あわせて読みたい
【アフガニスタン】20年間で戦費1100兆円、米兵7000人犠牲…「信じられないほどお粗末」専門家が酷評
【ワシントン=浅井俊典】2001年9月の米中枢同時テロを機にアフガニスタンに駐留していた米軍が撤退を完了してから30日で1年となる。政権を掌握したイスラム主義組織タリバンの下では、女性の権利抑圧や食料危機の深刻化、テロ続発といった混乱が続き、安定とはほど遠い状況だ。問題に詳しい米ミネソタ大のキャサリン・コリンズ准教授は、アフガン社会への理解が不足したまま民主政権樹立に介入し、撤退の際も十分な準備を怠った米政権の拙速な判断に問題があったと指摘する。
米軍のアフガニスタン軍事作戦と撤退 2001年10月、米中枢同時テロの報復として米英軍がアフガンを空爆し、米軍が駐留を開始。同年12月にタリバン政権を崩壊させた。20年2月にトランプ前政権がタリバンと和平合意し、21年4月にバイデン大統領が完全撤退を表明。撤退期限半月前の8月15日にタリバンが首都カブールを制圧した。駐留米軍は米国人の退避任務を終了した後、8月30日に撤退を完了した。
◆見積もりの甘さ、準備不足…「大失敗」
「ひと言で言えば大失敗だ。政治や経済、人道面で危機が続く現状を見れば明らかだ」。タリバンが政権を奪還する速さを見誤り、民主政権を維持する目算が立たないまま撤退した作戦をコリンズ氏は非難した。
駐留米軍の完全撤収などを盛り込んだ和平合意は、米国第一主義を唱えたトランプ前大統領が20年2月にタリバンと結んだ。だがその後、具体的な計画は策定されないまま。撤退が始まったのは、後任のバイデン大統領が方針を表明した21年4月からわずか4カ月後だ。コリンズ氏は「合意と同時に計画を立てるべきだった。信じられないほどお粗末だ」と話す。
米国がアフガン民主化に介入したのは、同時テロの報復で空爆を始めたのがきっかけだ。だが内戦は収まりきらず、治安維持のため継続的な派兵を余儀なくされる「米史上最も長い戦争」に突入。米社会では厭戦えんせんムードが強まっていった。
◆女性抑圧、テロの温床…軍事介入前に戻る可能性も
コリンズ氏は、民族対立など複雑な背景を理解しないまま新政権樹立を進めた判断について「民主化すれば安定するという考えはナイーブだった」と指摘。「タリバンのような組織は聖戦を宗教的義務と考え、長期的な時間軸で戦い続ける。英国や旧ソ連も撤退を余儀なくされた歴史への理解が欠けていた」と語る。
19年には米メディアにより、ブッシュ(子)、オバマ両政権の高官や軍幹部らがアフガンでの軍事、復興作戦について、数年前から失敗だと認識しながらも続けていたことが判明。その結果、米ブラウン大の試算では、アフガンを含む20年間の対テロ戦の戦費は8兆ドル(約1100兆円)、米兵の犠牲者は約7000人に上った。コリンズ氏は「準備不足に終始した20年」と批判する。
実権を握ったタリバン暫定政権は女子中等教育を全面再開しないなど女性への抑圧を強め、アフガンがテロ組織の温床に戻る懸念も絶えない。コリンズ氏は「満足に教育や医療、食料を提供できない政権を国民が支持し続けるとは思えない。アフガンの未来は暗く、タリバンへの不満が高まれば米国の軍事介入前の内戦状態に戻る可能性もある」との見通しを示した。
東京新聞 2022年8月30日 06時00分
https://www.tokyo-np.co.jp/article/198795