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なぜ『ウマ娘』コラボ日本酒は即日で7777本も売れたのか
昨今、輸出ニーズの高まりを見せる日本酒。格式高かった日本酒も、より飲みやすさを追求したものや、酒蔵のストーリーからブランディングされたもの、女性向けに特化したものなど小さなブームが起きつつある。そんな輸出トレンドと同じく、新たなチャンスとなりつつあるのが「ゲーム」「アニメ」などのサブカルチャーと呼ばれるジャンルとコラボした日本酒だ。あまり親和性がなさそうな2つだが、酒好きの間では知られつつある。そのヒットの内訳を調べると作品を追い風にしたグッズ的なヒットだけが理由ではないようだ。
【関連画像】簸上清酒「七冠馬」、「シンボリルドルフ」コラボ(画像提供:簸上清酒)
2022年3月13日「七冠馬 純米大吟醸 ウマ娘 シンボリルドルフ 限定醸造」を発売した簸上(ひかみ)清酒、田村浩一郎氏のインタビューによってそのヒットの起点を見いだしていく。
日本酒を販売する酒蔵や問屋が抱える慢性的な課題だが、日本酒の国内消費量は大きく落ち込み続けている。2021年9月の農林水産省「日本酒をめぐる状況」によると、1973年に170万キロリットルを超えていた国内出荷量は、42万キロリットルにまで減少。長期的には、ビールやワインなどその他のアルコール飲料に押され、直近では飲食店の時短営業などによる消費量の減少が原因として挙げられるだろう。そうした状況において、各企業は酒蔵ツアーや日本酒のサブスクリプションサービスなど工夫はしているものの、直近では消費量の下げ止まりには至っていない。そんな中、異分野ともいえるサブカル領域でのマーケットを切り開きつつある。
今回紹介する「七冠馬 純米大吟醸 ウマ娘 シンボリルドルフ 限定醸造」は、島根県の酒造メーカー、簸上清酒がサイゲームスの『ウマ娘 プリティーダービー(以下ウマ娘)』とコラボレーションして生まれた商品だ。ちなみに、ウマ娘は競馬をモチーフにしたスマートフォンゲームで、たびたびソーシャルメディアのトレンドに入る人気作だ。
ヒットした今だからこそ、最適なコラボに感じられるが、簸上清酒の田村浩一郎氏(以下田村氏)は「1年前に企画がスタートしてから発表まで、様々な要素を検討して入念に準備を進めてきた」と言う
●ヒットにつながった理由
そもそも、簸上清酒の主力商品「七冠馬」は一朝一夕で生まれた日本酒ではない。今回のコラボの中心である「シンボリルドルフ」という競走馬との長い歴史から紹介しよう。
1986年2月に簸上清酒の現社長の妹が、シンボリルドルフを輩出した「シンボリ牧場」に嫁いだ。シンボリ牧場の牧場主がもともと島根県出身というご縁もあったという。このシンボリルドルフという馬は勝負強い馬で、GⅠという競馬の最高峰のレースにおいて7度の優勝を飾ったことから、「七冠馬」とも呼ばれている。ルドルフが偉業を達成し、「七冠馬」となったのが1985年12月の有馬記念、結婚の2カ月前のことだった。
その後、その偉業にちなみ、1996年に「七冠馬」という日本酒を販売開始した。
この日本酒には40年近く前からのそうした歴史が存在し、今回のコラボレーションが単なるゲーム人気にあやかったものではないことがうかがえる。結果、多くの日本酒好きや競馬好きの注目を集め、即日売り切れとなってしまった。
そんな今回のコラボにおいてこだわったのは、今までの日本酒の七冠馬のファン、ウマ娘のゲームやアニメのファン、競走馬シンボリルドルフのファンすべてに配慮し、独りよがりにならないコラボにすることだ。
「今回、5500円という価格設定にした。だが、コラボでもうけを優先してしまっては、新たに七冠馬を楽しみたいと思うお客様や、いつも七冠馬を飲んでくれているお客様が手を出しにくい商品になってしまう。今回のコラボは七冠馬を応援してくれるお客様、ウマ娘のファンの方、シンボリ牧場やルドルフのファンの方など、たくさんの方々の思いが重なる商品。そのため、ことさらにこの商品でもうけようということは考えなかった」と田村氏は熱弁する。
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