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元受刑者が語る、出所後に待ち受けた現実「120社以上の求人に応募したが全滅」
令和2年の出所受刑者数は1万8923人。そのほとんどがマイナスからの人生の再出発を余儀なくされている。社会に出た元受刑者はどのような境遇に陥っているのか、我々取材班はその実像に迫った。
◆受刑者たちが語る、出所後に待ち受けた現実
「元受刑者」という言葉に、人はどんなイメージを抱くだろうか。刑務所で罪を償って出てきても、その後の人生が苦難に満ちているのは、容易に想像できる。しかし、どこにでもいそうな社会人がふとした弾みで犯罪を犯し、その後の人生が狂ってしまうケースも少なくはない。
3年前に出所した九州在住の松下直人さん(仮名・39歳)は、順調に仕事をこなし、人情味に溢れ、同僚や友人からの信頼も厚かった。だが、たった一度のボタンの掛け違いで今も苦しみ続けている。
「逮捕容疑は強盗罪でした。とはいえ、コンビニや銀行から奪ったわけではありません。『愛人を妊娠させてしまって50万円が必要』という理由で、なけなしの貯金からお金を貸していた後輩が飲み屋で派手に飲んでいるのを発見してついカッとなり、『飲むカネがあるならちゃんと返せ!』と殴りかかって持ち金を回収したことで逮捕されました。当時は自分が貸したカネを取り返しただけなのに、という理不尽な気持ちになりましたね」
◆120社以上の求人に応募したが全滅
もともと建設関連の技術職として10年以上働き、スキルもあった松下さんだが、出所後の現在はまったく無関係の清掃会社で働いている。
「刑務所内では、出所1年ほど前から仕事を紹介されるのですが、中卒の見習いと同じ月給の15万円の提示。憤慨してそれは破談になりました。出所してから探せばどこか見つかるだろうと思っていたのですが、地元で『松下が捕まったらしい』と逮捕後に噂が広まっていて、完全にブラックリスト入り。
2年間仕事を探し続け、120社以上の求人に応募をしましたが、ことごとくダメで……。結局、現在は鹿児島の田舎町に引っ越し、名前も変え、やっと清掃員の職を見つけることができました」
◆刑期を全うしてもつきまとうレッテル
仕事を再開した、その日は実に出所から789日目。松下さんのメモには生々しくその数字が刻み込まれている。自身の経験から、社会復帰の難しさを松下さんはこう話す。
「逮捕には不服でしたが、それでも自分なりに事件を受け入れ、刑務所で罪を償いました。それなのに、雇う会社が犯罪歴がある人間を頑なに受けいれてくれない。
刑期を全うしたにもかかわらず、社会はいつまでも僕を“犯罪者”として見ている気がします。高望みはしませんが、社会の側にも許容する気持ちを持ってもらいたいと思いますね」
◆採用者の9割が“飛ぶ”出所者雇用の現状
少年院・刑務所専用求人誌『Chance!!』の編集長を務める三宅晶子氏は、「元受刑者の再就職への道は非常に厳しいのが現実」と話す。
「出所者の9割は“飛ぶ(行方不明になる)”と、業界では言われてきました。理由の一つは、犯罪歴があることで足元を見られるから。劣悪な生活環境だったり、ハローワークで紹介された仕事の給料が実質的に最低賃金を下回っていても、選択肢が限られている元受刑者側は甘んじて受け入れるしかありません。当然そのような酷い環境で仕事は長続きしませんし、それなら犯罪で暮らしていくほうが楽だと再犯に走るケースも少なくはありません」
一方、元受刑者を冷遇する企業側の意見にも納得せざるを得ない。三宅氏が続ける。
「元受刑者を雇っても会社の備品の持ち逃げや転売、社員同士で喧嘩を起こしたりと、トラブルが多いと聞きます。ハローワークの受刑者専用の求人枠の応募では、個人情報保護の観点から罪状は伏せられることが多いのです。そのため、もし再犯率の高い性犯罪や薬物犯罪だった場合に企業側のリスクが大きい。それも逮捕歴のある人をストレートに雇いづらい理由でしょう」
◆高齢の元受刑者が改心できた理由
検挙人数中の高齢者率は年々増加の一途を辿る。ここでは何度も再犯を繰り返しながらも、社会復帰を成功させた高齢犯罪者の1例に迫りたい。
「4回目に逮捕されるまでの約40年は、ヤクザの下請けのような仕事をしていました。最初の逮捕は覚せい剤で、あとの3回は詐欺罪。今は真面目に働いていますが、結局自分自身が変わらないと真人間にはなれないなと痛感しています」
そう話すのは赤坂真一さん(仮名・65歳)。現在は地元を離れ、東北地方で奥さんと暮らしている。
「4回目の逮捕前に結婚した妻が『ちゃんと待ってるから、出てきたら頑張ってやり直そう』と、面会や手紙で支え続けてくれたことが改心できた大きな理由です。それまでは、出所しても誰とも繋がりがなくて、結局一緒に悪さしてた仲間と遊んでしまうんだよね」
◆「気持ちを入れ替えても犯罪歴は一生ついて回る」
出所後は、詐欺グループとの関わりをきっぱりと絶ち、地元を離れた赤坂氏。勝手のわからない土地でどのように仕事を探し始めたのか。
「ハロワークで、1人でできる仕事に絞り、探しました。つい同僚にカッときて手を出し、逮捕なんてことは避けるためです。多少選んでしまったことと年齢のこともあり、応募できる仕事数は激減しました。そんな私にとって、面接は一本一本が真剣勝負。とにかく、これまでの経歴を誰かにツッコまれても、なんとなくそれっぽい話で濁せるよう、今までは、自分が好きな外車や高級時計などを売るバイヤーをしていたことに。40社程度を受け、マンションの管理人の仕事が決まりました。嘘をつき続けるのはハラハラしてしんどいですが、人間本気で変わろうと思えば、あの手この手と再就職するための方法を考えるもんですよ」
もう犯罪に手を染めるつもりはないと断言する赤坂さんだが、時折後ろめたい気持ちになることもあるという。
「マンションの一室で首吊り自殺があり、私が第一発見者として警察から事情聴取されたことがありました。名前を伝えると逮捕歴が照会されたみたいで、警察官の『あっ』という驚きの表情が印象的でした。完全に自殺だったので特に何もなかったですが、気持ちを入れ替えても犯罪歴は一生ついて回るんだなと切なくなりましたね」
社会復帰の難しい受刑者たち。仮に就職ができたとしても、世間とは分厚い壁が残り続ける。
取材・文/SPA! リスタート特別取材班
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