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Jリーグ史上最年少社長の独白 クラブ経営は「甲子園に学べ」「人気はプロ野球の方が断然上」
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毎日新聞
30年目のシーズンに突入したサッカー・Jリーグ。その未来は明るいのか、それとも……。ゴールドマン・サックス証券を経て史上最年少の31歳でJリーグクラブの経営トップに就いた、FC琉球元社長の三上昴さん(34)に経営者の観点から見る今後について聞いた。【聞き手・村上正】
――FC琉球時代は何に取り組んだのか。
◆こんなことを言うと怒られるかもしれないが、「今いるファン、サポーターは一番のお客さんじゃない」と思った。クラブのお客さんは、地域に住んでいる人たち。1万人の観客が試合に来てくれたらすごいことだが、沖縄であれば残りの約140万人は来ていない。そこから考え始めないと広がらなかった。
最初はめちゃくちゃ、いろいろな人たちにサッカーの話をしていた。「こんな魅力のある選手がいる」「こんなサッカーをしている」と。ただ、そんな話に地元の人は全く興味を持ってくれなかった。「もっと沖縄を元気にしたい」「沖縄に来た人に喜んでほしい」という話の方が、地元の人たちの心を動かせることに気づいた。クラブがどういう問いかけをして、どういう答えを出そうとしているのか。みんなはそちらに興味があった。
――どういう答えを出したのか。
◆「沖縄を愛し、愛されるクラブ」をテーマに掲げた。沖縄の人はどこか愛情に飢えているところがあった。観光客が「沖縄は最高だ」と言っているのと、地元住民の自己評価にはギャップを感じた。観光客が多くても、実際は県民すべてが潤って所得が上がるわけではなかったからだ。愛情を表現するクラブになれば、沖縄の人の誇りや自信になるんじゃないか。そういうクラブを作りたいと思って活動した。
しかし、コアなファンであればあるほど理解してもらえない。「勝ち負けでしか評価することができない」が強くなる。それが悲しかった。
――「地域愛」とともにクラブ経営に必要なのは何と感じたか。
◆まず、試合を含めてコンテンツはまだまだ弱い。それに尽きると思っている。競技のクオリティーだけの話ではない。例えば、プロ野球は高校野球と比べて当然レベルは高い。しかし、プロ野球を見ない人でも高校野球を観戦する人は大勢いる。母校や出身地として応援する。あの熱量を生み出すためには地域を背負うということが大事になる。
地域の代表として認められているクラブがどれだけあるか。地域の特異性は当然あるが、地域の人が何をしてもらえれば喜ぶのか。それを持っているクラブがまだまだ少ない。
――答えをサポーターと共有できているクラブは。
◆浦和レッズには、それがあると思う。長く勝てずに低迷していた時代から、泥臭く戦うことがチームのアイデンティティーになっている。だからこそ、応援しようとスタジアムには5万人もの観客が入る。
川崎フロンターレも答えを出そうとしている。地域密着のクラブを作ろうとしている。中村憲剛さんというスター選手がいたのも大きい。彼がそういう活動に労を惜しまなかった。川崎はクラブと選手がマッチしている。川崎をモデルとしているクラブは多いだろう。
――30年目を迎えて今、思うことは。
◆プロ野球との差別化を図って、追いつけ追い越せとやってきた。しかし、人気はプロ野球の方が断然上のままだ。30年間でこの差を埋められなかった。それをどう評価するか。Jリーグの世界観もあるが、もっと変化していかないといけない。越えきれなかった壁に対する問題提起は30年目を迎えた今、必要だと思っている。
◇みかみ・すばる
東京都出身。筑波大時代はサッカー部で風間八宏氏(現セレッソ大阪アカデミー技術委員長)の指導を受けた。ゴールドマン・サックス証券を経て、2018年にFC琉球の取締役となり、翌年に社長に就任し、20年8月まで務めた。現在はコンサルティング会社「HDA」の代表取締役社長。
https://news.yahoo.co.jp/articles/643eed8abfdc2c8ed75466193c916e6b769d44f2