あわせて読みたい
【静岡】リニア「水問題」新聞が報じない静岡県の大矛盾 県外流出する水量は年間変動幅のわずか0.5%
リニア静岡問題を議論する国の有識者会議で、水循環研究の第一人者、沖大幹・東京大学教授(水文学)が静岡県の姿勢を厳しく批判した。
沖発言の基になったJR東海作成の「水循環図」が、リニアトンネル掘削による大井川下流域への影響があまりに小さいことを教えるが、会議を取材した新聞、テレビは一切、報道しなかった。沖教授の“爆弾発言”も川勝平太静岡県知事らは無視したままである。
リニア静岡問題の核心は、川勝知事が、大井川流域住民の“命の水”を守るとして、JR東海のリニアトンネル建設で失われる湧水全量を戻すことを求めていることだ。この問題が解決するまでは、トンネル工事に必要な河川法の占用許可を認めない姿勢を知事は崩さない。
■「中下流域の水量」は維持される
2月7日に開かれた第8回有識者会議で、JR東海はトンネル掘削に伴い、減少する大井川の流量を導水路トンネルの設置で戻す計画を示し、大井川に湧水全量を戻せば、中下流域での河川流量は維持されることを明らかにした。さらに、県境付近の断層帯を山梨県側から上向きに掘削、全く対策を立てなければ、最大約300万~500万立方メートルの湧水が県外に流出すると推計、導水路トンネルで大井川に戻す量を考慮すると、中下流域の河川流量は維持されると説明した。
有識者会議の指摘を踏まえ、JR東海は一般の人たちが理解しやすいように、中下流域の影響等を視覚的に伝える大井川の水循環図を作成している。第7回会議で種類の違う3枚の水循環図を作成、第8回会議では、「現状の水循環量」について、国土交通省や中部電力の公表したデータを基に上流、中流、下流域で河川流量がわかる4枚目の水循環図を提示した。
新たな水循環図で沖教授が注目したのは、下流域にある川口発電所付近の河川流量。上水道、農業、工業の利水団体が年約9億立方メートルの水利権を持ち、川口発電所付近にある2つの取水口から表流水を取り入れている。川口発電所下流の神座地区で国が実測した河川流量は年約19億立方メートルで、水利権量の約9億立方メートルを合計すると下流域の河川流量は年約28億立方メートルにも上ることがわかった。
神座地区の河川流量は平均約19億立方メートルだが、年による変動幅はプラスマイナス9億立方メートル。つまり、水量の多い年は28億立方メートルだが、最も少ない年の流量は10億立方メートルとなってしまう計算である。
沖教授は、大井川下流域の河川流量の変動幅約9億立方メートルに着目して、「トンネル掘削による県外流出量は(最大)500万立方メートルや300万立方メートルであり、非常に微々たる値だ。これを問題視するのであれば、静岡県は年に何億立方メートルも変動する水量をいかに押さえて、住民が安定して水を使えるように努力しているのか」など疑問を投げ掛け、県の姿勢を正した。
500万立方メートルは変動幅約9億立方メートルの0.55%と極めてわずかにすぎない。リニア工事による県外流出量は年間の変動幅に吸収されてしまう値である。県も、国や中電などの公表データを把握しているから、大井川下流域の豊富な水循環量を十分、承知しているはずだ。
■県は利水安定化策に取り組んでいない
それにもかかわらず、川勝知事は「県外流出は水一滴でもまかりならぬ」と主張してきた。もし、500万立方メートルの流出だけでなく、「水一滴」にこだわるならば、県は変動幅約9億立方メートルもの水をコントロールするためにさまざまな対策を立てているはずだから、「具体的に示せ」と追及したのだ。県水利用課によれば、県は節水などを呼び掛けるだけで、沖教授に答えられるような利水安定対策に取り組んでいない。
静岡県は非常に微々たる値でしかない県外流出量を大きな問題にしている一方で、利水安定のための方策は何もやっていないのではないか、と沖教授は厳しく批判したのだ。
第1回有識者会議の席で、金子慎JR東海社長が「トンネル工事がどういう仕組みで被害を発生させるのか、専門的な知見から影響が起きる蓋然性(実際に起きるかどうかの確実性の度合い)がどの程度なのか示してほしい」など要望した。沖発言はまさに、リニア工事による下流域への影響はほとんどないという蓋然性を数字で説明したのだ。
今回の水循環図を詳しく見ると、リニア工事を行う上流域の井川ダムの河川流量は年約12億立方メートルで、こちらの年変動幅はプラスマイナス3億立方メートルと見積もっている。上流域で3億立方メートルもの変動幅があり、リニア工事による県外流出量を最大500万立方メートルとすれば、変動幅の1.66%にしかすぎない。
(略)
東洋経済2/27(土)
https://toyokeizai.net/articles/-/413937