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【上海・ロックダウンの現場から】中国でコロナ感染より恐ろしいことは隔離施設に収容されてしまうこと
「臨時隔離施設」と日本語にすると立派に聞こえるものの、実態は展示会場や体育館などの建物の中に簡易ベッドが置かれているだけの施設である。コロナ陽性が判明すると、ここに強制的に隔離されるのだ。
日々2万人を超える感染者が続々と送られてくるのだから、ベッド数が追い付くわけがない。上海では今「方艙医院」の設置が急ピッチで進められている。
最近、「微信(WeChat)」などのSNSで出回るようになった隔離施設の動画を見ると、恐怖心はさらに増していく。ベッドとベッドの間についたてのようなものが置かれているだけで、みんなが雑魚寝している状態だ。中にはついたてすらない施設もある。
PCR検査で陽性だったため隔離施設に収容され、その後、隔離期間を経て検査の結果が7回陰性だったにもかかわらず、自宅に帰してもらえないと叫んでいる人の動画もあった。
動画は、いずれも混乱を極めた施設内の様子を伝えており、見ていると「こんなところに行きたくない!」という恐怖心を抱かずにいられない。
数日前には、浙江省が上海から感染者などの隔離対象者3万人を受け入れるというニュースが報道された。杭州市と寧波市にそれぞれ1万人、紹興市と金華市に3000人ずつ、湖州市と台州市に2000人ずつ収容できる隔離施設を整備するという。
中国人の友人によると、そのうちの1カ所は、その友人が以前働いていた場所の近くで、田舎の山の中らしい。隔離のために他の都市に連れて行かれるというだけでも恐怖なのに、山奥の施設に連れて行かれるなんて、恐ろしくて想像もしたくない。
やり切れない気持ちになる動画
ロックダウン当初、上海の人たちには「上海は大丈夫」という揺るぎない自信があった。数日では収まらなくても、徐々に感染者数は減り、「コロナゼロ」になる日は近いと信じていた。
ところがその自信は打ち砕かれた。1週間、2週間と時間が経つにつれ、感染者が一向に減らない事実を突きつけられ、「なぜ上海がこんなことに?」と誰もが嘆いている。
SNSではやり切れない気持ちになる動画や記事があふれている。
陽性が確認されているのにPCR検査を受けに来た人が「なんで陽性者がここにいるんだ!」と怒鳴られ、「PCR検査に行くように言われたから来たんだ!」と言い返し、わめき合っている動画。
隔離施設に連れて行こうとする人たちと、それを嫌がって刃物を手にして抵抗する感染者の動画。
病気の高齢者が居民委員会に電話し、「なぜ病院で診てもらえないのか」と苦情を言うやり取りを録音したもの・・・。
ロックダウンの期間が長引き、みんなが苛立ち、至る所で言い争いや小競り合いが起こっている。
封鎖は一部解除されるも店は閉まったまま
ただ、希望がまったく見えないわけではない。筆者の自宅付近では食料調達ルートが増えてきたし、政府からの配給もあった。
政府が発行した「通行証」を持つ業者は食料の配達が可能らしく、筆者が住むマンションでも肉や卵、牛乳、野菜などは共同購入できている。住人がお互いに微信で情報交換しながら、購入したい商品のグループチャットに入り、食料を購入したり物々交換をしたりしている。
上海市政府は4月11日、全市で続いているロックダウンを、一部地域で緩和させる方針を表明した。感染者が7日間ゼロの「小区(集合住宅)」では敷地内の移動が許され、14日間ゼロの小区では付近の移動が可能になった。
とはいえ、スーパーやショッピングモールなどの店舗は一部を除きほとんど閉まったままである。マンションの封鎖が解除された友人は早速小区の外を散歩したものの、「緊張してしまい、自宅に戻ったらどっと疲れが出た」と言っていた。それでもいまだ封鎖中の筆者にとってはうらやましい限りである。
報道によると、オランダ金融大手INGは、上海のロックダウンが4月末まで続けば中国の国内総生産(GDP)が2%失われる可能性があるとの試算を明らかにしている。
かつて強権的なゼロコロナ政策が効果をおさめ、コロナ封じ込めに成功したと喧伝していた中国が、今では最も悲惨な国になりつつある。以前は考えられないことだったが、「ウィズコロナ」(コロナとの共存)への移行を支持する声も出始めている。上海は、そして中国はどう舵を切るのだろうか。