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アメリカを白人優位の国に戻したい…全米に200人以上いる「トランプ・クローン」のヤバすぎる言動
アメリカを白人優位の国に戻したい…全米に200人以上いる「トランプ・クローン」のヤバすぎる言動
■思想の近い候補者を全米に送り出している
アメリカの中間選挙が11月8日に近づいている。大統領選の間の年に行われ、連邦議員や州知事など多くの重要ポストが改選される。大イベントである大統領選に比べるとそれほど大きく報じられるわけではなく、アメリカ人にとってもかなり地味な印象があるその中間選挙で、驚くほど派手なキャンペーンを繰り広げている政治家がいる。
もちろん彼が出馬しているわけではない。自身の思想に近い候補者を推薦し、応援しているのだ。それも上院から州知事まで、全米で200人以上の候補がいると報道されている。
そのほとんどが、トランプ氏と同じく移民排斥、人工妊娠中絶反対などの極右の公約を打ち出し、2020年の大統領選は不正だったと主張している、まさに「トランプ・クローン」なのだ。
■テレビを叩き壊す「ハイヒールを履いたトランプ」
そのトランプ・クローン軍団が今、選挙戦に旋風を巻き起こしている。
アリゾナ州で知事選に立候補しているキャリー・レイク候補は、「ハイヒールを履いたトランプ」という異名をとっている。彼女の強みは何といっても、テレビの元人気ニュース司会者ならではのカリスマ性だ。エネルギッシュで過激な発言には強い説得力があり、政敵を言い負かすパワーはトランプ以上という評価も。
派手なパフォーマンスも話題で、有権者向けビデオの中では「メディアは嘘ばかり言っている」といくつも並べたテレビを、巨大なハンマーで一気に打ち砕いて見せるなど、いかにも分かりやすい。
ところが地元の人に聞くとこのレイク氏、かつては民主党オバマ氏に寄付し、ドラァグ・クイーンのイベントに通い詰めるLGBTQ擁護派だったという。ところが今ではLGBTQを否定し、メキシコ国境の壁の完成と移民の排斥を主張するなど、極右の公約を声高に叫ぶ。まさにトランプ・クローンの女王に豹変したことになる。
対抗馬と僅差で当選する可能性は非常に高く、もしそうなった場合、2024年の大統領選ではトランプ候補のランニングメート(副大統領候補)になると臆測されている。
同じアリゾナ州の上院選に立候補しているのが、ブレイク・マスターズ候補。本業はベンチャー・キャピタリストでレイク候補ほど派手ではないが、スタンフォード大学で法律を学んだ36歳、中学の同級生だった妻との間に3人の息子がいる、まさにアメリカの若い保守白人男性のポスターボーイのような存在だ。
■「銃による暴力の原因は黒人」と公言
元上司にあたるビリオネア、ピーター・ティール氏は決済代行サービス「ペイパル」創業者で共和党に大口献金しており、保守派の新しいドンと呼ばれている。彼のおかげでマスターズ候補の元にはおびただしい政治資金が流れ込んでいるだけでなく、NFT(非代替性トークン)を利用して資金を集めるなど、今どきの技術を駆使して選挙活動を繰り広げている。
しかし、いかにも弁舌爽やかな彼の口からは「銃による暴力の原因は黒人だ」「民主党のバイデン政権は、移民を増やすことでわれわれ白人に取って代わらせようとしている」など、ナショナリズムをあおる人種差別的な、極右特有の発言が飛び出してくる。
ここ数週間で現職の民主党マーク・ケリー候補を追い上げ、今では互角の戦いだ。しかしマスターズ氏は当初から「この選挙でも不正が行われるだろう」と言っている。万が一負けた時のために、2020年大統領選でのトランプ氏と同じく、予防線を張ることで相手陣営に揺さぶりをかけているのだ。
■「中絶強要」の過去を暴かれた元NFLスター選手
南部ジョージア州の上院選にも、トランプ氏の推薦を受けて派手な候補が立っている。プロフットボール(NFL)の元国民的スター、ハーシェル・ウォーカー氏だ。
現職の民主党ラファエル・ワーノック氏と同じ黒人で、マイノリティー有権者へのアピール度も大きい。ところがつい先日大スキャンダルが発覚した。自身は妊娠中絶に絶対反対の立場をとっているにもかかわらず、過去交際していた女性に中絶を迫り、その費用まで渡したというのだ。また複数の女性の間に4人の子供がいて、息子の1人からは「自分も母も見捨てられた。ひどい父親だ」という怒りのSNS投稿もニュースになった。
ところがそれでも彼の支持率は下がらない。トランプ氏が2016年の大統領選で、どんなスキャンダルが暴露されようと、指示が揺るがなかったのとまったく同じである。
