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忙しそうな上司に相談を持ちかける時「1分だけいいですか?」と言ってはいけない!
★☆会話はリズミカルに優先順位を!
■「リモートワークだと意思疎通が難しい」は本当か
コロナ禍でリモートワークが広く導入されたことで、ビジネスの現場は一変しました。昨今問題になっているのは、リモートワークで意思疎通がうまくいかなくなった、あるいは、そのため業務に支障が生じ、生産性が低下した、というようなケースです。
なかには、リモートワークの導入で業務上の無駄を省き、生産性向上を実現しているチームもあります。それを考えれば、うまくいかないチームには、リモートワーク以外にも何か別の要因が隠されていそうです。
そこで、クロスリバーが800社17万人の調査をしたところ、意外な結果が明らかになりました。「リモートワークではコミュニケーションがうまく取れない」のではなく、そのようなチームは、「そもそもみんなが出社して仕事をしていた時からコミュニケーションがうまく取れていなかった」のです。
■「今ちょっといいですか?」が言えるチームは強い
リモートワークでも出社しても成果を出し続けるチームは、うまくいっていないチームに比べて社内会議時間が24%少なく、資料作成時間は25%少ないことが分かりました。また、メンバーの欠勤は、うまくいっているチームのほうが31%少なく、離職率も18%低いことが分かりました。
会議を減らして会話を増やし、悩みや喜びを共有できる状態、すなわち、「心理的安全性」があるチームは短い時間で成果を出すことができる、ということです。
チャットの履歴を分析したところ、うまくいっているチームは会話において「今ちょっといいですか?」というフレーズを最も多く使っていることが判明しました。一般的なチームの実に4倍以上。
メンバー同士で協力関係が成り立っていて、それゆえ互いに「(以前に助けたことがあるから)今回は頼ってもいい?」と聞くことができるのです。
したがって、まずは「今ちょっといいですか?」といつでも言い合えるチームになることが重要です。しかし、話はここで終わりません。
■相手の時間を奪うことを避ける5%社員
調査を進めたところ、さらに興味深いことが分かりました。
「心理的安全性」が高く、何でも言い合えるチームに所属していた「人事評価トップ5%社員」は、20代の頃、あえて「今ちょっといいですか?」や「1分だけいいですか」といった声かけをしないようにしていた、というのです。
上で述べた、成果を出し続けるチームの利点を自分から捨てるような行為です。これはいったい、どういうことなのでしょう。
詳しく話を聞いたところ、5%社員は、空気を読まずに話しかけて相手を不快にさせてはいけないと、唐突に話しかけることを避けていました。相手を気遣い、相手の都合や喜怒哀楽の変化をうかがいながら、声をかけるタイミングを計っているようです。
■過剰な気遣いのマイナス面を理解して「気遣い」する
一般的に、過剰な気遣いは、チームワークに支障を来すことが調査で分かっています。過剰な気遣いがあると社内会議が増え、会議のための会議が開催されることになりがちです。
上司に気遣いすると作成する資料ページも増えます。重要そうな情報を集めて必要そうなページを作っても、実は上司はまったく必要としていないケースは、クライアント企業でも多々起きていることです。
重要な資料は9割使われますが、重要“そうな”資料は2割しか使われません。調査の結果、上司と部下との認識ギャップが不要な作業時間を生み、「残業沼」にハマる一因となっていることが判明しました。
にもかかわらず、5%社員は、あえて気遣いをすることを選択しているのです。
■「1分だけいいですか?」が1分で終わる可能性は1%未満
そもそも「1分間だけ(話しても)いいですか?」と声をかけても、話が1分で終わることはまずありません。本当に1分で終わる確率は1%未満でしょう。
わざわざ会議や打ち合わせの時間をセッティングするほどではない内容だから、忙しい相手に「1分だけ」という表現になるのでしょう。また、相談を持ちかける側にも「『1分だけ』と言えば、相手は忙しくても手を止めて話を聞いてくれるはず」という目論見があるのではないでしょうか。
しかし、1分どころか、10分経っても20分経っても話が終わらなければ、相手の「信頼」を損ねることにもなりかねません。
5%社員は、「信頼」を得ることを20代のトッププライオリティに置きます。20代で「信頼」を得て、30代以降に「一緒にやらないか?」と重要なプロジェクトなどに抜擢(ばってき)されることを狙っているのです。
