あわせて読みたい
外れクジを当たりと勘違い…ヤクルト・真中満“フライングガッツポーズ”の伏線となった1年前の後悔「今年は絶対先に見てやろう」
阪神と競合した高山俊を引き当て、ガッツポーズを見せる真中満監督。しかし、手にしていたのはハズレくじだった。
外れクジを当たりと勘違い…ヤクルト・真中満“フライングガッツポーズ”の伏線となった1年前の後悔「今年は絶対に先に見てやろう」
競合を制して意中の選手を引き当てた強運の持ち主。くじ運に見放されて天を仰いだ指揮官。そして、まさかのハプニングで会場をザワつかせた当人……。その手で封筒を掴み、悲喜こもごものドラマを生んだ4人の元監督が、プロ野球ドラフト会議の裏側を語る。第2回は真中満(ヤクルト元監督)/#1渡辺久信、#3東尾修、#4岡田彰布の全4回(初出は2018年10月11日発売Number 963号『<運命の日の明暗> 監督、クジを引く」』、肩書は全て当時のまま)
■ぼくのその日の運勢は最高だった
誰にでも勘違いはある。だが、ここまで堂々と、かつ大っぴらに勘違いした姿を披露した人はなかなかいない。
2015年10月22日のドラフト会議。主役の座をさらったのは、ヤクルトの監督だった真中満である。
狙うは明治大学の外野手、高山俊。東京六大学野球の通算最多安打記録を48年ぶりに塗り替えた22歳は、抽選になるか、単独指名か、微妙なラインの上にいた。
当日、真中の気合いの入れようは半端ではなかった。3年前の記憶は鮮明だ。
「午前中に(明治)神宮にお参りに行ったし、いろんなものを調べてもぼくのその日の運勢は最高だった。クジは絶対に自分が引き当てる。そもそも抽選にもならないんじゃないか。高山くんを獲れるのは当たり前だという気持ちで会場に入ったんです」
■引き当てるのはおれだと決まっているのに…
阪神が高山を1位指名してきたのは予想外だったが、真中は動じない。抽選箱の前で並び立つ金本知憲に憐憫の情さえ湧いた。
「引き当てるのはおれだと決まっているのに、かわいそうだなと。先に引いたのは金本監督でしたけど、最初に取ったのを置いて、違う封筒を選んだんです。やっぱりそこで手放しちゃうんだなあ、なんて思いながら見ていました」
強く念じた未来図と現実の境界線はもはや曖昧だった。二つ折りの抽選券を開く。NPBのロゴマークが見えた瞬間に真中は両手を高く掲げた。
■金本は中身をしっかりと確認することもなく席に
だがNPBマークは当たり外れに関係なく印字されているものだ。“当たり”には「交渉権確定」の判が押されている。金本の手中にそれはあったが、真中の喜びように圧倒され、中身をしっかりと確認することもなく席に戻った。
真中は促されるまま、テレビカメラに向けて高山にメッセージを送った。
「慣れ親しんだ神宮球場で一緒にプレーしましょう。がんばりましょう!」
勘違いが明らかになるのはその直後、生中継の番組がCMに入った時のことだった。
■うちの1位、原樹理になってるけどどうした?
伏線は1年前のドラフトにあった。ヤクルトは済美高校の安樂智大を1位指名し、真中は楽天の立花陽三球団社長とクジを引き合っている。この時、素早い動作で抽選券を確認し、喜びを爆発させたのは立花のほうだった。遅れをとった真中は、中身を見るまでもなく外れを知らされた。
「そうそう、あれが悔しくて。『今年は絶対に先に見てやろう』と思ってたんです。『どうぞ』と言われる前から指をかけてね」
2015年、14年ぶりのリーグ優勝を果たしたヤクルトは、2日後には日本シリーズが幕を開けるというタイミングでドラフトの日を迎えていた。チーム本隊は1、2戦の舞台である福岡に向けてのフライトを待つ羽田空港で、指揮官のガッツポーズを見た。
「みんなは『監督、高山を引けてよかったなあ』なんて言いながら飛行機に乗って、福岡で降りたら『あれ? うちの1位、原樹理になってるけどどうした? 』ってなったらしいです(笑)」
■ぼくがルールを変えた。歴史に名前を刻めたと思います
翌日、グラウンドに現れた張本人に、ある者は笑みを押し殺した顔で接し、ある者は露骨に笑いながら語りかけた。
大一番を前にして固くなりがちなチームの空気を和やかにできた。真中はポジティブにそう思うことにした。
同様の勘違いが再び起こることを防ぐため、翌2016年のドラフト以降、抽選券からNPBマークは消えた。
「ぼくがルールを変えた。歴史に名前を刻めたと思います。失敗がいいことに変わることだってあるんですよ」 明るく言い放った。
(「Sports Graphic Number More」日比野恭三 = 文)