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武藤敬司59歳、引退決断の理由──決め手は主治医の一言だった
プロレスはゴールのないマラソン。そう表現していたプロレス界のスーパースター、武藤敬司が現役引退を表明して驚かせた。2018年に両膝の人工関節置換術に踏み切って一時期快方に向かい、昨年2月にはプロレスリング・ノアのGHCヘビー級王座を獲得。しかしその後、股関節痛を発症して主治医から「このままなら車イス生活になる」と言い渡されたことで決断を下した。だがそこに悲壮感はない。前を見る59歳にとって、来年2月21日までの引退ロードは新たなモチベーション。誰にも真似できない幕引きを目指す。(取材・文:二宮寿朗/撮影:倉増崇史/Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部)
「ちょっと裏切ってみたい」6.12の真実
写真:東京スポーツ/アフロ
プロレスラー武藤敬司はいつなんどきも常識の枠に収まろうとしない。
「大切な報告」があるとアナウンスされた6月12日もそうだった。今年に入ってからは欠場が多くなり、股関節痛の告白もあった。ついに引退表明ではないか、とささやかれていた。
過去の例から言ってもレスラーが引退を報告する場合、「きっちりした格好」「重々しい空気」「涙」がセットになるものの、武藤はジャージ姿でリングに上がってくるやプロレスLOVEポーズに、まさかのロープワーク。なんだ、引退じゃないじゃないかとファンがホッと胸をなでおろした直後、マイクを握って引退をサクッと明るく表明してファンから3カウントを奪った。
引退しないと思わせておいて引退。そう水を向けると、武藤は豪快に笑った。
「だって暗い顔して発表っていうのはオレには合わないから。元気に入場して、ロープワークとかやって(引退を予想するファンを)カムフラージュでちょっと裏切ってみたいっていう自分の性分みたいなもんなんだよね」
いい意味で裏切るというお得意のサプライズ。いやはや常識を超えている。
引退するって言ったけど、そうじゃないかもよ。インタビューでも駆け引きを楽しむかのように目の奥が何だか笑っている。
「引退するよって伝えたらホッとしてたよ」
撮影:倉増崇史
1984年の新日本プロレス入門から38年、彼いわく「ゴールのないマラソン」を突っ走ってきた。
ずっと付き合ってきたのが膝のケガだった。手術を繰り返してきた両膝は限界に近づき、2018年3月に人工関節にするオペを受けることにした。
ちょっとした希望を感じた。
「手術が終わって目が覚めたときから軽いリハビリがすぐに始まって2、3週間して退院するんだけど、昔と違って可動域が広がっているなって実感できたんだよ」
だが思いもしなかったアクシデントが起こる。リハビリを兼ねてジムのマシンで足腰を鍛えるトレーニングを行った。「今までいかなかった領域までいくから調子に乗っちゃって」深く曲げて力を入れたときに、激痛が走った。膝蓋骨、つまり膝のお皿部分が折れてしまったのだ。