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米国民の間で急速に広がり始めた「プーチン暗殺」
禁じ手「原発攻撃」に出たプーチン
ウクライナに侵攻しているロシア軍が、欧州最大のザポリージャ原子力発電所を占拠した。
原発に対する攻撃は、国際法で禁じられた危険行為だ。原発を占拠したということは原発を「人質」にしたことになる。
前例のない暴挙に国際社会から非難の声が上がり、国連安全保障理事会は3月5日、緊急会合を開いた。
だがいくら決議案を採決しても常任理事国のロシアが拒否権を発動すれば、何の意味もない。
G7の先進主要国がいくら経済制裁を実行に移しても、欧米日へのエネルギー供給で影響力を持つロシアを完全に窒息させるところまでいけない。
ウクライナには稼働中の原発が4カ所あり、このうち最も東側にあるのがザポリージャ原発だ。欧州最大級の出力で国内の電力の2割をまかなっている。
ロシア軍は、ロシア本土や2014年に一方的に併合したクリミア半島から、ウクライナ西部などへ進軍している。
その途上にある最重要のインフラ施設として掌握したとみられる。
侵攻初日の2月24日には、ベラルーシから侵攻したロシア軍が、キエフの北100キロに位置し、1986年に爆発事故を起こしたチェルノブイリ原発を占拠している。
こうした状況を捉えて「われわれはすでに第3次世界大戦に突入した」という声が上がった。
元チェス世界チャンピオンで現在「ヒューマン・ライツ財団」理事長のゲイリー・カスパロフ氏だ。
「プーチンは(フランス大統領のエマニュエル・)マクロンにまた会ったが、何ら譲歩はしなかった。特に驚くことではなかった」
「北大西洋条約機構(NATO)も欧州連合(EU)もウクライナには軍派遣しないとプーチンに通告しているのだからプーチンは欧米の言うことなど聞かないのは当たり前だ」
「ウクライナはNATOに加盟していないのだからロシアは何でもできる。ついに原発を人質にしてしまった」
「核武装したウクライナは第3次大戦勃発の条件を満たす十分なリスクを背負ってしまった。ロシア軍の兵士たちとロシア市民以外にプーチンの核兵器使用をやめさせる者はいなくなった」
「ウクライナのために戦う外国人の義勇軍や戦闘機・武器弾薬供与が実現してもプーチンにとっては痛くも痒くもない」
「ロシアはすでに何年も前からウクライナ侵攻計画を周到に準備してきた。第3次大戦はすでに始まっている。ウクライナは現時点での前線に過ぎない」
「プーチンは戦線をエスカレートさせる。(米大統領のジョー・)バイデンをはじめとする欧米指導者たちは、ロシアがバルカン半島のNATO加盟国に手を伸ばせば、軍事力を行使するといっているが、疑わしいものだ」
「今のウクライナ情勢を見れば、NATOが参戦するとは思えないし、プーチンもそう考えているはずだ」
「2014年のクルミア合併した時、彼らは何と言っていたか。『プーチンを止めるのは危険すぎる』と言っていたのだ」
(https://threadreaderapp.com/user/Kasparov63)
「ブルータスはどこにいる」
カスパロフ氏が「プーチン氏の『核戦略』を止めさせられるのはロシア兵士たちとロシア市民だ」と言った延長線上にあるのは何か。
これまで誰も触れなかった作戦をストレートに言ってのけたのは、米共和党の重鎮、リンゼイ・グラハム上院議員(サウスカロライナ州選出)だ。
「ロシアにはブルータス*1はいないのか。ロシア軍にはシュタウフェンベルグ参謀大佐はいないのか」
「この戦争を終わらせる方法は、この男(プーチンのこと)を葬り去るのはロシア人しかいない。その人物はロシアにとって世界にとって最大の貢献者ということになる」
*1=ブルータスはユリウス・カエサルを暗殺した人物。クラウス・フォン・シュタウフェンベルグ参謀大佐はヒトラー暗殺を企てたドイツ軍将校で伯爵。
米国には1863年「外国首脳暗殺禁止法」
この発言は米国内外で反響を呼んだ。ホワイトハウスのジェン・サキ報道官はこうコメントした。
「それ(プーチン暗殺)はバイデン政権の立場ではないし、そうしたステートメントはバイデン政権で働くいかなる者からも出ることはない」
米国には1863年に制定された「リーバー法」があり、その第9条には「敵対する国家の当局者および市民を裁判なしに殺すこと」を禁じている。
英国のボリス・ジョンソン首相のスポークスマンは、グラハム発言には直接言及するのは避けながらも、「プーチン氏はその戦争犯罪に対する責任を追及されねばならず、国際司法裁判所によって調査されねばならない」と述べている。
