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韓国が心配しているのは、「徴用工を解決したら、日本は輸出管理措置を撤廃してくれるのか?」という点
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韓国が心配しているのは、「徴用工を解決したら、日本は輸出管理措置を撤廃してくれるのか?」という点だ。日本は建前上、「徴用工問題と輸出管理措置は別問題」という公式見解を持っているが、複数の日本政府当局者は19年7月当時、「事実上の対抗措置」と語っていた。日韓は当局者協議を続け、韓国側が法改正や体制強化を実施したことで、輸出管理措置を続ける根拠はほぼなくなっている。
日本の輸出管理措置が最大の懸念
ただ、文在寅政権が世界貿易機関(WTO)へ提訴したため、日韓協議は中断している。韓国はWTOへの提訴を取り下げ、日韓協議を再開させる必要がある。韓国側には「もし、WTO提訴を取り下げても、日本が協議再開に応じてくれなかったらどうしよう」という一抹の不安がある。プノンペンで開かれた日韓首脳会談での岸田首相の前向きな姿勢は、韓国側のこうした不安を解消させるうえで、大きな力になった。輸出管理措置がなくなれば、日韓の財界は歓迎し、尹錫悦政権の政治的な成果になる。そうなれば、尹政権は気分良く、米国にも歓迎される「日韓GSOMIAの正常化」を宣言するだろう。
そして、うまく回り始めた日韓の歯車に大きく貢献したのが麻生太郎氏だった。麻生氏は11月2日に訪韓し、尹錫悦大統領と会談。翌3日には朴振外相と会談したほか、梨泰院の雑踏事故の犠牲者のために献花した。麻生氏の訪韓を巡っては、日韓両メディアの取材が過熱し、「岸田首相の親書を持参したのではないか」「徴用工問題で突っ込んだ意見交換をしたのではないか」など、様々な臆測や報道が飛び交った。ただ、政府・与党関係者の1人は「メディアが勝手に興奮しただけで、実態はまったく違います」と語る。
麻生氏は超党派の国会議員や財界人でつくる「日韓協力委員会」の会長として訪韓した。この関係者は「極秘訪韓でも何でもなくて、以前から計画していた話でした。まるで秘密裏に計画していたかのように扱われましたが、メディアが気づくのが遅れただけの話です」と話す。もともと、9月ごろにも訪韓の話が浮上したが、ちょうど岸田首相と尹大統領がニューヨークで「懇談」することが決まっていたため、「日韓首脳が一度会った後で」となり、11月の訪問になったという。「親書」や「外交交渉」の類いの話も最初から出ていなかった。事前に、森健良外務事務次官が麻生氏にブリーフィングを行った際、懸案については「日韓外交当局の協議を見守る」という応答要領案を示し、麻生氏の了承も得ていたという。ただ、肝心の尹大統領との会談では、麻生氏は、この応答要領にすら触れなかったという。外交交渉と呼べる場面はひとつもなく、およそ、「会談」というよりは「雑談」といった様相だったようだ。
日韓関係改善に向けた熱意
ただ、韓国側の日韓関係改善にかける熱意はすさまじかった。当初、麻生氏側が梨泰院の雑踏事故の影響を懸念し、訪韓の延期を内々に打診したところ、韓国側は「尹大統領は是非会いたいと言っている」と伝え、予定通りの訪韓を求めたという。麻生氏と尹氏の「雑談時間」は当初30分の予定だったが、どんどん延びて、1時間25分に及んだ。
そして、日本側が驚いたのが、麻生氏の発言に対する尹氏の振る舞いだった。複数の関係者の証言によれば、麻生氏は2013年2月の韓国大統領就任式後に、朴槿恵大統領(当時)との会談で展開した持論を再び、尹氏に持ち出したという。13年当時、副総理兼財務相だった麻生氏は、「歴史を直視して友好関係を築こう」と語った朴氏に対し、米国内で南北戦争を巡る認識に違いがあることを例に取りながら、日韓の間で歴史認識が一致しないことを前提に議論を進めるべきだという考えを示したとされる。朴氏はもちろん、当時の韓国メディアが、麻生氏の発言に猛反発し、日韓関係が停滞する一つの原因になった。
牧野 愛博(朝日新聞外交専門記者)
全文はソースで
https://news.yahoo.co.jp/articles/84892816ea0f557c54cdbc47ee2754ca7c078c43?page=1