麻原とプーチン、側近に囲まれ耳障りのいい情報しか入らなくなった末の暴走

麻原とプーチン、側近に囲まれ耳障りのいい情報しか入らなくなった末の暴走

麻原とプーチン、側近に囲まれ耳障りのいい情報しか入らなくなった末の暴走

麻原とプーチン、側近に囲まれ耳障りのいい情報しか入らなくなった末の暴走

麻原 彰晃(あさはら しょうこう)本名:松本 智津夫(まつもと ちづお、1955年〈昭和30年〉3月2日 – 2018年〈平成30年〉7月6日) は、日本の宗教家、テロリスト。 熊本県八代市出身。宗教団体オウム真理教の元代表・教祖であり、日本で唯一の「最終解脱者」を自称していた。また視覚障害者で、6歳より盲学校に通っていた。
182キロバイト (28,310 語) – 2022年3月8日 (火) 13:16

(作家・ジャーナリスト:青沼 陽一郎)

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 ロシアウクライナに侵攻をはじめると、それまでの国際秩序を破壊する行為に合理的な説明を見出せない専門家と呼ばれる人物が、全国放送のニュース番組に招かれて「プーチンの行動はエモーショナルで説明がつかない」などと語っていた。また米国議会では、プーチンの精神状態を疑問視する声があがった。

 ではなぜプーチンはエモーショナルで、精神状態が不安定になったのか。

 自分の抱える常識という概念で解決できないことを、感情論で片付けてしまっては、解説になっていないばかりか、およそ専門家とは言い難い。まして価値観の共有できなくなった相手の精神の変調を真っ先に疑うようでは、あまりに短絡的で、むしろ排他的だ。

 そうした中で、侵攻がはじまって3週間が過ぎた。日本では1995年3月20日に世界中を震撼させた地下鉄サリン事件の発生から27年になる。あの事件も当初はどうしてこのような事件を引き起こしたのか、私自身も理解に苦しんだが、その後の公判取材など継続的な取材を通して、いまにしてみると事件の首謀者であるオウム真理教の教祖・麻原彰晃(本名・松本智津夫)とプーチンはそっくりなことがわかる。

耳に入るのは一握りの側近の意見だけ

 あくまでプーチンロシア国内の状況については、メディアを通じて報じられている限りのものだが、まず客観的な戦況を確認しておくと、事前の予測を裏切って、ウクライナの首都キエフがいまだに陥落していない。米国の複数の報道機関は2月の上旬に、米情報機関の分析として、ロシア軍ウクライナに大規模に侵攻した場合、首都キエフは2日以内に陥落すると伝えていた。

 だが、ウクライナ軍の抵抗とロシア軍予想外の弱さがいまの状況を導いたとされる。プーチンは苛立ちを隠せないとする一方で、実は侵攻を開始する以前からプーチンは孤立し、自身に都合のいい情報だけが耳に入ってくる組織になっていた、言い換えれば、聞きたくない情報は遠ざけるようになっていた、という分析が広がっている。侵攻についてもプーチンの側近と呼ばれる人物と密室で決められたのではないかとされ、反対する政府高官を遠ざけたともされる。

 時事通信が報じているところでは、米国のニューヨークタイムズによると、プーチンが安全保障問題で頻繁に会う人物として、パトルシェフ安保会議書記、ナルイシキン対外情報局長官、ボルトニコフ連邦保安局長官、ショイグ国防相の名を挙げているとし、このうち、ショイグ国防相を除く3人は旧ソ連国家保安委員会(KGB)でプーチンと同僚だったという。

 プーチン1975年KGBに入省すると、サンクトペテルブルグ(旧レニングラード)支部の諜報機関勤務となる。プーチン2000年大統領に就任すると、KGB時代の同僚を政権に呼び寄せ、最大派閥「サンクト派」のシロビキ(武闘派)を形成していく。

「本音を言え」促されて本音を述べたら叱責

 ロシアの反政府系メディアは、2014年クリミア併合決定も、元KGBサンクト派の「密室決定」だったと指摘する。

 4人のうち、プーチンが最も信頼するとされるのがパトルシェフ書記だ。彼は昨年末、メディアで、「ウクライナ指導部はヒトラー並みの悪人ぞろいだ。キエフの政権は人間以下の存在だ」と豪語していた。開戦決定や、戦争目的をウクライナの非軍事化、中立化、非ナチ化に設定したことも、側近らとの「密室決定」だった可能性を指摘している。

