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コンビニトイレ公共化、オーナーの苦悩「掃除の負担が増すのに、お礼も商品購入もない」
自治体がコンビニに協力を仰ぎ、「公共トイレ」として住民に使ってもらう動きが広がっている。高齢者が外出を控える理由の1つに公共トイレの少なさが挙げられるが、自治体単独ではスピーディーにトイレを増やせないという事情が背景にある。
住民にとっては外出時に使えるトイレが増えることはありがたいが、果たしてコンビニ側にはメリットがあるのだろうか。長年トイレを提供してきたコンビニのオーナーに本音を聞いた。(ライター・国分瑠衣子)
神奈川県大和市は今年2月からトイレを開放する協力コンビニの募集を始めた。市が管理する公共トイレは、公園や駅など計49カ所あるが多くが公園内にある。内閣府が60歳以上の男女を対象に行った調査では、「トイレが少ない、使いにくい」ことが外出時の障害の1つになるという結果が出ている。市の担当者は「外出先でトイレが見つからないという不安を解消してもらいたい。土地確保や費用面で市単独では限界があるため、協力店舗を募っています」と説明する。
市内のコンビニは110店舗ほどだが、4月15日現在、協力店として名乗りを挙げたのは9店舗にとどまる。認定を受けた店舗は出入口などに「公共のトイレ協力店」と、住民に分かるようにステッカーを張り、市のサイトでも公開する。市は協力コンビニにトイレットペーパー200ロールを提供する。
早くから事業を行うのが東京都町田市だ。町田市は2010年10月から公共トイレの協力店を募集し、現在は71店舗が登録している。ほとんどがコンビニだ。
「店舗に協力を呼びかけたのは、東京都の協議会がまとめたトイレ整備についての指針がきっかけでした。事業を始めた当時、東日本大震災で徒歩で帰宅する人がトイレを見つけられずに困ったことが問題になっていました。こうした背景もあり、店舗の理解が得やすかったのです」と市の担当者は話す。
●実施したオーナー「掃除が嫌で、従業員が辞めてしまわないか心配」
大和市や町田市の「公共トイレ施策」に対し、コンビニのオーナーはどう思っているのだろうか。
オーナーは「うちはトイレは開放していますが、公表はしていませんし市のサイトにも載せていません。載せない理由はマナーの問題です」と話す。
この店舗では10数年にわたり地域にトイレを開放している。「正確に数えているわけではありませんが、お客さんの10人に1人ぐらいはトイレを使っている印象です。出勤前にトイレだけ使う人も結構いますよ。使っていいかどうか聞く人は本当に少数ですね。トイレを使ったお礼にと何か買うという話も聞きますが、実際はほとんどの人が何も買いません。必要とされていると言えばそうなのでしょうが、少しは感謝してほしいなと思う時もあります」
「トイレはやはり汚れます。便器周りの床が汚れたり、便器に大便がついていることはよくあります。過去には男性用小便器に大便があったり、トイレに間に合わなかった人が店内で大便をもらしてしまったこともありました。従業員が公平に掃除できるようにしていますが、掃除が嫌で辞められるのではと心配になることもあります」
●コロナで一時閉鎖「このまま提供をやめることも考えた」
この店舗はコロナ禍で子供や高齢者、障がいがある人などを除き、トイレの開放をやめた時期がある。大半の客は理解してくれたが、一部には「なぜ開けないんだ」と文句を言われたことも複数回あったという。
「開放しなかった期間は、掃除のストレスがなくなり、水道代も減りました。トイレットペーパーもほとんど発注しませんでした。正直に言えば、このままフェードアウトすることも考えましたね」。しかし、常連や少数だがお礼を言ってくれる人たちのことを考え、提供を再開した。
市からどんなサポートがあるといいかオーナーに聞いた。「トイレットペーパーを配る自治体もあると聞いていますが、バックヤードが埋まってしまう。一番大変なのが掃除なので、清掃員の派遣などでサポートしてもらえればありがたいです」と話す。町田市は過去には協力店にトイレットペーパーを渡していたが、数年前から行っていない。
社会インフラと言われるコンビニのトイレだが、オーナーの善意だけに甘えていては広がらない。別のコンビニのオーナーは「『公共のトイレなんだからいいでしょ』とマナーもお構いなしで使われるとモヤモヤします。コンビニの店舗は独立した自営業者の集まり。だからこそ自治体は清掃などの費用負担についてもっと真剣に考えてほしいです」と話している。
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