あわせて読みたい
阪神 岡田監督の「アレ」は言葉隠す“チラリズム”効果 印象的な口癖人気の秘密を「深掘り」
そら人気よ! 阪神岡田彰布監督(65)の独特なコメントが注目を集めている。来季の目標「優勝」を「アレ」に置き換えると、早々にチームに浸透。チームスローガンが「A.R.E.」になったほどだ。会話に度々挟まれる「おーん」、12月上旬に球団が商標登録出願した「そらそうよ」など、印象的な口癖もSNSなどで反響を呼んでいる。近大総合社会学部で理論言語学を専門とする石井隆之教授(66)が、人気の秘密を「深掘り」した。【取材・構成=波部俊之介】
◇ ◇ ◇
10月16日の就任会見以降、「岡田語録」は日刊スポーツのウェブサイト「ニッカンコム」内でアクセスランキング1位になったことも、1度や2度ではない。なぜ、人気なのか-。石井教授は「いろんな角度から見ても絶妙な感じが出ている」と多角的に分析する。
<1>「アレ」はチラリズム
優勝を言い換えた「アレ」は、今や阪神の流行語だ。選手は来季の目標を問われると、お決まりのように「アレです」と答える。あえて「優勝」の言葉を隠すこの手法を、石井教授は「興味を引かせるという方法」だと説明する。
石井教授 ちょっと(言葉を)隠すことによって、奥深さが増すんです。
石井教授は、室町時代の能の大成者である世阿弥の言葉「秘すれば花」を用いて説明する。手の内を隠しながら演者が急に技を見せると、どんなものでも「すごい」と感じてしまう。
石井教授 大したことがないものでも、隠したらなんでも素晴らしく見えるという手法です。
いわば“チラリズム”効果といったところか。あえて隠すことで価値を上げる。そんな言語学的な効果があった。その上で「アレ」について分析する。
石井教授 「アレ」と言うことによって秘められた感じがする。はっきり言わないことで、奥深さや謙虚さを表現できる。隠すことで「え、なんやろ?」と1度考えさせて、興味を引かせているんです。
この技術は言語学者や音声学者が教えて身に付けられるものでもないという。
石井教授 生きている中で自然に身に付いているものだと思う。これまでの経験がものをいってるのかなという感じがします。
岡田監督はあくまでも自然体。狙っていないからこそ、引きつけられる。
<2>心地よい「おーん」
さらに「岡田語録」ならではの独特なフレーズがある。インタビューでは度々「おーん」という言葉が漏れてくる。話のつなぎ、質問者への同意…。随所に登場するこのワードにこそ、「岡田語録」が人気の理由が隠されている。
石井教授 会話のつなぎで、これ(おーん)を言う人はあまりいない。そういう時に出てくる言葉って「えー」とか「あー」とかが多い。「おーん」というのは、実は最も心地よく耳に響く音なんです。
その根拠として「オン」という言葉が、宗教に取り入れられている事実がある。密教(※1)の世界では、「オン」=「聖音」。仏様とつながるために「オン」から始まる言葉が使われることがある。
石井教授 たとえば薬師如来にお祈りする時は「オンコロコロセンダリマトウギソワカ」と唱える。そうやって宗教にも自然に取り入れられている「オン」が自然に出てきているのは、ある意味すごい。
インタビューでは、その聖音がサブリミナル的に文中、文末にちりばめられている。ファンは気づかないうちに心地よさを感じているのかもしれない。
また、人間が口を開けて自然に声を出すと「おーん」という音になりやすく、人間が発する原始的な音でもあるという。何げない口癖にも秘密が隠されていた。
<3>会話の黄金比
ワードチョイスだけではない。話し方や雰囲気も、人を引きつける完璧なバランスを持ち合わせていた。
石井教授によれば、言葉の情報が相手にどれだけ伝わるかは「メラビアンの法則」(※2)によって分析できる。人と人とのコミュニケーションにおいて、視覚情報(見た目)が55%、聴覚情報(声のトーンなど)が38%、言語情報(言葉の内容)が7%のウエートで、影響を与えるという心理学上の法則の1つだ。
石井教授 見た目と話し方がバラバラだと、どっちを信じたら良いのか分からない。ニコニコ笑いながら怒った人は、本当に怒ってるのかなと思ったり。
この法則に基づくと、指揮官の温厚な見た目(視覚情報)と関西弁の話し方(聴覚情報)はマッチしており、割合は計93%となる。
石井教授 発言の内容がもたらす影響は7%ですから、しゃべってる時の雰囲気が良ければ、批判的な内容を話しても重く受け取られにくいんです。
理論上では、何を言おうと93%は相手に伝わる。コミュニケーションの“黄金比”を自然と実践していたということだ。
石井教授いわく「マジカルパワーというか。言葉の観点と、心の観点で引きつける力がある」。その一言一句には引きつけられる理由が詰まっていた。
◆岡田監督の「アレ」 オリックス監督時代の10年、交流戦で選手が意識しすぎないように「優勝」とは言わず「アレ」と表現。コーチや報道陣まで「アレ」と表現し、初優勝を飾った。交流戦優勝グッズとして「アレしてもうた」Tシャツが売り出されるほど流行語となった。
◆石井隆之(いしい・たかゆき)1956年11月27日、大阪府生まれ。河合塾英語講師、摂南大非常勤講師などを経て、現在は近大総合社会学部教授。言語を理論的に分析する理論言語学や英語教育を専門とする。10年から現在に至るまで言語文化学会会長も務める。
※1…密教は仏教の中でも非公開の部分が多く、秘匿性の高い教え。日本の仏教では空海の真言宗や、最澄の天台宗が代表的である。
※2…「メラビアンの法則」。カリフォルニア大学の心理学者アルバート・メラビアンが分析したコミュニケーションにおける3つの分析要素のうちで、視覚情報(見た目)が55%、聴覚情報(声のトーンや質など)が38%、言語の内容が7%、相手に影響するというもの。
〇…阪神岡田監督が年末年始はオフモードに突入する。10月の就任から着々と準備を続けてきた。就任翌日から言い続ける「アレ(=優勝)」もすっかり世間に定着した。「(年末年始は)ゆっくりするだけやで。(野球のことは)全然考えてないよ。今ごろ考えても余計に疲れるだけよ」。1月には新人合同自主トレ視察も予定。「みんなが自主トレする姿とか(見ると)そうなっていくわな」。徐々にスイッチを入れる。
https://news.yahoo.co.jp/articles/8acd150365259d9f1695f34e94ebdb0a71b6726c
一監督の口癖を言語学の研究者が密教の例えを出して論じているの謎すぎ
【阪神】岡田監督の「アレ」は言葉隠す“チラリズム”効果 印象的な口癖人気の秘密を「深掘り」 https://www.nikkansports.com/baseball/news/202212280001028.html?utm_source=twitter&utm_medium=social&utm_campaign=nikkansports_ogp …