 麻原が坂本弁護士一家殺害事件松本サリン事件などの凶悪事件を決定したのも、側近幹部との密室での謀議だった。地下鉄サリン事件はわずか2日前の未明に、麻原が移動中のリムジン車内に乗り込んだ5名の教団幹部との話し合いで、地下鉄へのサリン撒布が決定している。なかでも重要な存在は村井秀夫だった。地下鉄サリン事件の2日後にはじまった教団施設への一斉家宅捜索の最中に暴力団関係者によって刺殺されているが、教団の相次ぐ凶悪事件では中心的な役割を果たし、麻原の最側近だったことは逮捕、起訴された主要幹部が法廷で口を揃えたことだ。

 たとえば、サリンの生成に成功した土谷正実(2018年死刑執行)に最初に話を持ちかけたのも村井だった。その時はチベットの虐殺の現場写真を見せて、血を流すことと毒殺による死とどちらが残酷であるか問いかけたという。坂本弁護士一家殺害事件でも、当初の計画で毒殺に使用する注射薬を医師だった中川智正(同年死刑執行)に入手するように依頼したのも村井だった。地下鉄サリン事件の実行役メンバーを麻原に進言したのも村井だ。

 一方で、麻原は不都合な情報はあからさまに遠ざけていた。坂本弁護士一家殺害事件の実行犯だった早川紀代秀(同年死刑執行)の法廷証言によると、麻原が幹部たちを呼び寄せて、教団が推進する“救済計画”について「本音を言ってみろ」と、意見を求めたことがあったという。そこで早川が、食料備蓄は十分だが、ハルマゲドン(世界最終戦争)がやって来たときには、既存の電気やエネルギー供給も停まって教団が窮地に陥る、だから独自のエネルギー開発の必要性を説いたところ、麻原が急に不機嫌になって怒り出した。

「なに、夢みたいなことを言ってんだ!」

 そう言ったという。命じられたままに本音を言って上司の逆鱗に触れる最悪のパターンだ。

どんどん現状を自分に都合よく解釈

 そうでなくても、教団の内外を問わず、自身に都合の悪い相手、敵対する相手を、転生を意味する「ポア」と称して殺害してきた麻原だ。それを知れば、誰だって逆らえなくなる。プーチンも対立する政治指導者のアレクセイ・ナワリヌイ氏を20年8月に毒殺しようとして、欧米各国から非難を浴びたように、それまでにも政敵暗殺の疑惑は尽きない。

 そのプーチンウクライナ侵攻の目的は、かつてのソビエト連邦のようなロシアを中心とした大国を再構築して、“皇帝”として君臨することだとも伝えられる。それは地下鉄サリン事件の前提として、麻原が「日本の王」となることを予言していたことに重なる。そのために、麻原は教団の武装蜂起による国家転覆を画策していた。

 1993年8月に武装化の手はじめにサリンの生成に成功すると、70トンのサリンを大量生成するためプラントの建設を指示する。それだけではなく、ソビエト崩壊直後で混乱するロシアに教団幹部を派遣して、旧ソ連軍が使用していた自動小銃AK-74を入手すると、これを分解して日本に密輸。教団施設で密造を開始する。さらには、70トンのサリンを空中散布するために、ロシアから軍用ヘリコプター「ミル17」を購入していた。

 ただ、このヘリコプターを買い付けてきた前出の早川の法廷証言によると、この代物はもはや飛ばなくなったガラクタだったようだが、それでもあるとき、ヘリコプターの操縦席に並んで座った麻原と村井が、これと同種のヘリコプターを教団で製造する打合せをしていて、驚愕したという。村井の提言に現実を直視できない教祖が心を躍らせていたひとつのエピソードだ。

 その日本征服計画の実行を前に、警察組織による教団施設へ一斉家宅捜索が入るという情報が麻原にもたらされた。それでは、教団の武装化が曝かれる。日本の王となる野望は水泡に帰す。そうならないために、どうしたらよいか。事件2日前のリムジン謀議で、警察の捜査の矛先を代えるために、東京の地下鉄サリンを撒くことになった。言い換えれば、サリンを撒くことによって強制捜査は免れると踏んだのだ。

