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果林「夏だし、怖い話の1つでもないの?」 彼方「あるよ~」
果林「えっ? あるの?」
彼方「あれは、2年前の……夏休みが少し過ぎたあたりのことだったかなぁ」
彼方「その日はね? 朝から気分が少しどんよりしてて」
彼方「遥ちゃんに心配されてた覚えがある」
彼方「でも、特に何かがあったってわけじゃないんだよねぇ」
彼方「駅前で遥ちゃんと別れて、普通に学校行って……お昼食べて、帰りのHRが終わってさようなら」
彼方「普通に家に帰ったの」
果林「……そこまで聞くと、別に何でもないわよね?」
果林「……」
果林「え、もしかして彼方が初潮来たのって、そのときとか?」
果林「気づいたら足元まで血が流れてたとか」
彼方「え~違うよ~」
彼方「本当に、ごく普通だった」
彼方「おかしかったのは、お夕飯の時」
彼方「お母さんは仕事だから遥ちゃんと自分の2人前作って、食べてたんだけど」
彼方「なんだかすっごく……部屋が暗く感じたの」
彼方「いつも遥ちゃんといるときは雰囲気そのものがぽかぽかとして明るいんだけど」
彼方「その日はなぜか、真っ暗な感じ」
彼方「遥ちゃんとお話も弾まなくて」
彼方「段々と、話すのも億劫になってきちゃって、最終的には一言も話さなくなった」
果林「……っ」
彼方「遥ちゃん。一緒にお風呂入ろ~って誘っても」
彼方「遥ちゃん、何にも言ってくれなくて」
彼方「……朝はあんなに元気で明るかったのに何かあったのかなって心配になっちゃって」
彼方「でもね? 遥ちゃんは何を聞いても答えてくれなかった」
果林「……」ドキドキ
彼方「だから、じゃぁ先にお風呂入って良いよ~って、遥ちゃんを先にお風呂に行かせたの」
彼方「洗い物とかもしちゃいたかったっていうのもあるけど」
彼方「入れたばかりの湯船に浸かって貰った方が気持ちがいいかな~って思って」
彼方「それで、気持ちが落ち着いたらいいなって」
彼方「でも……」
彼方「30分以上経っても遥ちゃんが出てこないから、どうしたんだろうって脱衣所に行ったら」
彼方「もう、電気が消えてた」
果林「えっ?」
彼方「遥ちゃん、彼方ちゃんに何にも言わずに出ちゃってたんだ」
果林「遥ちゃんが……?」
果林「彼方が何か大切なこと忘れてたとかじゃないの?」
彼方「ううん。遥ちゃん記念日手帳を確認しても、何にもない日だった」
果林「んっ?」
彼方「でね、お部屋に行ったら遥ちゃんはもう布団に入ってて」
彼方「……だから、せめて一緒に寝ようよって、声をかけて急いでシャワーを浴びたの」
彼方「遥ちゃんを待たせないようにって全部で10分くらいだったかな……」
彼方「できる限り早く出て、パジャマに着替えて部屋に戻った」
彼方「当然と言えば当然だけど、遥ちゃんはちゃんと部屋にいてくれてね」
彼方「一緒に寝よ? って、遥ちゃんの方のベッドに入って」
彼方「遥ちゃんのことぎゅ~ってしたの」
彼方「ちょっとした不機嫌なことがあってもね? そうすると」
彼方「も~お姉ちゃん苦しいよ~って可愛らしく抱きしめ返してくれたり、笑ってくれたり」
彼方「いつもの調子に戻ってくれたりするから、今日もそうやって話してくれないかな~って」
彼方「けど、遥ちゃんは何にも言わなかった」
彼方「抱きしめ返してもくれないし」
彼方「笑いもしなければ何にも言わない」
彼方「それどころか、全然……温かく感じなかった」
果林「っ……」
彼方「遥ちゃん? 遥ちゃん?」
彼方「耳元でそう囁いても、全然反応してくれない」
彼方「まるで、彼方ちゃんがそこにいないかのような反応だった」
彼方「だから、彼方ちゃん泣きそうになっちゃって」
彼方「何かあったなら話して欲しい」
彼方「こっちを見て欲しい、抱きしめ返して欲しい、また笑顔を見せて欲しい」
彼方「そうやって、何度も遥ちゃんにお願いした」
彼方「だけどやっぱり、遥ちゃんは無反応」
彼方「そして……」
彼方「ピリリリリリリリリッ!」
果林「!」ビクッ
彼方「って、携帯に着信が入ったの」
彼方「正直、出なくてもいいかな……って、思ったんだけど」
