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※本稿は、樋口裕一『頭のいい人は「答え方」で得をする』(だいわ文庫)の一部を再編集したものです。
■一瞬で相手をがっかりさせる人の答え方
質問に対して、小学生のような答えしかできない人がいる。
仕事で講演会を聞きに行ったとしよう。帰社後、当然のことながら上司から「講演会はどうだった?」と問われるだろう。そのようなときに、「おもしろかったです」「楽しかったです」としか言わない。
課を代表して取引先主催のパーティに出席したような場合も、「料理がおいしかったです」「盛り上がりました」。打ち合わせへ出向けば、「うまくいったと思います」、出張から帰れば、「北海道は寒かったです」。
それしか言わないという点が、相手をがっかりさせていることに気づいていない。
■「おもしろかったです」は小学生レベルの感想
小学生に遠足や運動会の作文を書かせると、「○○をしました、おもしろかったです」という具合に、見聞したことの羅列で終わることが多い。
その経験から何に気づいたのか、なぜそう感じたのかを文章にしてほしいのだが、そのような視点は教えてもらわないと書けない子がほとんどだ。それと同じで、質問されたときとっさに出やすいのがこうした主観的な感想だといえよう。
まずはそう答えておき、続けて詳しく話そうと思っているのかもしれない。友人との他愛ない雑談なら、それでもいいだろう。だが、ビジネスの場合、「君の個人的な感想は聞いていない」と、一瞬であきれられる恐れがある。それではあまりにもったいない。
それでも心やさしい上司であれば、「で、どうおもしろかったの?」などと尋ねてくれるだろうが、本心ではおそらくその前に答えてほしいと思っているだろう。
言うまでもなく今は、ハイスピードで情報が行き交う時代だ。世の中の動きはほぼオンタイムで手元に届き、SNSでは即座に答えが返ってくる。そういう現代にビジネスの最前線で活動しているのであれば、そこに乗っかってスピードを発揮するしかない。
■まずは「話の方向性」を示す
上司からの「どうだった?」は、「きちんと報告しなさい」という意味だ。
講演会で何を発見したのか、パーティの顔ぶれはどうだったのか、契約はどこまで詰められたのかといった具体的な情報を求めて聞いている。「実際に出向いた者にしかわからないから、答える側がポイントを絞りなさい」と言っているのだ。
だから、まず答えるべきは「主観」ではなく「話の方向性」だ。大まかでよいので、これから何について答えようとしているかの概略を示せればよい。そこでキーになるのが「答えの最初のひと言」だ。
たとえば、「盛り上がりました」を「盛況でした」と言い換えてみる。「盛り上がりました」は主観的だが、「盛況でした」は視点が客観的であり、巨視的といえよう。答え方をこうしたフレーズではじめてみるだけで、幼稚な印象が消え、知的に見える。
逆にいえば、幼稚な感想しか言えないのは、「首尾よくまとまりました」「盤石です」「ご立腹でした」などの短い定番フレーズ、いわゆる大人言葉を単に知らなかったり、使いこなせていないだけという可能性もある。
この「答えの最初のひと言」は、新聞記事の大見出しのようなものと考えればよい。
「五輪開幕」「首脳会談成功」「ロケット打ち上げ延期」など、新聞記事は必ず内容がひと目でわかるキャッチーなフレーズではじまる。この大見出しがあるから、読者はできごとを予測しながら記事を読んでいけるのだ。
■次にポイントを絞って簡潔にまとめる
そして、このフレーズの後に、自分なりにポイントを絞った答えをコンパクトにつなげる。これが、新聞記事のリードに当たる。大見出しの後、本文に入る前に数行にまとめられている文章があるだろう。いわゆる要約だ。つまり、
「答えの最初のひと言」
=「話の方向性を示す」+「ポイントを絞ってコンパクトにまとめる」
相手に話の枠をまず見せてあげるのが、頭のいい答え方の基本といえよう。
質問 「A社のパーティはどうだった?」
答え×「盛り上がりました⁉」
答え○「盛況でした。著名なゲストのトークコーナーもあり、例のM&Aの裏話も聞けました」
この例の答えは約5秒。報告の際の目安と覚えておくとよい。
主観だけでは幼稚。かといって、いきなり詳細な報告をはじめると、何の話をされているのか見当がつかず相手は戸惑う。こうした工夫を心掛けていると、小学生レベルの感想から抜け出すことができる。
■上級者は最初の一言で相手を引き込む
さらに、上級編もある。問いに対しあえてマイナスで切り込んで相手をハッとさせ、プラスの情報で盛り返す、意表を突く「答えの最初のひと言」だ。
質問 「出張はどうだった?」
答え×「北海道は寒かったです」
答え○「目を疑いましたよ! 地元新聞の広告が効いて、売れ筋商品の在庫がなんとギリギリでした!」
聞いたほうは、まず「一体どういうことだ?」と俄然興味を引かれる。そこで、マイナスからプラスに転じさせることで、相手をこちらのペースに引き込むことができる。
答え方で得している人は、このようなことを日常的に行っているのだ。だから答えるたびに得をする。答えるということは、本来得する行為なのだ。
▼大人言葉の最初のひと言→「盛況でした」「盤石でした」など。
