あわせて読みたい
『ジョジョ』出演という“人生の夢”を叶えたファイルーズあいは、これからどこへ向かうのか? 「やりたいことが多すぎて時間が足りない!」と語った彼女の“次なる目標”
いまから3年前。
ニコニコニュースオリジナルは、2019年夏に放送されたアニメ『ダンベル何キロ持てる?』で自身初となる主人公を演じた、声優・ファイルーズあいさんにインタビューを実施した。
そこで彼女は、高校生の頃に出会ったマンガ『ジョジョの奇妙な冒険 ストーンオーシャン』に出会ったことが声優になったきっかけで、『ストーンオーシャン』の主人公・空条徐倫に何度も勇気づけられてきたと語った。
「『ストーンオーシャン』がアニメ化したら、徐倫役のオファーがあるかもしれませんね」なんて話にもなった。
『ダンベル何キロ持てる?』出演以降、ファイルーズあいさんは『推しが武道館いってくれたら死ぬ』など数々のアニメでメインキャストを務め、『トロピカル~ジュ!プリキュア』では、主人公・キュアサマーを演じた。
そして今年の4月から放送されているアニメ『ジョジョの奇妙な冒険 ストーンオーシャン』では、空条徐倫を演じている。
スター街道を爆走し、「徐倫を演じる」という、彼女の人生にとってこれ以上ないほどの「憧れ」に手が届いてしまったように見えるファイルーズあいさん。
彼女はいま、自身のこれまでの歩み、そしてこれから進む道をどのように考えているのだろうか?
ニコニコニュースオリジナルで連載中の、人気声優たちが辿ってきたターニング・ポイントを掘り下げる連載企画、人生における「3つの分岐点」。
大塚明夫さん、三森すずこさん、中田譲治さん、小倉唯さん、堀江由衣さんに続き、第6回となる今回はファイルーズあいさんにインタビューを実施した。
3年ぶりにインタビューの場でお会いしたファイルーズあいさん。
インタビュー室でお会いするなり「3年前はありがとうございました!あのインタビューのおかげでたくさん注目していただけたんです」と言ってくださった。
どこまでも明るく前向きで、太陽のようにその場にいる人全員を巻き込んでいく、このパワーの秘訣はどこにあるのか。このインタビューで、少しは迫れたのではないかと思う。
人生を振り返るロングインタビュー、ぜひ味わってほしい。
分岐点1:小学生5年生でエジプト留学
──ファイルーズさんには、3年前にもニコニコニュースオリジナルのインタビュー記事にご登場いただきました。
ファイルーズあい:
もちろん、覚えてます! インタビューしていただいた部屋も、前回と同じですよね?
──そこまで覚えていてくださるなんて、うれしいです! 今日はあらためて、人生における3つの分岐点」というテーマでお話をうかがわせてください。事前に挙げていただいた3つの分岐点は、「エジプト留学」「『ジョジョの奇妙な冒険』との出会い」「テレビアニメ『ダンベル何キロ持てる?』への出演」とのことでした。さっそくですが、最初の「エジプト留学」はどのような意味で、ファイルーズさんの人生の「分岐点」だったのでしょうか?