彼方「遥ちゃんが何にも反応してくれないし、時間も時間……22時前だったかな?」
彼方「だから急用かもって思って、電話に出ることにしたの」
彼方「遥ちゃん、待っててねって声をかけて、やっぱり無反応で」
彼方「泣きそうな気持を深呼吸で抑え込んで、携帯を取ったの……」
彼方「普通は相手を確認するんだけど、そんな余裕がなくて」
彼方「すぐにもしもし? って、出ちゃったんだ」
果林「そ、それで?」
彼方「……」
彼方「そしたら、向こうから聞きなれた声で」
彼方「お姉ちゃんっ、こんな時間に電話しちゃってごめんね」
彼方「って、聞こえてきたの」
果林「えっ?」
彼方「電話の相手はね、遥ちゃんだったんだ」
果林「ま、まって……遥ちゃんは、彼方と一緒にいたんでしょ?」
果林「なのに電話?」
彼方「うん……電話」
彼方「彼方ちゃん驚いちゃって、何にも言えずにいると」
彼方「向こうから、お姉ちゃん? 大丈夫? って、心配そうな声が聞こえてきた」
彼方「癖……かな。大丈夫って答えちゃったんだけど、たぶん、声が震えてたと思う」
彼方「だって、遥ちゃんはすぐそこにいるのに」
彼方「まるで、遥ちゃんは傍にいないみたいに」
彼方「遥ちゃんの生の声は聞こえないし、向こうから彼方ちゃんの声も聞こえてこなかったから」
彼方「その電話の遥ちゃんは、彼方ちゃんが震えてるの気づいたんだと思う」
彼方「本当に大丈夫? ビデオ通話にする? って、言ってきた」
彼方「……正直、怖かった」
彼方「そこにいるはずの遥ちゃん」
彼方「でも、電話してくる遥ちゃん」
彼方「……ビデオ通話にして、いったい誰が出てくるんだろうって」
果林「遥ちゃんの悪戯かも……」
彼方「ううん。遥ちゃんはそんなことしない」
彼方「だから、怖かった」
彼方「悪戯なんかじゃないって分かり切ってたから」
彼方「でも、確かめるために……ビデオ通話できるならしようよって、答えた」
彼方「そしたら、その電話の遥ちゃんすっごく喜んでた」
彼方「本当はこっちの方が良かった」
彼方「顔が見たかった」
彼方「って……明るい声、可愛い声、大きな声」
彼方「でも、彼方ちゃんのすぐ後ろのベッド、その2段目にいるはずの遥ちゃんからは」
彼方「何にも聞こえなかった」
果林「……」ドキドキ
彼方「……ほんの少しだけ間を開けてビデオ通話になったんだけど」
彼方「映ったのは、遥ちゃんだった」
彼方「お風呂上がりで髪をまっすぐ下ろして……学校のジャージを着てる遥ちゃん」
彼方「彼方ちゃんに向かって」
彼方「お姉ちゃ~んっ」
彼方「って、笑顔で手を振って見せてくれたの」
果林「え……」
果林「じゃ、じゃぁ……まさか」
彼方「うん……」
彼方「ビデオ通話してるのが間違いなく遥ちゃんだった」
彼方「背筋が凍る……って、本当にあるんだって思った」
彼方「急に部屋が静まり返った気がしたし、暗くもなったような感じがした」
彼方「ドキドキして、吐きそうな感じがした」
彼方「今、彼方ちゃんと一緒にいるのは……だれ? って」
彼方「彼方ちゃんの顔が強張ったのが見えたんだと思う」
彼方「遥ちゃんがすごい心配そうな顔をして」
彼方「大丈夫? 何かあった?」
彼方「って、聞いてくるから……彼方ちゃん、もう泣きそうになって」
彼方「お願いだからこのまま通話したままで居させてって、叫ぶように願った」
彼方「遥ちゃんはびっくりしてたけど、凄く真剣に頷いてくれたんだ」
彼方「それでね、勇気もらって……確かめることにしたの」
彼方「彼方ちゃんが一緒にいたのは誰なのか」
果林「や、やめた方が……」
彼方「ううん、だって……遥ちゃんじゃないなら、赤の他人が遥ちゃんのベッドを使ってるってことだから」
彼方「追い出さなきゃいけないし……」
彼方「なにより、知らない方が怖かった」
彼方「勇気もらったって言っても、怖いものは怖いから」
彼方「遥ちゃんの顔を見ながら、少しずつ近づくことにしたの」
彼方「お姉ちゃん、気を付けてね」
彼方「って、遥ちゃんの声が聞こえてくるのが凄く嬉しかった」
彼方「きしっ……きしっ……きしっ……」
彼方「ってベッドの階段が軋んで……」
彼方「彼方ちゃんは一思いに、遥ちゃんのベッドを覗いたの」
彼方「でもね、そこには誰もいなかった」