「信頼」を積み重ねなくてはいけない20代で、「1分だけいいですか?」と軽はずみな声かけをして、かえって相手の信頼を損ねるようなヘマをしない戦略を採っていたのです。
■「お膳立て」で期待値コントロール
それでは、5%社員が20代の頃にどうやって上司との認識ギャップを埋めて、相手から「信頼」を得ていたのか。共通点は2つありました。
1つめは「期待値コントロール」です。
これは、上司が心の中で設定している、「相手はこういう行動をしてくれるだろう」「その結果、このような成果が出るだろう」などという“期待”を、適切なものになるようにうまく調整することです。
上司というものはネガティブ・サプライズ、つまり不意に時間を奪われることを嫌がります。管理職は予定が詰まっていて、こなすべき業務が多く、文字通り分刻みで動いていることもあります。
前触れもなく突然話しかけると、「信頼」を得るどころか不快に思われて、「面倒くさい新人」などと認識されるリスクがあります。
そこで5%社員は共通して、20代の頃から事前にうまく予告をすることで、上司の期待値をコントロールしていました。
■上司を巧みに巻き込む力
たとえば、出張報告書の作成を課長から指示された時。5%社員は「進捗20%程度で、一度チェックしてもらえないでしょうか」と、その場で上司の許可をもらいます。上司との認識ギャップを埋め、期待値を把握しながらそれを超えるように行動します。
あるいは、難しい顧客対応を上司から任された時。5%社員は「謝罪訪問が必要になるようなクレーム対応の際は、炎上しないように早めに声をかけさせてください」などとあらかじめ断るようにしています。
顧客と実際にやりとりをして、リスクが現実のものとなりそうな気配になったら、速やかに「謝罪訪問になりそうな例の案件の対処について、ご相談してもよろしいでしょうか」と上司に声かけをします。
必要があれば、上司に声をかけて助けを求めることは業務上当然のことです。しかし、それが「不意打ち」かつ「期待値を下回る結果」にならないように、あらかじめ上司と上手に状況や条件を共有します。
このようにして、上司の期待値を良い意味でコントロールすることで、「ほうれんそう(報告・連絡・相談)がしっかりできる新人だ」と認められるといいます。
■「結論ファースト」で上司の心理ハードルを下げる
2つめは、声をかける際の「一言目の工夫」です。
5%社員は20代の頃から、上司は忙しいということを前提に、「何のために何をすべきなのか」を端的に伝えるようにしています。
たとえば、流通サービス業の5%社員と、金融機関の5%リーダーは、ヒアリング調査の際に「最初の10秒で要点を伝えること」をモットーにしている、と話してくれました。別個の機会に聞いたのですが、まったく同じ内容だったことが非常に強く印象に残りました。
具体的には、「今ちょっといいですか? 実は再来週の木曜午後に予定されているA社の見積価格について相談がありまして……」というような声かけの仕方はしません。
どんな目的から、上司にはどのように行動してほしいのか、「相手に求めるアクション」を最初の10秒で伝えます。
■「10秒で伝える」技術
たとえば、「10億円の商談のA社への見積もりについて、3つの案のうち1つ選んでいただきたいのですが」などと伝えて、上司と相談する時間をしっかり確保します。
また、重要な情報だけに絞り、相手に求める行動を先に伝えてしまうだけでなく、回答を絞ることもしていたそうです。
つまり、「どう思いますか?」と自由に答えられるオープン・クエスチョンではなく、選択肢を複数提示し、その中から上司に選ばせるクローズド・クエスチョンをします。そこに自分の見解も添えて、しっかり調査・検討したうえで相談していることを上司にアピールします。
「3つの案がありますが、私はリターンが最も大きいA案が良いと思います。課長はどの案が良いと思われますか?」
「イベント時のセキュリティ対策について確認したいので、IT部門の本田さんではなく、総務部の吉田さんに相談するとよいでしょうか?」
このように聞けば、たとえ忙しい相手であっても、「これならすぐ答えられそうだ」「情報・条件が整っているから、自分は判断だけすればよい」と考えて、さっと時間を割いてもらえるのです。
■「できる学生」「できない学生」はここが違う
「自分は5%社員のようにはできない」と思った方もいるかもしれません。しかし、そんなに難しい話ではありません。たとえば、あなたが学生から就職活動の相談を受けた時を想像してみればよく分かると思います。
一般によくいる学生は、「どの会社に就職するといいでしょうか?」などと聞いてくるのではないでしょうか。
一方、結果的に就活に成功する“できる学生”は、「私は営業力を鍛えたいのでA社に就職したいと思いますが、賛成ですか?」などと具体的に聞いてきます。自分で調べ、悩んだうえで、仮説を立て、自分なりの意見を整えて、選択肢を並べて質問をしてくるのです。
