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多くの人に愛されているへたれガンダム(福島市平石地区で)
丸みを帯びた顔や少しがに股の足が「絶妙なへたれ具合」。同地区の道路沿いには、市内のアマチュア鉄作家が制作したガンダム像がある。2010年頃に設置された約2メートルの像は「へたれガンダム」の愛称で親しまれ、ファンが自主的に 錆さ びた体を塗り直すなどしてきた。
世間をにぎわせたのは20年5月のこと。へたれガンダムが手に持っていた「ビームライフル」が何者かに盗まれ、新聞やテレビなどで報道されると、福島県内外のファンらから代わりの武器が次々と「お供え」された。
寄贈された武器は10点を超え、地区では像の横に武器置きを設置。住民らは「こんなに愛されているへたれガンダムに、二度とこのようなことが起きないように」とお金を出し合って防犯カメラまで設置した。
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賽銭箱には浄財があふれていた
あれから約2年半。地区を再び訪れると、へたれガンダムに新たな変化が生まれていた。目をひいたのは、ビームライフルの上に置かれた「 賽さい 銭箱」。硬貨が山のように積まれ、入り切らない分は、像の首もとや腰のすき間に並べられていた。足元には、水やへたれガンダムの絵もあり、阿部克己区長(73)は「まるで神社みたい。へたれガンダムは神様になっちゃったんだね」と目を細めた。
「浄財」は盗難事件後、訪れた人が「武器を供えられない代わりに」と置いていくようになったようだ。今年1月頃、誰かが賽銭箱を置いたのをきっかけに一気に増え始め、これまでに約1万2000円が集まったという。「正直、地区の由緒ある神社よりも多い」と阿部さんは笑う。お金はへたれガンダムの修繕や塗装などに充てられるという。
「癒やされたので感謝の気持ち」「賽銭箱があったから何となく」。へたれガンダムを見に来た人たちは、そう言ってお金を入れ、静かに手を合わせていた。宇都宮市から訪れた男性(56)は「ガンダムはボロボロになりながらも戦い続ける姿がかっこいい。そんな強さにあやかれるように願掛けをさせてもらった」と語った。9歳の孫と訪れた福島市の女性(76)は「へたれガンダムのおかげで、こうして孫と一緒に出かけられる。この幸せが長く続くように、見守ってくださいとお願いしました」と笑った。
色を塗り替え、武器を供えて賽銭箱に浄財を投じる。12年間、立ち続けるへたれガンダムを支えているのはファンたちの愛だ。この話を多くの人に知ってもらいたいと筆を執った私はふと思った。「各地に残る伝説の始まりも、実はこんな感じだったのかもしれない」。へたれガンダムが伝説になることを祈りながら、賽銭箱に浄財をお供えした。(井上大輔)