▼上級編の意表を突く最初のひと言→「ひどいものでしたよ」「史上最悪でしたよ!」「後悔してます」「ありえないことが起こってしまいました」など。
■相手が聞きたい答えからズレまくる人も……
ビジネスシーンにおける報告や連絡の場合、「答えの最初のひと言」にどのような情報を入れ込むかが大きな差となって表れる。
自分が見聞きしたたくさんの情報のなかから、どこにポイントを絞るか。そこを間違うと、相手から「一体、何を報告しているのだ?」と思われ、マイナス評価を招く結果となってしまうわけだ。
たとえば、「展示会には何社来た?」と、上司から具体的に質問されることがあるだろう。その場合は、「20社です」と端的に答えればよいから、誰にでもできる。
だが、前項でお話ししたように、「○○はどうだった?」と漠然と問いを投げかけられたときに能力が表に出てしまう。
たくさんの情報のなかから、ファーストアンサーに最適な情報にポイントを絞るには、次の二つの方法を覚えておくだけでうまくいくことが多い。①「ジャンル」でシンプルに絞る方法と、②「切り口」でオリジナリティを出す方法だ。
■①「ジャンル」でシンプルに絞る方法
これは、自分が実際に見聞きしたものから、自分が話しやすいジャンルに焦点を絞る方法だ。たとえば、数や量の多寡、規模の大小、できごとの出来不出来など、誰の目にも見える事実やことがらから選ぶ。
あるいは、質問者が聞きたがるであろう人物に関する新情報やライバル社の動向など、現場で得た情報を取り上げればよいので比較的思いつくのが簡単だ。それをきちんと答えることができれば、聞き手はまず満足する。
報告や連絡の際、「ジャンル」を絞ることに意識を向けるだけで、主観的で幼稚な感想から脱却し、聞き手が求めているような答え方ができる。
■②「切り口」でオリジナリティを出す方法
私がおすすめしたいのは、「切り口」でポイントを絞って答える方法だ。これは「ジャンル」の上級編といえよう。
こちらは、単に目に見える事象から情報をピックアップして答えるのではなく、その人なりの独自の見方で答えを絞る。その人なりの光の当て方といってもいい。
展示会の例でいえば、次のようになる。
質問 「展示会どうだった?」
答え×「おもしろかったです」
答え○「盛況でした。グローバル化の面では、うちはやはり業界トップだと確信しました」
この場合、「グローバル化」という「切り口」で情報を絞っている。答える側に、グローバル化や海外戦略に関心がなければ、そのような視点で展示会を眺めないだろう。
このように「切り口」で答えるということは、自分の得意分野に持ち込み、自分の頭で分析して浮き彫りになった事実や現象を伝えることを指す。
■プレゼンの質疑応答も怖くない
周囲に、「あいつはいつもAI関連に話を持っていく」という人はいないだろうか。あるいは、何でもかんでも社会福祉につなげるとか、芸術に結びつけるという人もいるのではないだろうか。
そうやって自分の得意分野に話を引き込んでいくのは、自分の土俵へ相手を引き込んでいることにほかならない。つまり、自分の持ちネタで自分のスタイルに持ち込みながら、答えに説得力を持たせているのだ。
いつもワンパターンでおもしろくなければ、みんなにあきれられてしまうが、その得意分野の話にうなずけるところがあれば、それなりにみんなが納得するだろう。
私はこれまで、さまざまな講演会に呼ばれたが、そういう場ではたいてい最後に質疑応答の時間がある。講演内容をさらに掘り下げる鋭い質問を受けることもあるが、ときに予期せぬ質問や少々的外れな質問のケースもあり戸惑う。
そのようなときどうするかというと、自分が得意とする「日本語」「話し方」といった内容に強引に引っ張り込み、答える。
自分の土俵に話を持ち込み、そこで私にしかできない視点で話を掘り下げることで、私独自の視点からの話題を提供することができると、聞き手も満足してくれる。
ビジネスのプレゼンの場などでも、同じことがいえるだろう。自分の得意分野に引きつけて答えることが、アピールにつながるのだ。
■「自分も、相手も得をする」がベスト
一尋ねて一答えてもらうのは、相手は当たり前だと思っている。しかし、一尋ねて意外な「切り口」から答えをもらうと、相手は「得した」と思うものだ。相手が得だと感じるのだから、そう思わせた答えた側はもっと得をする。
うまく答えただけで、「なかなか鋭いじゃないか」「おもしろいことを言う人間だ」と、思わせることができるのだ。
「切り口」は無数に存在する。そのどれに焦点を当てるかで、答えの質は大きく変わる。
ただ、「切り口」があまりにも偏った目線だったり、独創的すぎると、「聞きたいのはそういうことではないのだが……」と相手を困惑させてしまうので注意が必要だ。
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多摩大学 名誉教授
1951年、大分県に生まれる。早稲田大学第一文学部卒業後、立教大学大学院博士課程満期退学。仏文学、アフリカ文学の翻訳家として活動するかたわら、小学生から社会人までを対象にした小論文指導に従事。通信添削による作文、小論文専門塾「白藍塾」塾長。著書は『頭のいい人は「短く」伝える』(だいわ文庫)、『頭がいい人、悪い人の話し方』(PHP新書)など多数。
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