敵対する国家の指導者を暗殺することは米国法では禁じられている。だが、実際には国家や国際テロ組織の指導者への殺害はバラク・オバマ、ドナルド・トランプ各政権ではかなり行われてきている。
オバマ政権では2011年5月、国際組織「アルカイダ」の指導者、ウサマ・ビンラディン容疑者が米海軍特殊部隊によって殺害された。
またトランプ政権では国際テロ組織「IS」のバグダディ容疑者(2019年10月)、イラン革命防衛部隊精鋭「コッズ部隊」のソレイマニ司令官(2020年1月)、国際テロ組織「アラビア半島のアルカイダ」の最高指導者、カシム・リミ容疑者(2020年2月)がそれぞれ殺害されている。
こう見てくると、「リーバー法」が必ずしも厳格に守られていないことが分かる。
ロシア国民にプーチン打倒を呼びかける
一方、ロシア国民による一斉蜂起については保守系「ワシントン・タイムズ」が3月3日付サイトでプーチン政権の転覆をロシア国民に訴えるオピニオンを掲げた。
筆者は著名な調査ジャーナリスト兼弁護士でトランプ政権下では米グローバルメディア庁(USAGM)上級顧問を務めたこともあるジェフリー・S・シャピロ氏だ。
同氏はこう述べている。
「プーチン大統領のウクライナ侵攻に反対する声が高まっている。反政府勢力のアレクセイ・ナワリヌイ氏はロシア国民に侵攻に反対するデモに参加するよう呼びかけている」
「プーチン氏はデモを弾圧しているが、ロシア国民はナワリヌイ氏の主張に共鳴してデモに加わっている」
「ロシアのオリガルヒ(新興財閥)の中には、プーチン氏から離れようとしている者もいる。ロシア軍の兵士の中には除隊する者も現れているという報道もある」
「元KGB中佐のプーチン氏は政権の座を守るために、注意深くそうならないよう準備しているだろうが、周辺に不穏分子がいる」
「デモに参加しているロシア人もプーチン氏が信頼しているアドバイザーたちも、今こそプーチン追放に立ち上がれ」
「ウクライナを救え、世界を救え、そして手遅れになる前に、自分たちの祖国・ロシアを救え」
(https://www.washingtontimes.com/news/2022/mar/3/people-of-russia-its-time-to-overthrow-putin/)
プーチン氏のウクライナ侵攻を許してしまった根源は、ジョージ・W・ブッシュ、オバマ両政権がロシアを甘やかしてしまったからだ、という説が出始めている。
「ロシアがジョージア侵攻した2008年はジョージ・W・ブッシュ大統領、2014年にクリミアを合併した時はオバマ大統領だった」
「そして今ウクライナ侵攻を許しているのはバイデン大統領だ。トランプ氏が大統領の時にはロシアは隣国の領土を奪おうとはしなかった」
「敵対国の行動を抑止するのは一筋縄ではいかない。それは軍事、経済、政治、外交各戦略と、それを束ねた米国の国益を脅かせば莫大な代償を払わざるをえないぞ、という真剣味を帯びた発信力がなければできないことだ」
「究極的なステートクラフト(国政術)とは時の大統領が敵対国を抑止するだけの力を誇示できるか否かにかかっている」
「バイデン氏の対ロシア・アプローチの拙さは、アフガニスタン撤収作戦の時に露呈した無様さに象徴的に表れている。その結果、米国市民の出国をサポートすることだけが任務だった13人の米兵を戦死させてしまったのだ」
「プーチン氏はこれを見てにんまりしたに違いない。バイデン政権の驚くべき無能力さは、米国の弱点と国際社会における脆弱性を露呈してしまった。それをプーチンに見透かされてしまった」
厳しい指摘だが、米国民の6割がウクライナへの米軍投入に反対している。バイデン氏にできることは対ウクライナ軍事援助と経済制裁しかない。
しかもそれを公言してしまった以上、プーチン氏としては「核戦略」まで振り回してやりたい放題だ。
むろん、国際世論を敵に回し、経済制裁での締め付けが効いてくれば、中長期的にはロシア国民も黙ってはいまい。だが、それではまさかの時に間に合わない。
だとすれば、この「第3次大戦」を阻止するには、ロシア人によるプーチン暗殺か、一斉蜂起しかない。
プーチン氏の暴挙にバイデン氏が「激しい憤り」を表明するだけでは阻止できないところまで来ている。もはや限界にきている。
建前では「暴言だ」「極言だ」とは言いつつも、本音ベースでは、グラハム氏の暗殺奨励発言に共鳴する声は米国内の草の根層に急速に広がっている。
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