早吸日女神社の拝殿はタコ、タコ、タコ…
境内を埋め尽くすのは、タコ、タコ、タコ…。豊後水道に突き出た佐賀関半島の先端に、早吸日女(はやすひめ)神社はある。
創祀は紀元前667年、7万平方メートル超の広い境内に12の社(やしろ)を擁する由緒正しい神社だが、その光景はまさに「奇異」。至る所でタコがにらみをきかせている。
参道にはかわいらしくデフォルメされたタコのオブジェが並んでいる。だが、特筆すべきは本殿を埋め尽くす無数のリアルなタコの絵だ。その絵には「奉納」という文字と、願い事が書かれている。
これは一体何? 宮司の小野眞一郎さんに聞いてみると、早吸日女神社にはタコの絵を奉納し、任意の期間、タコを食べない「タコ断ち」をすることで願い事がかなうという習わしがあると教えてくれた。なんと宮司家は代々タコを食べないらしく、小野宮司は生まれてから44年間、タコを食べたことがないという!
小野宮司はさらに早吸日女神社がタコを祀るいわれも教えてくれた。
伝説によると紀元前667年、神武天皇が東征の際に、海中で大ダコが守っていた剣を取り上げると荒れていた海が静まった。剣は伊弉諾尊(いざなぎのみこと)が海中におさめたもので、神社では現在もその剣を神体として奉っている。
そして、やけにリアルなタコの絵は昭和20年代ごろ、先代の宮司が知り合いに依頼して描いてもらったのだそう。「海が近いので、昔から漁師さんたちが海上安全の祈願で奉納していたんですよ」と小野宮司。今では漁師以外にも毎月2~3人が祈願に訪れ、願い事を書いたタコの絵を奉納する。数えてみるとその数441枚。薄黒く変色したものや破れたものなど、年季の入ったものも多い。
さて、せっかくなので初穂料1000円を納めて祈願した。願い事は「ラブ&ピース(愛と平和)」。かつてジミ・ヘンドリックスやボブ・マーリーが叫んだ言葉を繰り返さなければならない世界を寂しく思う。そうそう、「タコ断ち」期間は3カ月。ちなみに神社から一番近い「江戸ずし」にはタコのすしがあった。(是)