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【韓国】 日韓の長い中断と深い認識ギャップ 尹政権は対日関係を改善できるか…「現金化」、元徴用工訴訟問題
韓国で5月に発足した尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権が、日本との関係改善に強い意欲を見せている。ロシアによるウクライナ侵攻を受けた国際秩序の変動や核・ミサイル開発をやめようとしない北朝鮮の脅威を考えれば、日米韓の連携強化は必然だ。安全保障問題を重視する保守派でもあり、尹政権が対日政策を立て直そうと考えるのは自然だろう。
一方で日本側は新政権への期待を抱きつつ、文在寅(ムン・ジェイン)前政権下で積み重なった不信感から依然として抜け出せていない。韓国新政権は現状をどう見ているのだろうか。6月上旬にソウルを訪れ、新政権の関係者らに話を聞いた。
◇尹氏は積極的
「我々は韓日関係を積極的に改善しようと思っているのだが、日本側が様子見という感じでねえ」
尹政権の外交政策全般にかかわる重鎮は開口一番、ため息をついた。ただ一方で、7月に参院選を控えていて動きづらいという事情は理解できると語り、「急ぎすぎると韓国内でも反発を呼ぶ可能性がある。ある程度、時間がかかるのは仕方ない」と淡々と続けた。
まだ発表されていなかったが、スペイン・マドリードでの6月末の北大西洋条約機構(NATO)首脳会議への岸田文雄首相と尹氏の出席が取り沙汰されている時期だった。その場を利用して初の日韓首脳会談が開かれるのか、あるいはバイデン米大統領を交えた日米韓首脳会談が開かれるのかと注目されていた。
だが彼はこの点について、「大統領は、岸田さんの都合に合わせればいい。日韓首脳会談をできればいいけれど、無理をする必要はないと言っている」と語った。
対日政策に関係する韓国側の関係者が口をそろえるのは、日本との関係改善については尹氏がもっとも積極的だということだ。ある高官は「周囲がトーンダウンさせている」と苦笑した。本人の経歴として日本と強い接点を持つわけではないが、経済学者である父、尹起重(ユン・キジュン)延世大名誉教授の影響を挙げる関係者はいた。幼かった尹氏を連れて一橋大学に留学した経験を持つ父は、日本との経済協力の重要性を力説するのだという。
日本側にも、政権交代を契機に行き詰まりを打破することへの期待感は出ている。尹氏は就任前に政策協議代表団を日米両国に派遣したが、この際に面会を打診された日本側関係者はみな応じた。日程の調整がつかなかったのは菅義偉前首相だけで、受け入れ準備をした日本政府当局者が「これほど詰まった日程表は見たことがない」と驚くほどだった。
◇依然残る認識ギャップ
ただし、日本側の懸念が完全に共有されているわけではない。政策協議代表団のメンバーは、日本側との面会を重ねた感想として「日本が『現金化』を強く懸念していることが、よく分かった。ここまでとは思わなかった」と漏らしていた。
「現金化」とは、元徴用工への賠償に充てるため日本企業の資産が売却されることを指す。韓国最高裁の判決で賠償を命じられた日本企業の資産は既に差し押さえられ、競売へ向けた司法手続きが韓国で進められている。
「現金化」が現実のものとなれば日本企業に実質的な被害が生じることになり、日本政府としては韓国に対する制裁などの対抗措置を取らざるをえない。それだけに日本側は「現金化だけは駄目だ」というメッセージを発してきた。だが前述の反応は、対日関係を重視する尹氏が日本に派遣した代表団にすら日本の危機感が共有されていなかったことを意味する。
(「アジア時報」7・8月号より)【澤田克己】
毎日新聞
https://news.yahoo.co.jp/articles/a26eeabefe74d81abbb1bf0a6cf814ebe30c96d4