果林「っ……」
彼方「まるで、初めから誰もいなかったんじゃないかってくらいに」
彼方「丸まった布団がのってるだけだった」
彼方「それで彼方ちゃん、気が抜けちゃって」
彼方「遥ちゃんが凄く心配してくれるから、事情を話したんだ」
彼方「今日、夕方から一緒にいた遥ちゃんが」
彼方「全然話してくれないし、暗いし、笑顔も見せてくれなかったって」
彼方「そしたら遥ちゃん、笑って」
彼方「そんなのあり得ないよ~私、今修学旅行中だもん」
彼方「って、言ったんだ」
果林「それって……」
彼方「うん」
彼方「夕方からの遥ちゃん、全部彼方ちゃんの妄想だった」
彼方「遥ちゃん欠乏症で、勝手にいる前提で動いちゃってたみたい」
果林「は?」
彼方「それで思い出してリビング行ったら、遥ちゃんの分のご飯が普通に残ってて焦っちゃった」
彼方「いや~……あの時は本当に怖かったよ~」
果林「待って、その……一緒にいたはずの遥ちゃんは幽霊だったとかじゃなく」
彼方「うん、完全に妄想だった」
彼方「脱衣所にも、彼方ちゃんの分のしかなかったし」
彼方「遥ちゃんの制服とか靴とかもなかった」
果林「……怖い話?」
彼方「え、怖くなかった?」
彼方「彼方ちゃん、途中までは本当に怖かったんだよねぇ~」
彼方「だって、本当に普通じゃなくて」
彼方「ほんとう……」
果林「ま、まぁ……オチが彼方に悪さするものじゃなくてよかったけど」
果林「今は平気なの?」
彼方「うん、1泊2日くらいなら、脳内遥ちゃんを錯覚することはないかな~」
果林「……彼方が怖いわ」
彼方「面白くなかった?」
果林「よかったわよ。それなりに」
果林「オチが、こう……拍子抜けだったけど」
果林「でもあれよね」
果林「実体験の場合はそっちの方が安心するっていうか」
果林「何か怖いことがあった場合の話って、なら今はどうなんだろうって不安になっちゃうもの」
彼方「そうだねぇ~」
彼方「あ、もう1つ怖い話あるよ」
彼方「聞く?」
果林「そうね……せっかくだし」
彼方「これは……今年に入ってからだったと思う」
果林「最近じゃない……」
彼方「うん……あ、でもね」
彼方「なんていうか、本当にそうなのかなって」
彼方「実は前からそうだったんじゃないかって、遥ちゃんも思ってるんだけど……」
果林「何があったの?」
彼方「えぇっと」
彼方「その ” 何か ” が起きるのは決まって夜のことなんだよねぇ……」
彼方「その日はお母さんが仕事で居なくて、遥ちゃんと二人っきりの日だった」
彼方「一緒にお夕飯食べて、一緒にお風呂入って」
彼方「それで……」
彼方「遥ちゃんが、一緒に寝よ? って、誘ってきたのをよく覚えてる」
果林「仲良いわね……」
彼方「えへへ」
彼方「お母さん居ないから、今日は出来るね。って、喜んでベッドに入って」
彼方「遥ちゃんのこと抱いてたの」
果林「ん?」
彼方「最初の方は、ただ彼方ちゃんと遥ちゃんの声がするくらいで」
彼方「いつも通りだった」
彼方「けど……10分くらい経ってからかな」
彼方「急に」
彼方「とんとんっ……とんとんっ」
彼方「って、壁から音が聞こえてきたの」
果林「ドンッ ってされないだけよかったじゃない」
彼方「夜中だったから、うるさくしすぎちゃったかなって思って」
彼方「遥ちゃんには口を押えて貰って、できるだけ静かに続けてたんだ」
果林「やめないのね」
彼方「だって、1週間ぶりくらいだったから、気持ち溜まってたというか」
彼方「だから我慢できなくて……遥ちゃんのことぎゅっってして……くにくにして」
彼方「ちゅっってしてたんだけど」
彼方「そしたら、また」
彼方「とんとんっ、とんとんっって、壁から音が聞こえたの」
彼方「遥ちゃんは声抑えてたし、彼方ちゃんもできる限り声を抑えてたから」
彼方「隣に聞こえてないはずなのに」
彼方「それが、10分から15分おきに続いたの」
果林「まさかその間ずっとやってたの?」
彼方「ん~……1時間くらいはずっとやってたかな」
彼方「汗だくになっちゃって、色々びしょびしょになっちゃってたから」
彼方「もう一回シャワーだけ浴びよう? ってなったときに、1時間くらい経ってたって覚えがあるから」
彼方「で……さっぱりして部屋に戻ると」