ファイルーズ:
私はエジプト人の父と日本人の母から生まれたミックスなんです。
ミックスであるというアイデンティティーに誇りを持っていたものの、日本生まれ日本育ちで、心からその事実を自分の中で祝福することができなかったんですね。
たとえば、「ファイルーズあい」というのは本名なんですけど、病院で名前を呼ばれる度に恥ずかしく感じてしまったり、ヒーローショーで司会のお姉さんに「お名前は?」と聞かれるのが苦手だったりしたんです。
ミックスであることを誇りに思いたい気持ちと、コンプレックスに感じる気持ちが同時に存在していて、自分を上手くコントロールできなかった時期すらありました。
──それはつらい状態だったでしょうね……。
ファイルーズ:
「エジプトのことをもっと深く知れば、何かが変わるんじゃないか」
そう思い始めた時期に、エジプトのカイロに日本人学校があると教えてもらったんです。日本とエジプトのミックスの子たちが多く通っていて、楽しそうに学校行事に取り組んでいたり、エジプトならではの文化に触れて和気藹々としている様子を捉えた写真を見て、「これだ!」と。それで親にエジプト行きをお願いしたんです。
両親は共働きだったので、小学校5年生の途中から、エジプトに住んでいるおばあちゃんとふたり暮らしをしていました。
意志の強さは母譲り
──小学5年生にして、大きな決断をしたんですね。
ファイルーズ:
振り返って自分でも、「すごいな、小学生の私!」って思います(笑)。エネルギッシュで行動力の塊でした。
でも、エジプトに行ってからも、大変なことはたくさんありました。給食がないので、毎朝自分でお弁当を作らなきゃいけなかったんです。朝の6時前にはスクールバスが来て、そこから1時間半くらい掛けて学校に行くという暮らしをしていました。
──その暮らしを年単位で続けるのは、本当に意志が強くないとできませんね。
ファイルーズ:
意志の強さは母から受け継いだのかなと思います。母は私になんでもやらせてくれた。行きたいところも、どこへでも連れて行ってくれた。さらに毎朝お仕事に行きながら、お弁当も作ってくれていた。
どれも強い意志がないと続かないことです。エジプトでお弁当を作っていたとき、母の偉大さをあらためて感じたのも、いい経験でした。
──お話を聞いていると、いろいろご苦労があって、ずいぶん大人びたお子さんになられていた印象を受けます。
ファイルーズ:
いやいや、そんなことをいいつつ、寂しくて夜に泣いちゃうことも沢山あったんですよ。
エジプトの人たちって「親切」なんですよ。社交性が高くて、「隣にいる人は友達だ」くらいの感覚で、街中でも話しかけてくれる。私の感覚だとフレンドリーすぎるだろ!? と感じるときもあるくらい(笑)。
でも自分の中の日本人的な部分……食文化だとか、対人関係の距離感をわかってくれる人が、エジプトでは親戚ですらいないわけですよ。
──想像するだけでツラいです。私なら1週間で帰りたくなると思います。
ファイルーズ:
でも、そうしたいろいろなことを全部ひっくるめて、結果的には行ってよかったと思っています。弱い私が、約1年半のエジプト生活でいなくなった気がしました。
自立した、強い女の子になれたんですよ……少しだけ(笑)。
──少しだけ?(笑)完全に変われたわけではなかったんですか。
ファイルーズ:
大きく踏み出すきっかけにはなったんですけど、中学入学と同時に日本に戻って、そこでまた新たな「壁」に出会ってしまったんです。そして、これが第二の分岐点に繋がって行くんですよ。
分岐点2:『ジョジョ』との出会い
──第二の分岐点は、『ジョジョの奇妙な冒険』との出会いですね。
ファイルーズ:
はい。エジプトで伸び伸びと学んだ成果を発揮して、社交的に、自分の好きなものをどんどん発信しようと思って日本に戻ってきたんです。
だけど、日本で流行っているものに追いつけなくて。
──インターネットが本格的に普及する前ですもんね。国内と国外の情報の差が激しい。
ファイルーズ:
そうなんです。私だけが知らない話題で、他のみんなが盛り上がったりして、本当に悔しい毎日でした。
──聞いているだけでつらいです……。
ファイルーズ:
「やっぱり私、日本には馴染めないのかな……」って。
大好きなイラストを描いても、エジプトの日本人学校では、「上手だね! 私にも描いて!」だったのが、日本だと年頃なのもあってか、「こいつ、オタクなんだけど。キモ〜い!」みたいなことを言われてしまうのが、悲しくて、悲しくて。
──趣味ですらそんな扱いを。
ファイルーズ:
でも、好きなものは私の宝。誰がなんと言おうと、好きであり続けようと思って。
学校では暗かったのですが、家では好きなゲームをやったり、それこそニコニコ動画を観たりして(笑)、好きなものをインプットして世界を広げていったんですね。
──ニコニコがお役に立ててうれしいです。
ファイルーズ:
それこそ、ニコニコ動画をきっかけに知ったもののひとつが、『ジョジョの奇妙な冒険』でした。なんだか面白そうなマンガだなと思って、本屋さんに行ったんですよ。『ジョジョの奇妙な冒険』って、第6部の『ストーンオーシャン』で単行本の巻数がリセットされたじゃないですか。
それで「これが『ジョジョ』なんだ!」と勘違いして、『ストーンオーシャン』の1巻から5巻をいきなり買って帰ったんです。そうしたらもう、わからないワードが多くてびっくりして(笑)。
──「父親は空条承太郎? 誰? スタンド? なにそれ?」みたいな感じですよね(笑)。
ファイルーズ:
そうなんです。でも、そんな状態であっても、1・2巻を読んだ段階で私の固定観念がぶっ壊されたんです。
空条徐倫という主人公を見て、「こんな女の子、見たことない!」と。
空条徐倫のことをもっと知りたい!
