2度炎上した「サイゼリヤ貧しい論争」当事者を直撃。「毎日のように脅迫が」

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2度炎上した「サイゼリヤ貧しい論争」当事者を直撃。「毎日のように脅迫が」

 社会問題化する、SNSでの苛烈な誹謗中傷。気にくわない相手を匿名で攻撃し、被害者の心と生活を蝕んでいく。恐ろしいことに、加害者側は自身の行いが“正義”だと思い込んでいることも少なくない。

 今回は、そんな歪んだ正義のもと、多くの悪質ユーザーから半年以上も過酷な誹謗中傷を受け続ける「熱海のあっつん」さん(@an_eternity86)に取材を行った。

熱海のあっつん
「熱海のあっつん」さん

 彼は、2022年6月にTwitterで話題となった「サイゼリヤで満足する人は貧しい」論争の中心人物だとも噂されている。熱海で小さな居酒屋を経営しているだけの人物が、なぜSNS上の厄介事に巻き込まれてしまったのか?

 きっかけは、温泉地がモチーフ美少女キャラクターを用いた、地域活性化プロジェクト温泉むすめ」とのコラボレーションだった。「温泉むすめ」は2016年からスタートし、現在では80か所を超える温泉地で導入されている人気コンテンツだ。顛末を振り返りつつ、現在の状況についても語ってもらった。

今年も貸切で誕生日イベントを催行

――そもそも「温泉むすめ」(運営:株式会社エンバウンド)とは、どのようなコラボレーションをされていたのですか?

あっつん:温泉むすめキャラクターパネルの設置、キャラクターの紙製コースターの配布・販売のほか、キャラクターのお誕生会などの貸切イベントもお受けしていました。このキャラクターパネルですが、当店においては「買取り」が条件となっておりましたので、こちらで買い取った上で店先に設置しておりました。

 また、キャラクターの紙製コースターの製作費も、全額当店で負担しております。ほかの温泉地や事業所も同じ方法をとられているかまではわかりかねるものの、基本的にはこちら側の持ち出しによって運用しておりました。

 現在、コラボ自体は完全に終了しておりますが、有志のファンの方々のご要望により、今年もキャラクターのお誕生日に合わせた貸切イベントを催行させていただきます。ただし、今回は公式イベントではないので、キャラクターパネルの展示などはいたしません。

「温泉むすめ」とコラボしたきっかけは?

温泉むすめ
温泉むすめ」のファンが訪れることも多々あった

――「温泉むすめ」とコラボレーションした理由について教えてください。

あっつん:創業直前の時期に、知人から「温泉むすめ」の事業を紹介してもらったことがきっかけです。もともと、個人的に『ガールズ&パンツァー』や『ラブライブ!』など、ご当地とコラボするタイプアニメ作品を好んでいたので、温泉むすめのパネル設置は前向きに承諾したんです。

 ファンの人たちが、いわゆる“聖地”のような感覚で熱海を楽しんでくれたら良いな、という思いで始めました。実際に、温泉むすめファンの方々にはたくさん足を運んでいただき、純粋なファンの皆さんとの関係はかなり良好だったと思います。

なぜ炎上してしまったのか

あっつん
あっつんさんが経営する居酒屋

――一部の悪質なユーザーから半年以上誹謗中傷を受け続けているとのことですが、誹謗中傷を受けるに至るまでの経緯を教えて下さい。

あっつん:事の発端は、2021年の年末。有名な女性の権利活動家の方が熱海旅行をしたツイートまでさかのぼります。その方は、以前「温泉むすめ」に対して、「キャラクター設定や、キャラクターの描かれ方が、性差別・性搾取的だ」といったようなツイートをしており、それが結構炎上していたんです。

 だから、その方が熱海旅行に訪れたことをツイートした際に「『温泉むすめ』を批判したくせに、熱海で温泉旅行とは何事か」という無理のある論拠で、悪質なユーザーが攻撃を始めました。もちろん「温泉地=温泉むすめ」ではないですし、何なら、熱海で「温泉むすめ」とコラボしているのは当店だけだったんです。

リプライの挑発行為が目につくように

あっつん:攻撃は激化し、当店がコラボしていた「温泉むすめ」のキャラクター「熱海初夏」の画像や、当店の店舗情報などを載せてリプライを飛ばすなどの挑発行為が目につくようになりました。繰り返しますが、熱海で「温泉むすめ」とコラボしているのは当店だけだったので……。

 このままでは争いに巻き込まれかねないですし、特定の人物に対する悪質な嫌がらせを黙認すれば、店としても個人攻撃に賛同したことになってしまうのではないかと思い、「そういった行為はおやめください」という趣旨の警告を発信しました。“コラボレーション”という形でお預かりしている大切なキャラクターですし、企業の企画としてもあってはならない事態ですから。

 しかし、一部の悪質なユーザーが、この発信を「特定個人(権利活動家の女性)への過剰擁護」と捉えたらしく、矛先がだんだんと当店に向くようになりました。もしかしたら、「『温泉むすめ』を扱う事業者なら、それを批判する権利活動家の女性への攻撃には賛同的な立場であるはずだ」と勘違いをされていたのかもしれませんね。味方と思っていた当店から注意を促され、憤慨したのでしょう。

脅迫、クレーム、レビュー荒らし…嫌がらせが

――具体的に、どんな誹謗中傷を受けましたか?

あっつん:暴言や、人格を否定するようなメンションは、今でもほぼ毎日のように飛んできます。他には「店に来て暴れてやる」といった脅迫や、来店されたお客様への悪口、お店や近隣の小学校、公共施設への爆破予告、放火予告もありました。

 また、保健所や観光協会にまでデタラメクレームを入れられ、グルメサイトや、Googleレビュー荒らしも大量に受けています。私の家族に危害を加えることを匂わせる投稿もあり、恐怖を感じました。

休業を余儀なくされたことも

――お店への実害はありましたか?

