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「絶対につぶれない企業」韓国電力、巨額赤字の衝撃波 影響は物価、金融、メディア再編にも
2022年の年間赤字額は30兆ウォン(1円=9.5ウォン)前後に達する見通しだ。
韓国電力は韓国政府や政府系金融機関が合わせて51%の株式を保有する公企業でありながら上場企業でもある。
最近発表した1~9月の決算はある程度予想されたとはいえ、その巨額の赤字額に改めて驚きの声が上がっている。
◆電力購入費が2倍に
まず決算内容身を見てみよう。
1~9月の売上高は51兆7651億ウォンで前年同期比14.7%増だった。製造業の工場稼働率が高まったことや電気代の値上げで増収だった。
問題は利益だ。
韓国電力は、発電部門を分離している送配電会社だ。発電子会社や民間の発電会社から電力を購入してこれを事業者や家庭向けに販売する。
これら「電力購入費」が30兆766億ウォンで前年同期比2倍に急騰してしまった。この結果、営業損益は、21兆8342億ウォンもの赤字になった。
前年同期も赤字だったがその規模は1兆1240億ウォン。これでも相当の規模だと話題になったが、一気に20倍近くに膨れ上がった。
赤字の原因ははっきりしている。「逆ザヤ」が生じているのだ。
世界的なエネルギー価格の高騰、インフレ、ウクライナ戦争などが合わさって、1~9月のトン当たりのLNG価格は132万5600ウォンで1年前の61万6400ウォンと比べて2倍となった。石炭価格は3倍になった。
(中略)
◆格付けトリプルAで資金調達できるが…
韓国電力は公企業で基幹インフラを担っている。常識的には「絶対につぶれない企業」で格付けもトリプルAだ。
だからよりコストの低い会社債を発行して赤字を埋める。
韓国電力債の発行規模は2018年4兆7000億ウォン、2019年6兆3400億ウォン、2020年3兆4200億ウォンだったが、韓国電力の赤字が増えた2021年には10兆3200億ウォンだった。
2022年にはこれがすでに25兆4500億ウォンに急増している。
韓国電力の過去の業績を見ると、燃料調達コストが下がった時には年間で数兆ウォン規模の黒字を計上する。
だから、赤字になっても借金すればいいと考えられがちだ。以前には、赤字の一部を政府予算で穴埋めしたこともある。
ところが、そう安易に考えていればよい問題でもない。何しろ赤字の規模が大きい。過去最大の赤字額なのだ。
さらにもっと深刻な問題もある。
市中にお金がじゃぶじゃぶあふれている時ならば、韓国電力債でしのぐ方法もありだった。今は状況が全く異なる。
金利上昇、景気低迷、経済の先行きに対する不安などから金融市場の環境は一変してしまった。
企業が資金調達に苦労するようになったのだ。
特に10月に自治体である江原(カンウォン)道が道内に今年春オープンしたばかりのテーマパーク「レゴランド」の建設にあたって中心的な役割を果たした道の公企業への債務保証を履行しない「事件」が発生した。
自治体が債務保証していた公企業がデフォルトを起こしたことを機に、韓国の債券市場全体がパニックに陥った。
(中略)
韓国紙デスクはこう話す。
「韓国電力は、文在寅政権の公約で今年開校したばかりの韓国エネルギー工科大学を財政支援することも決まっている」
「こんなに赤字なのになぜ、という声がある一方で、いまさら開校したばかりの大学の支援を打ち切るわけにはいかない」
インフレ対策を最優先する中で値上げも難しい。資金調達をして赤字の穴埋めをするのも簡単ではない。
一方で、ニュース専門チャンネルの大株主や、エネルギー工科大学のスポンサーから脱却することも簡単ではない・・・。
韓国電力の巨額赤字は、単なる経営問題ではないのだ。
何をやるにも韓国電力の存在はあまりに大きいし、何かをしようとすれば政治問題になりかねないのだ。
韓国電力と取引がある大企業の役員はこう話す。
「エネルギー価格、ドル高が一服して、なおかつ電気料金も徐々に引き上げることができるとみて証券市場では韓国電力の赤字は2023年に縮小するとの見方が多い」
「だが、本当にそんなに楽観視できるのか。政府の財政支援など抜本的なてこ入れが必要になるかもしれない」
韓国電力の問題は巨額の赤字だけではない。
経営正常化への道筋もなかなか見えてこない。
2022.11.17(木)
玉置 直司
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/72747