 傍から見ると、そんなことは考え難いのだが、密室の中での都合のよい言説ばかりが繰り返されることによって、エコーチェンバーによる集団極性化が働いたとみるべきだろう。ネット上の誹謗中傷が先鋭化していく現象と同じだ。

 加えて麻原には成功体験があった。教団との関与が疑われながら摘発されずにいた坂本弁護士一家殺害事件や、まったくの無関係者が犯人扱いされた松本サリン事件が、こんどもうまくいくはずと錯覚させた。あるいは、そのことで、自分の運命を肯定的にとらえ、自分こそ神だ、とでも思い込んでいたのかもしれない。

現実が思い描いたようにならないと激しい憤り

 プーチンにとっても、2014年クリミア併合はひとつの成功体験だったに違いない。西側諸国も苦言は呈しても、積極的な対抗措置は示さなかった。日本の警察が本来の機能を果たさずにオウム真理教を増長させたのであれば、オバマ政権以降の米国が世界の警察の役割を降りたことがロシアを暴走させた。

 麻原は事件のずっと以前から、教団は国家権力による毒ガス攻撃を受けて弾圧されていると信者たちに説いてきた。それでサリンの密造を誤魔化しながら、出家制度によって外界からの情報を遮断していた。教団の正体を知るのは限られた一部の幹部信者だけだった。

 プーチンは、親ロシア派武装勢力が一部地域を実効支配するウクライナ東部のルガンスク州とドネツク州を独立国として一方的に承認すると、ウクライナ政府軍による「ジェノサイド(民族大量虐殺)」が東部地域で起きていると主張し、「ロシア系住民の保護」「自国民の保護」を理由にロシア軍が軍事侵攻を開始した。ウクライナこそ極端な民族主義者やネオナチである、と主張して。侵攻後には国内の情報統制を強化するのもいっしょだ。

 そして思い通りにならないことに憤るふたりの姿。そこに共通するのが、自己愛的人格障害(あるいは自己愛パーソナリティー障害)の側面だろう。

あまりに強い自己愛を持つ権力者が引き起こす惨劇

 地下鉄サリンを撒いて地下鉄職員2名を殺害しながらも自首が認められて無期懲役となった林郁夫服役囚が、慶応大学病院勤務もある元医師の立場から、公判の中でかつての教祖を「自己愛的人格障害」と分析している。

 自己愛的な人間は、自分は非常に優れていて素晴らしく特別で偉大な存在である、と思っていることからはじまる。これが現実の自分と一致していれば、それはそれで素晴らしい人物でいられる。快活で、カリスマ性に溢れ、周囲からも一目置かれる存在となる。政治指導者にも決して少なくはない。それが大きな功績を残すことも多々ある。ところが、理想の自分と異なる、あるいは現実と不一致の出来事があると、激しく怒るか、ひどく落ち込むか、あるいは抑鬱的になる。それが人格障害として現れる。

 いま、伝わる情報からすれば、プーチンもおそらくはその傾向にある。かつてのソ連を取り戻すべくはじめた侵攻が頓挫することは耐え難い。ここで諦めれば、自国民への示しもつかない。それは大統領からの失脚を意味する。法律を改正して2036年まで任期を延ばしたのだから、それまで強い大統領でなければならない、自己イメージに反する。それは嫌だ。麻原が逮捕まで抵抗を続けて逃げ隠れしたように、プーチンもあとには引かないだろう。

 麻原が作り上げたオウム真理教のような組織を「カルト」と呼ぶのであれば、プーチンロシアはまさに「カルト」国家と呼ぶに相応しい。ただ、プーチンが麻原と違うところは、ロシア軍という膨大な軍事力を持ち、そして、核ボタンを握っていることだ。

[もっと知りたい!続けてお読みください →]  国際宇宙ステーションはどうなる? ロシア国営宇宙公社総裁の不穏な投稿

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2018年7月、麻原彰晃こと松本智津夫死刑囚らオウム真理教元幹部の死刑執行のニュースを伝える街頭ビジョン(写真:Natsuki Sakai/アフロ)

(出典 news.nicovideo.jp)

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