■トランプ氏の狙いは2年後の「大統領復帰」
元大統領が中間選挙でこれほどの多くの候補を推薦し、大体的に選挙戦を繰り広げるなんて聞いたことがない。それもそのはず、これは大統領復帰を目指して2024年の大統領選に出馬するため、トランプ氏が計画した大掛かりな前哨戦なのである。自身が推薦した候補が大挙して当選すれば、キングメーカーとして再び大統領候補に返り咲けるという算段だ。
候補者から見ても、これは決して悪い話ではない。共和党を支持する有権者の実に64%は、「2020年の選挙は不正なもので、実際はトランプ氏が当選していたはずだ」といまだに信じて疑っていないからだ。つまりこの論理を前面に押し出し、トランプ元大統領の応援を受けることは、自身の当選への最短コースになる。
党としても、これを利用して上下院の過半数を奪還するチャンスだ。特に共和党はジョージア州、アリゾナ州などの優位な地盤で、2020年にまさかの敗戦を喫している。こうした州では今、強烈な個性を放つトランプ・クローンたちが、民主党候補と激しい戦いを続けている。
■「バイデン大統領の勝利を認めない」一点で団結
今の共和党支持者にとっては、妊娠中絶もモラルも、投票を左右するほどの大きな問題ではない。では彼らをつなぎ留めているのは、いったい何だろうか?
それはやはり、「2020年大統領選で不正があった」という一点に尽きる。
2021年1月6日、バイデン氏の大統領選当選を認める手続きでは、147人もの共和党議員がバイデン氏の当選を認めない反対票を投じた。トランプ支持者が議事堂に突入したあの日である。
平和な権力の移譲という民主主義の原則を破ってまで、議員たちの多くがトランプ氏の負けを認めなかった。建国の歴史始まって以来の異常事態が起きたのだ。
この行為を正当化するために、共和党サイドでは、投票が不正だったことを証明しようとあらゆる努力がなされたが、何ひとつ証明できていない。そのためメディアはこれを「ビッグ・ライ(大嘘)」と呼んでいる。
■「落選したら負けを認めるか」に衝撃の回答
つまり共和党議員の多くは、何の根拠もない「不正な選挙」を主張し続けていることになるが、議員がこれだから、支持者も当然それをよりどころとする。もっと極端に言うと、トランプ氏がどんなに追及されようと、ディープ・ステート(闇の組織)の陰謀のせいにしたり、メディアが言っていることはすべて嘘と考えたりすれば筋が通ってしまう。これを「トランプ・カルト」と呼ぶ人もいる。
前出のキャリー・レイク候補は、テレビのインタビューで「あなたはもし落選したら負けを認めますか?」と聞かれ、こう答えた。
「私は当選します。そしてその勝利を認めます」
これでは答えになっていない。そこでキャスターが同じ質問をした。すると彼女は「私は当選します。そしてその勝利を認めます」とまったく同じ答えを真顔で繰り返した。
あくまで負けは認めない、自分は負けるわけがないからだ。もし負けたら選挙は不正と暗に主張する。まるでロボットのような応答にキャスターは凍りついたが、支持者からは大喝采だ。
そこまでしてビッグ・ライにしがみつきたがる支持者にはある共通点がある。
■かつての「白人優位社会」を取り戻したい
2020年の大統領選では、共和党支持者の大多数がトランプ氏に投票した。彼らの属性を大まかに説明すると、以下のように分けられる。
トランプ支持者を占めるのは圧倒的に男性・白人・45歳以上であり、年収1000万円以上の保守的なアメリカ人だ。
逆に、バイデン氏に投票したのは、女性・非白人・45歳以下・年収1000万円以下のリベラル、または中道派が多い。
トランプ支持者から見ると、バイデン支持者に数で負けたのが信じられない。つまり女性、マイノリティーと若者、それも自分たちよりも貧しい低所得者層が、自分たちを凌(しの)ぐパワーを持つとは思いたくない。彼らが間違っていて、自分たちが正しい。彼らが勝つこと自体が間違っているという、男性を中心とした白人の既得権益者ならではの感情が、はっきりと見てとれる。
彼らが支持するトランプ氏のスローガン “MAGA=Make America Great Again“が「過去のアメリカに戻ろう」という掛け声であることはご存じだろう。
年配白人層が夢見る過去とは、1950年代。第2次世界大戦後、軍事力も経済力もアメリカが世界トップに躍(おど)り出た時代。しかも60年代の公民権運動の前だから、白人だけがあらゆる権利を享受し、女性は主婦か、社会に出ても秘書など男性の下で働く存在だった時代だ。
■白人人口が減り続けることに強烈な危機感
