山口は、その期待に見事に応えてみせた。
「駅伝で1区を走るのが嫌だった」
3位でたすきを受けた山口は、序盤はなかなかペースが上がらず、3秒前にスタートした順天堂大学の石井一希(3年)に一気に引き離されてしまう。だが、これは山口には計算のうち。
「箱根駅伝予選会の疲労があったので、前半はゆっくり入りました」と言うように、冷静に自分の状態を見極めてレースを進めていた。終盤にペースアップすると、石井をかわして、2位でたすきをつないだ。区間賞は同学年の山川拓馬(駒澤大学・1年)に譲ったが、1年生らしからぬクレバーな走りで、区間3位と好走。箱根駅伝予選会の悪いイメージをすぐに払拭してみせた。
発言の節々に負けん気の強さを覗かせる山口だが、夏に話を聞いた際には、こんなことを口にしていた。
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