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初代ガンダムの「足の裏」に噴射口はあった? TV版と劇場版で違うワケ
初代ガンダムの「足の裏」に噴射口はあった? TV版と劇場版で違うワケ …初代ガンダムの設定のナゾ 現在では、ファンの間で当たり前のように知られているアニメロボットのさまざまな設定。ですが、こうした設定は、どれもが初めから… (出典:マグミクス) |
🤔初代ガンダムの「足の裏」に噴射口はあった?
TV版と劇場版で違うワケ?
1979年のTV版第14話「時間よとまれ!」の最後の方でガンダムが足を投げ出して座っている映像があります。
ところが、この足裏には何も描かれていません(足の形が違うのはご愛敬)。
一方、同じガンダムの劇場版には、足裏に噴射口が描かれている場面があります。
そして、この劇場版が制作されるより先に発売された、最初のガンダムのプラモデルの足の裏は何もない平らなのです。
この違いはどうして起こったのでしょうか。
実は、当時、ガンダムの足の裏は設定になかったからなのです。
でもこれは、当時のアニメロボットでは珍しいことではありませんでした。
1960年代に『鉄腕アトム』や『鉄人28号』を皮切りに始まったTVのロボットアニメ番組は、1970年代に入り『マジンガーZ』が、いわゆる「巨大ロボットもの」と言われるひとつのジャンルを成立させますが、つねに低年齢の子供向け番組として作られていました。
当時の巨大ロボットの多くは、体の一部が開いてミサイルが飛び出したり、目からビームを発したりします。
また、刀や槍のような「柄物」やオリジナルの銃器を使うものも登場しました。
さらに変形や合体など、メインスポンサーである玩具メーカーの製品イメージを高めることを意識したものが中心でした。
そんなさなかに登場したのが『機動戦士ガンダム』です。ただしそこに出てくるメカには、それまでと同様の武器などとともに、現実の戦いや科学的な要素も多く盛り込まれていたのです。
『ガンダム』以前のロボットアニメ制作の現場では、たとえば脚本に「ミサイルを撃つ○○ロボ」と書いてあったり、演出家が、作劇上ここでミサイルを撃った方がいいと考えたりすれば、そのロボットにミサイル装備の設定がなくとも、適当な場所からミサイルを発射する絵を作ってしまうこともありました。
当時の現場スタッフの間では「穴があればミサイルが出る」なんて笑い話があったほどです。
こんなことが可能だったのは、子供用番組は理屈を重要視せずとも済むとの認識だったこと、そして整合性に厳しくない玩具がメイン商品だったという「逃げ」もあったのです。
そのぶん、脚本家や演出家も自由に画面を作れ、それを後付けで設定にすることも許してしまえる、時代の「おおらかさ」や「臨機応変さ」がありました。
ところが「モビルスーツ」という、それまでのロボットとは違った概念を持ったガンダムは「リアル」という評価を得て、玩具よりも「プラモデル」で注目されることとなりました。
プラモデルの箱に同梱されている組み立て解説書には、たとえその対象が架空であっても、詳しい情報が記載されます。となれば、これに対応した細かな設定も必要になります。
同時に、このころから一気に増えていったアニメ誌も、詳しい情報や設定を欲しがります。
この流れは、ハイティーンのみならず、大人にもガンプラが注目されることで、さらに大きくなっていくのです。
本体は三機合体、武器にはビームライフルとビームサーベル、さらにはビームジャベリンや鎖鉄球のガンダムハンマーなど、ガンダムの基本設定は、明らかに巨大ロボットそのものです。
ですが、それらを使いながら繰り広げる戦いが「ガンダムはリアルロボット」と言わしめました。
足裏の設定など無用だった玩具ロボットが、緻密な情報を求められるプラモデル界に飛び込む! つまり『ガンダム』は、設定など気にせずに作られてきた「巨大ロボットもの」と「リアルロボットもの」の橋渡しとなった、どちらの要素も持った作品だったのです。
ですから、劇場版ガンダムの足の裏の噴射口は、ガンダムが「巨大ロボットからリアルロボットへ」と変化していく時代の現れ、ということになるのかもしれません。
【著者】
風間洋(河原よしえ)