彼方「こんこんっ……こんこんっ」
彼方「また、壁から音がしたの」
彼方「今度はさっきよりも軽い音」
彼方「遥ちゃんが」
彼方「もうっ……邪魔しないで欲しいのにっ」
彼方「って、可愛い顔でむっとして壁に近づいたら」
彼方「また、とんとんっ……とんとんとんとんっ……って、叩く音がした」
彼方「そうしたら、遥ちゃんが」
彼方「とんとんっ、とんとんって叩き返したの」
果林「……怒られた?」
彼方「だと思う」
彼方「遥ちゃんが叩き返した後、少し経って」
彼方「ドンッ!!」
果林「っ」ビクッ
彼方「ってされちゃったから」
果林「ちょっと、急に大声はやめてよ……」
彼方「でもね?」
彼方「それから壁が叩かれることはなくなったんだ」
彼方「でも、遥ちゃんびっくりして怯えちゃって」
彼方「これは何か言った方が良いなって、明日話を聞いてみようかなって思ったの」
果林「ちょ……やめた方が良いんじゃない?」
彼方「ううん」
彼方「もしかしたら彼方ちゃん達がうるさかったからかもしれないし」
彼方「そうじゃなければ、向こうが何かやってるってことだから」
彼方「ちゃんと話をするべきだ~って……」
彼方「だから、彼方ちゃん次の日がちょうどお休みだったから、お昼くらいにお隣さんのところ行ったの」
彼方「でも」
彼方「ぴんぽーんって、2回くらいならしても出てこなかった」
彼方「果林ちゃんも着たことあるから分かるよね?」
彼方「彼方ちゃんの家はお隣さんとかの、出入りの音がはっきり聞こえちゃうんだけど」
彼方「その日は1度もそんな音がしてなかった」
彼方「だから、寝てるのかもって思ったんだ」
彼方「だけど、戻る途中で誰かが階段を上ってきて、そして」
彼方「近江さん?」
彼方「って、後ろから声がかけられたの」
彼方「振り返ってみると、お隣さんだった」
果林「え?」
彼方「手に持ってた紙袋から一つ箱を取り出して」
彼方「これ、旅行に行ってきたから、お裾分け」
彼方「って、お菓子をくれたの」
果林「えっ?」
彼方「驚いちゃった……」
彼方「だって、お隣さんは1人暮らしで」
彼方「昨日は、旅行で家に誰もいなかったはずなのに」
彼方「……彼方ちゃん、怖くなってそのことすぐに話したの」
彼方「昨日の夜に変な音がしたから、誰かいるかもって」
彼方「お隣さんは、そんなはずないって笑って家の中に入って」
彼方「しばらくして、何もなかったよって平然と出てきた」
彼方「でも、壁の音は気のせいじゃなかった」
彼方「間違いなく聞こえてきてた」
果林「……それで?」
彼方「うん……」
彼方「1週間くらいしてから……かな。そのお隣さんは、病気で入院しちゃったんだ」
彼方「救急車が来て、搬送」
彼方「1ヶ月くらいしてから戻ってきたんだけど……そのまま退去」
彼方「その時に」
彼方「 ” 何かいる ” 」
彼方「って、その人は言ってた」
果林「え……」
果林「壁を叩く音は、まだ聞こえるの?」
彼方「それが、その人が退去してから聞こえなくなったんだよね」
彼方「気になったのは」
彼方「そのお隣さんが不在の日以外の壁を叩く音も、実はその人じゃなかったんじゃないかってこと」
彼方「……その ” だれか ” は」
彼方「いつから、そこにいたんだろうって」
彼方「……」
彼方「果林ちゃんの部屋は……大丈夫?」
ひめのん草
果林「だ、大丈夫よ……」
果林「別にそんな音聞こえたことないし」
果林「誰かがいるような感覚なんて一回も感じたことないし……」
彼方「そっか」
彼方「あ、でもね」
彼方「 ” それ ” はたぶん、知覚しちゃいけないんだと思う」
彼方「お隣さんも、彼方ちゃんがその話をするまでは何もなかったから……」
果林「え、は……」
果林「ちょ、ちょっと!?」
彼方「だから、気を付けてねぇ~」
果林「ふざっ……彼方!」
彼方「じゃぁ、そろそろ解散で~」
果林「ちょ……嫌よ! 帰りたくなくなっちゃったじゃない!」
果林「責任取って家に泊めなさい!」
果林「彼方っ!」
ピリリリリリリリリリッ……
果林「……えっ?」
お見事です乙でした
と思ったらホラーだった
引き込まれたわ
練られたストーリーで面白かった
言われてるとおり彼方ちゃん語り部だと雰囲気出るね