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韓国新大統領「原発最強国目指す」隣国の〝再起動〟
原子力政策を転換し「最強国」を目指すと訴えた尹錫悦氏の投稿(Facebookから)
10日未明まで開票が行われた韓国大統領選で接戦を制した保守系最大野党「国民の力」の尹錫悦(ユンソンヨル)前検事総長は選挙期間中、文在寅(ムンジェイン)政権の脱原発政策からの転換を訴えていた。産業政策から電気料金の抑制を図ってきた韓国にとって、運転コストが低い原発は経済の持続可能性を左右する。原子力に対する尹氏の姿勢が日本に波及することへの期待がある一方、競合分野も多い隣国の〝再起動〟が、九州などの経済活動や企業誘致の脅威となることもあり得る。
「脱原発政策を白紙化し、最強の原発国を建設する」
2月21日、尹氏は自身のSNS(会員制交流サイト)で、フランスが再び原子力の活用推進にかじをきったことを紹介する記事を引用し、こう投稿した。
尹氏は「イタリアは脱原発でエネルギー主権を喪失した」「エネルギーの対外依存低減と脱炭素促進に向けた原発の活用は世界的な流れだ」などとして、「私たちの国のエネルギー独立と、自由のための確固たる選択だ」と結んだ。
選挙期間中には新設原発の工事再開や原子力技術の輸出への注力も訴えた。
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韓国にとって原発の持つ意味は大きい。もう1つの主力電源である石炭とともに発電コストは安く、産業用需要が大きく、狭い国土で送電線網の効率化が図れることも相まって、電気料金の抑制に貢献してきた。韓国電力公社が国際機関から原価割れの価格設定をしているなどと指摘されている問題はあるものの、産業競争力の源泉だった。
無料通信アプリ「LINE(ライン)」利用者の個人情報が韓国のサーバーに保管されていた問題では、大量の電気を消費するデータセンターの運用上、日本国内よりもコスト面でメリットがあったとの指摘も出ていた。
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企業の海外移転や、国際的企業の誘致では単にコストだけが指標とはならない。また、今後は経済安全保障上の観点などが判断材料になっていくとみられる。ただ、ロシアによるウクライナ侵攻や、それに伴う経済制裁によって長期化が見込まれる資源需給やエネルギー価格の乱れを踏まえれば、安価でかつ安定的な電気料金の持つ意味は大きい。加えて、環境問題に対応する上で脱炭素電源の拡充は不可欠だ。
世界大手の台湾積体電路製造(TSMC)の熊本県への進出では、歴史的に半導体産業の集積があったという土壌に加え、再生可能エネルギーや原子力発電を最大限に活用し、着実に脱炭素を進める九州の電源構成も大きな要素となったとみられている。
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安定的に大量の発電が可能な原発と、不安定さという弱点を抱える再エネは、競合するのではなく補完関係にある。いずれも発電時に温室効果ガスを排出しないことから、両者の最大限の導入を図ることが脱炭素社会実現への道と指摘される。
リーダーが強いメッセージを発信している隣国の姿勢が、原子力をはじめ迷走を続ける日本のエネルギー政策への大きな一石を投じることになるかが注目される。(中村雅和)
産経新聞
https://www.sankei.com/article/20220310-537F53W4OVO5NJXZBF5A5DHZCY/