──ファイルーズさんの『ジョジョ』との出会いは、前回のインタビューでも、他メディアでも語られていますが、ほんとうに何度聞いても熱い展開です。
ファイルーズ:
当時の私の固定観念だと、女の子のキャラクターって、守られたり、戦うにしても回復の能力の使い手だったりしました。
そんなときに、自分の足で蹴って、自分の腕で殴って、誰になんと言われようと意志の強い瞳を燃やして戦う徐倫の姿を見て、「なんてカッコいいんだ!」と。
「私もこんな強さを持てたら、中学校で嫌な思いをしなくて済んだのかな? もっとこの子のことを知りたい!」と思ったんです。
それから、あらためて第1部からきちんと、ちょっとずつ単行本を揃えて、高校1年の終わりには当時連載中だった第7部『スティール・ボール・ラン』の最新巻まで追いついていました。
──どハマリですね。
ファイルーズ:
そうやってハマっていく過程で、インターネットで『ジョジョ』好きな人たちと友達になりました。
そこで、ファンのみんなで、声に出して『ジョジョ』を読むことが流行っていたんです。それを見て、「私もやってみたい」と。
──そこで「キャラクターを演じる」ということをはじめてやったわけですね。
ファイルーズ:
そうですね。中学生の頃からアニメが大好きだったので、声優になりたいなと、漠然とは思っていたんです。でもそれまでは、特に具体的な目標ではなかったんですよ。
当時のアニメ好きな子って、大体「声優になりたい」とうっすら思っていた子が多かったんですけど、あくまでその一員だっただけというか。
──なるほど。
ファイルーズ:
でも『ジョジョ』の朗読会に参加して、初めて人前でお芝居したとき、めちゃめちゃ褒めてもらえて。
そこで「私、得意なことができた!」って思えたことが、生きる自信に繋がったんです。そこからはもう、ずっとワクワクキラキラするような毎日が続いて。
「明日は何部のどのシーンを朗読しようかなぁ」と考えることも、毎日の生き甲斐に繋がったんです。
「いつか徐倫と一緒に戦いたい」という夢が叶った
──「演じる」ことが、救いになったんですね。
ファイルーズ:
そんな日々を過ごすうちに、こう考えるようになったんですよ。
私、本当に徐倫のことが大好きで、徐倫のおかげで人生の辛い時期を乗り越えられた。比喩じゃなく、つらいときは心の中に徐倫を思い浮かべて、「徐倫だったらここで泣かないッ!」と思って生きていた。
だから、徐倫にはとても感謝しているんです。
だから声優になって、『ジョジョ』がいつかアニメ化したときには、徐倫のことを助ける役がやりたい……と。
こうして、漠然とした夢から、声優になる強い意志が芽生えたんです。
──何度聞いてもハートのふるえる話ですが、そんなファイルーズさんが今や本当にアニメの『ストーンオーシャン』に徐倫役で出演されているというのは、驚異的な出来事だと思います。
ファイルーズ:
声優としてお仕事ができているだけでもありがたいのに、いつか徐倫と一緒に戦いたい、傍にいたいと思っていた夢まで叶いました。
助ける役ではないですけど、徐倫の声というのは、ある意味では、徐倫の一番近くにいる立場ですからね。あと、幽波紋(スタンド)のストーン・フリーの声も担当してますし(笑)。