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【ハイブリッド戦争】 米中露が狙う「メタバース」軍事利用…「孫子の兵法」から中国に強みも身の丈に届かない「モラル」
中国海軍の3隻目の空母「福建」の進水式(6月17日)は、ハコモノだけのお目見え。習近平国家主席は式典を欠席した。搭載される戦闘機はステルス性を高め、ミサイル装備を充実させる。しゃかりきになって米軍をしのぐ姿勢を示している。
宇宙では、一部技術で米国を凌駕したのも事実だが、米国は「宇宙軍」を創設して本格的に宇宙戦争に備える。ハッカーはヤラレッぱなし状態から、米国はおっとり刀で先制攻撃型へ移行する。
インターネットは米軍の指揮系統連絡網が発明のヒントだった。ビットコインは暗号アルゴリズムの成果、もともとが軍の秘密通信、すなわち暗号技術の応用である。
火薬も銃も砲も大型船も「戦争の進化」から生まれた。開発に遅れたら敗北が待っていたからだ。古今東西「戦争は発明の母」である。
産業革命は、軍事分野から汎用(はんよう)性のある技術を民間に転用し、経済活動の裾野を広げてきた。中国は民間転用で決定的に遅れている。
ハイブリッド戦争(=中国のいう『超限戦』)の最終目標は、敵の認識領域に強い影響を与えること、相手の判断を誤らせることにある。「フェイク」「逆宣伝」「偽造フィルム」などで敵指導者の誤断を導き、敵の認識を錯綜(さくそう)、転換させる極めて高等な戦争の手段だ。
この方向へメタバース(=インターネットを介して利用する仮想空間)の軍事利用、その活用を狙うのが米国と中国、そしてロシアだ。
技術的には米国が有利とはいえ、文化的背景や文字伝統からいえば、中国に強みがある。何しろ、「孫子の兵法」とは戦わずして勝つ、それは相手をだます技術である。
軍事技術面からメタバースを見直すと、アバターが仮想空間で動き回るわけだから、軍事訓練、戦争パターンの設計、過去の戦歴や指導者の行動の分析、相手の行動様式を探る。新しい反撃の設計、司令、実践を行う。ゲーム空間が際限なく広がる。
敵の従来的な思考パターン、認識能力の優劣、行動決定に際してマインドコントロール的な影響を与え、あるいは誤断させる材料を供与し、軍事行動パターンの特性を制御し戦争に勝つことである。
しかし、メタバースで優れたAIを駆使しても超えられない分野がある。「モラル」である。戦争は不条理であり、合理主義では解決できない精神の領域が濃厚に絡む。中国のハイブリッド戦略がそのレベルを達成するには、まだ時間がかかりそうだ。
■宮崎正弘(みやざき・まさひろ) 評論家、ジャーナリスト。1946年、金沢市生まれ。早大中退。「日本学生新聞」編集長、貿易会社社長を経て、論壇へ。国際政治、経済の舞台裏を独自の情報で解析する評論やルポルタージュに定評があり、同時に中国ウォッチャーの第一人者として健筆を振るう。著書に『歩いてみて解けた「古事記」の謎』(育鵬社)、『日本の保守』(ビジネス社)、『歪められた日本史』(宝島社新書)など多数。
https://www.zakzak.co.jp/article/20220806-2KZZNT2BT5OYXLLMRKEHDC6PMM/
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