あなたが相談を受けたとしても、前者のように、あまり考えずに漠然とした相談をされるより、後者のほうが「真剣に支援しよう」「経験を伝えよう」と思うのではないでしょうか。
■20代で信頼を獲得し、30代で抜擢される
5%社員が20代などの若い頃から実践していることも同じです。
自分でしっかり考えたうえで、相手に相談する。その姿勢は相手を魅了し、支援を受けやすくなります。
自分で調べて考え、自分の意見を整えてから、相手に配慮しつつコミュニケーションをして相手を巻き込む。
こうした、ある種“したたか”ともいえるアプローチによって、20代のうちから「信頼」を高め、30代で要職に抜擢されるのを待っている。それが5%社員です。
■「声かけ力」が人生を分ける
最後に、声かけのうまい人とそうでない人とで、現実にどのような「差」が生まれるのか、同じ商社に同期入社したAさんとBさんの実例を見てみましょう。
要領がよく、愛くるしい笑顔が魅力的なAさんは、先輩たちからもかわいがられ、のびのびと仕事に取り組むことができました。上司や先輩には何でも気軽に話しかけることができ、いつでも助力が得られる環境でした。さらには、同期に比べてずっと大きな取引案件を任されることもあったそうです。
そんなAさんを取り巻く状況が一変したのは、入社6年目のことでした。
■周囲の優しさに甘えたAさんの大失敗
上司が変わり、新人が2人同時にチームに加わりました。すると、先輩たちの態度が大きく変わったのだそうです。それまでは急に声をかけても気さくに応じてくれたのが、にわかに当たりが厳しくなりました。
「そんなことも分からないのかよ。今まで何やってたんだよ、後輩が見てるぞ」
実はAさんは、新人ないし一番の若手として優しく扱われる状態に甘んじ、十分な成長ができていなかったのです。その後、チームが新人2人の教育にエネルギーを注ぐようになる中で、Aさんは事実上放置されてしまいました。
Aさんがようやく一人で仕事を回すことができるようになったのは、30歳を過ぎてからだったそうです。ずいぶん遠回りをすることになってしまいました。
■不遇の状態をチャンスに変えたBさん
一方、怖い上司の下に配属されたBさん。Aさんのように周囲からかわいがられるような環境ではありません。上司の機嫌を気にしながら業務をこなす毎日で、しっかりした教育や指導を受けることもなかったそうです。
そこでBさんは、いきなり成功を目指すことはせず、失敗を積み重ねてやがて大きな案件を取り扱えるようになろうと、経験を積み重ねていったそうです。
上司や先輩にいきなり聞くのではなく、まず自分で少しやってみて、うまくいかなかったら自分なりに原因を探る。原因を見つけたら、解決策を考えたうえで、上司や先輩に意見を求めるようにしたそうです。
初めは失敗続きで怒られることもありましたが、めげずに継続するうちに、次第に周囲の反応が応援するようなスタンスに変わっていきました。いつしか自発的に助けてくれる先輩や同僚が増えていったそうです。
■「助けてくれる人」をどれだけ増やせるか
じっと机に座っているのではなく、社内のさまざまな人たちと積極的にコミュニケーションを重ね、社内イベントにも積極的に参加したBさん。行動を積み重ねて、社内に「困ったときに助けてもらえる人」を増やしていきました。
Bさんは、残念ながら20代では目立った成果を出すことはできませんでした。しかし、30代半ばで広報部へ異動。そこで成果を上げて、40代前半になった今は広報室長として活躍しています。
Bさんは時間をかけて積み重ね、磨いてきたその「声かけ力」「巻込力」を社外向けにも発揮し、今では多くのジャーナリストに記事を書いてもらって企業価値を高めるなど、なくてはならない存在になっています。
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越川 慎司(こしかわ・しんじ)
株式会社クロスリバー代表
元マイクロソフト役員。国内および外資系通信会社に勤務し、2005年に米マイクロソフト本社に入社。2017年にクロスリバーを設立し、メンバー全員が週休3日・完全リモートワーク・複業を実践、800社以上の働き方改革の実行支援やオンライン研修を提供。オンライン講座は約6万人が受講し、満足度は98%を超える。著書に『AI分析でわかったトップ5%リーダーの習慣』、『AI分析でわかったトップ5%社員の習慣』(共にディスカヴァー・トゥエンティワン)、近著に『29歳の教科書』(プレジデント社)がある。
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