あっつん:まずは、近隣の方々に多大なるご心配をおかけしてしまっていることが、何よりの実害だと思っています。直接的な被害で言えば、「温泉むすめ」のパネルを保管していた立ち入り禁止のバックヤードに侵入をされたり、いたずら電話などもありました。

 バックヤードの侵入について注意喚起を出したときは「オタクを叩きたいがためのでっち上げ」などと言われ、さらに炎上する原因となってしまいましたね。あとは、保健所への虚偽通報により臨検が入って業務が止まったり、放火予告や「店に来て暴れてやる」と言われたときには、1週間程度お店を休業せざるを得なくなりました。

――誹謗中傷を受けて、日常はどのように変化しましたか?

あっつん:もともとは何を言われてもそこまで気にしない性格なのですが、家族への加害などをほのめかされたりもしているので……。仕事中も気がかりですし、常に精神的負荷がかかった状態で生活しています。

「サイゼリヤ論争」の顛末は?

――悪質ユーザーから受けた被害について、何かしらの対処はされましたか?

あっつん:悪質性が極めて高いユーザーに対しては、法的措置を取って和解したケースもありました。しかし、まだ解決に至っていない事例のほうが多いです。半年経った今でも、次から次に突っかかってくるユーザーが現れるので、決して「落ち着いた」とは言えない状況ですね。

――なるほど。一方で、今年6月、Twitter上で話題となった「サイゼリヤで満足する人は貧しい」論争。一部では、発端があっつんさんのツイートなのではないかと噂されていますが、これについてはいかがでしょうか?

あっつん:多くの方に誤解を与えてしまったことについて、反省はしています。ただし、はっきり申し上げておきたいのですが、私自身がサイゼリヤを名指しして侮辱をした事実はありません。この件は、ほかのサイゼリヤ関連の論争ともごっちゃになって拡散されてしまったと認識しています。

「まずは自分の生活を立て直したらどうだ?」

あっつん:騒動の初期頃から私に対する誹謗中傷を繰り返しているユーザーがいるのですが、もとはと言えば、その人に対して「ちょっと言い返してやろう」と思ったのが発端です。半年も私に粘着するような人は、一体どんな生活をしてるんだろう? と疑問に思い、彼のツイートをさかのぼってみたんです。

 すると、500円パスタ(このときはどこのお店のものか知らなかったが、後にサイゼリヤと判明)を食べるのも給料が入ったあとでないと苦しそうな感じのツイートをしていたので……。

「他人に粘着するよりも、まずは自分の生活を立て直したらどうだ?」と思い、フォロワー同士のやり取りの中でそれを投稿してしまったという流れです。

 しかし、私の投稿に品性が欠けていたことや、誤解や恣意的デマ拡散も含まれているとはいえ、多くの方に不快な思いをさせたことについて、この場をお借りして真摯にお詫び申し上げます。

適切な対処方法は「わからない」

熱海
熱海の眺望©takuMatsumoto

――騒動がここまで大きくなってしまった理由について、あっつんさんはどのようにお考えですか?

あっつん:私も居酒屋の経営者という立場ですし、最初のうちは言葉もなるべく慎重に選ぶようにしていました。ただ、丁寧に返せば余計に攻撃的になるユーザーも多く、次第にこちらも口調が荒くなり、喧嘩腰になってしまいました。

 振り返って考えてみると「一言も二言も多かったな」と思う場面はかなりあり、それについては反省しています。ただ、これだけ長期間にわたり、人の悪意にさらされた状態で平常心を保つというのはなかなか難しいものです。

「無視をすれば収まる」ともよく言いますが、好きなだけ叩けるサンドバッグのような状態になったり、「無視をする=自分に非があるから言い返せないのだろう」と考え、攻撃を強めてくるタイプも多いので。半年経った今でも、適切な対処方法はわからないままです。

被害者側に救いがない現状が変わらなければ…

――SNSでの悪質な誹謗中傷社会問題化している現代。当事者として、どのような思いを抱いていますか?

あっつん:誹謗中傷をする人が100%悪いというのは大前提として。たとえば被害者側が法的措置を取ろうと思い立った場合、とても高いハードルを1つずつクリアしていかなければなりません。弁護士費用もそうですし、証拠集めなどにかなりの労力と時間を奪われます。

 もちろん、損害賠償請求や、警察沙汰になったときに、間違いがあってはならないというのはわかります。それでも、日々浴びせられる暴言・暴力と戦いながら、それらの処理も行わなくてはならないという状況下では、とんでもない精神的・肉体的・経済的負担と苦痛がともないます。

 現在は、制度的な面であまりにも被害者側に救いがない状況だと思わざるを得ません。「攻撃したもん勝ち」という状況が少しでも変わらないと、誹謗中傷の被害に遭う人は今後も減らないと思います。

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 指先ひとつで他人の人生を壊す、悪質な誹謗中傷。自分が、いつ、被害者加害者の立場になってもおかしくないのが、SNSの恐ろしいところだ。投稿ボタンを押す前に思いとどまる理性と、被害者が泣き寝入りせざるを得ないような制度の見直しが、社会全体に求められる。

<取材・文/堺ありさ 編集/ヤナカリュウイチ(@ia_tqw)>

【堺ありさ】

渋谷の広告代理店で働く27歳。副業ライターネットの炎上ネタを観察することが趣味

「熱海のあっつん」さん

(出典 news.nicovideo.jp)

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