80年代ごろまではそのような白人男性主導の時代が続いていたが、2000年代に入ると事情が変わってくる。バラク・オバマ氏が初の黒人大統領に就任。同性婚が合法化され、次はヒラリー氏が初の女性大統領になるか、というところまで時代が急転換した。
同じ頃発表された国勢調査結果が、多くの白人に衝撃を与える。流入を続ける移民の増加で、アメリカの白人人口は2049年までに過半数を割るという報告だ。
建国以来、圧倒的なマジョリティーであり、黒人奴隷を搾取して富とパワーを築いてきた白人にとって、これ以上のショックはないだろう。既得権力を失う強烈な危機感もあったはずだ。
すでにダイバーシティー&インクルージョンは企業にとって必要不可欠なものとなり、女性やマイノリティーを一定数経営陣に加える動きも進んでいる。映画やドラマ、コマーシャルなども、あらゆる肌の色や性別をバランスよくキャスティングするのが普通になっている。そうでなければ消費者、特に若者層にそっぽを向かれてしまうからだ。
■やりづらさを代弁してくれたのがトランプ氏だった
同時にマイノリティーや女性に関する差別的な物言いは、たとえジョークであっても公の場では許されなくなった。また#metooムーブメントで、社会的地位を失うリスクも高まった。こうした動きに、取り残される思いを抱える人も少なくなかった。
そこに登場したのがトランプ氏だった。
人種やジェンダー差別発言をあからさまに行い、悪びれもしない態度はもちろん、白人至上主義者を堂々と賛美した。そのたびに人気は衰えるどころか、逆に上がっていったのである。
同時に顕在化したのが、「グレート・リプレイスメント・セオリー(great replacement theory)=人種の総入れ替え論」だ。
前出の激戦区アリゾナ州のブレイク・マスターズ候補が「民主党は移民を増やすことで、われわれ白人に取って代わらせようとしている」と発言しているが、白人社会が非白人の移民に乗っ取られるという危機感は、トランプ時代を経て世界に広がり、白人至上主義者による暴力事件につながっている。
■女性議員や選管関係者には「殺す」の脅迫状が
白人至上主義者を讃えたことで、トランプ氏は、アメリカを人種ラインで真っ二つに分断してしまった。
差別に断固として立ち向かう層は、Black Lives Matter運動で抵抗したが、白人至上主義者たちの活動はますます活発化している。
トランプ氏を批判する政治家、特にマイノリティーや女性議員、選挙関係者の元には、「殺すぞ」などの脅迫状が今も連日届いているという。アジア系やLGBTQ、ユダヤ人などに対するヘイトクライムも増え続けている。
今年の中間選挙の最大のポイントは、共和党が上下院の過半数を奪還するかどうかだが、トランプ・クローンがどれほど票を伸ばすかにも大きな注目が集まっている。
■クローンが多数当選すればトランプ氏が戻ってくる
中間選挙は通常、政権与党(今回は民主党)が負けるので、共和党が優勢とされている。特に激戦州での勝利は、キングメーカーとしてのトランプ氏のパワーが健在であることを意味する。そうなれば2024年の大統領選に再び立候補する可能性が飛躍的に高まる。
一方、トランプ・クローンを嫌って民主党に票を投じる有権者もいるとみられ、「トランプ氏の推薦」という肩書は諸刃の剣とも指摘されている。仮に負けた場合は、「選挙の不正」を叫び、票の数え直しの訴えから、投票マシンの不備の追及、選挙管理スタッフへの脅迫まで、2年前と同じ泥沼の様相となることは目に見えている。
人種やジェンダー間の軋轢(あつれき)もさらに強まり、移民への反感を持つ人も増えるだろう。分断は縮まるどころかさらに広がるに違いない。
まさにアメリカ民主主義を揺るがすこうした混乱自体が、トランプ氏が意図するところだとしたら、彼はすでに勝っているのかもしれない。
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ジャーナリスト、ミレニアル・Z世代評論家
早稲田大学政治経済学部卒業後、1991年からニューヨーク在住。ラジオ・テレビディレクター、ライターとして米国の社会・文化を日本に伝える一方、イベントなどを通して日本のポップカルチャーを米国に伝える活動を行う。長い米国生活で培った人脈や米国社会に関する豊富な知識と深い知見を生かし、ミレニアル世代、移民、人種、音楽などをテーマに、政治や社会情勢を読み解きトレンドの背景とその先を見せる、一歩踏み込んだ情報をラジオ・ネット・紙媒体などを通じて発信している。
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