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反ユダヤ主義の疑念に「No」の一言を発しなかったネッツのカイリー・アービング、出場停止処分を受けて一転謝罪へ
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「どんな人生も尊重し、受け入れる」という態度をクラブは許さず
11月3日、カイリー・アービングはネッツから少なくとも5試合の出場停止処分を科された。きっかけは彼が『反ユダヤ主義』的な内容を含む映画『Hebrews to Negroes: Wake Up Black America』へのリンクをSNSに投稿したことだ。ネッツは出場停止処分を伝えるリリースの中でこの映画を「強い嫌悪感を抱かせる反ユダヤ的なヘイトを含む、偽った情報だらけの作品」と定義している。実際、「歴史に隠された真実を暴く」という体裁を取っているが、その内容はただの歴史改竄で、『我が闘争』などの反ユダヤ的な表現を多く含むものだという。
カイリーはこの手の陰謀論に敏感で、過去には地球平面説を支持し、ワクチンの危険性を訴えてもいる。彼はその都度、自分には自分の信じる真実があり、他の人の考えは尊重するから自分の考えも尊重してほしいと訴えてきた。だが今回、ネッツのオーナーは「これを認めることは差別になる」と譲らなかった。
この日にはカイリーの記者会見が行われたが、そこでのやり取りは周囲の困惑を決定的な怒りへと変えるものだった。「念のために聞かせてください。あなたは反ユダヤ主義の考えを持っていますか?」という問いに対して彼は「またこの繰り返しかい? そんな質問ばかりで、なぜ僕に貼ったレッテルが正当化されるのか分からない。僕はどんな人生も尊重し、受け入れる」と答えをはぐらかした。
記者が「イエスかノーかで答えてください」とたたみかけると、カイリーは「自分がどこから来たのか知っていれば、反ユダヤ主義者にはなれない」と答えた。だがこの言葉は、映画の中で使われた反ユダヤ主義の表現だった。
人にはそれぞれ信念があって良いが、反ユダヤ主義は明確に間違っており、差別や偏見はどう扱ったところでより大きな間違いを生む。これが周囲の誰もがカイリーに「ノー」と言わせたかった根拠だが、彼は最後まで反ユダヤ主義を否定しなかった。
かくしてネッツは「明確な機会があったにもかかわらず反ユダヤ主義を否定できないのは、深く憂慮すべきことであり、組織の価値観に反し、チームに不利益な行為だ。今の彼はネッツに相応しくない」とのコメントとともに、出場停止処分を科す決断を下した。
この問題が起きたことでネッツは名誉毀損防止のための団体へ50万ドル(約7000万円)の寄付を決め、カイリーも個人で同額を寄付することを発表した。だが、この団体はカイリーからの寄付を「発言と行動が見合っていない」との理由で拒否している。
出場停止処分が発表された数時間後にカイリーは謝罪のコメントをSNSに投稿している。「私の投稿で傷ついたユダヤ人の家族とコミュニティの皆さんに、事実に基づく説明なしにドキュメンタリーを投稿したことを謝罪したい。ホロコーストの歴史を軽視したり、憎しみを永続させるつもりはなかった。不幸な出来事から学び、みんなの理解を見いだすことができるよう願っている」
この謝罪により、事態は収拾に向けて動き始めた。ただ、カイリーは今後の行動で、その謝罪の言葉が本心から出たものかどうかを証明しなければならない。いずれにしても開幕から2勝6敗と出遅れ、ヘッドコーチのスティーブ・ナッシュが去るゴタゴタ続きのネッツにとって、好ましくないトラブルであることは間違いない。