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平野歩夢の〝史上最高難度のルーティン〟はなぜ低得点に? 元五輪審判が不可解採点の「妥当性」を矛盾いっぱいに語る
2人の違いは「多様性」にあった?
前回の平昌冬季五輪でハーフパイプの審判員を務めたコナー・マニングによれば、五輪での審判プロセスとは次のようなものだという。まずジャッジたちはテレビ画面や採点用の機器を前に、長テーブルに一緒に座ってランを見る。見ながら、それまでに見たランと頭の中で比較し手元のノートにメモをしていく。
滑走が終わると、すぐに得点を出さなければならない。「たった20秒から30秒の間にランを比較し、ジャッジ同士で話し合ったり、時には議論したりして、映像を再度見つつ目まぐるしい早さで採点する。テレビの放映時間に間に合わなくなってきて、さっさとスコアを出せと怒鳴られることもある状況で、だ」
五輪でのハーフパイプ競技は、主に4つの要素で評価される。技の「難度」「高さ」「完成度」、そして1本の滑りの中で繰り出される技やグラブ(空中でボードをつかむこと)、回転などの「多様性」だ。ジャッジたちはこれらの評価基準によって、金メダルを争う2つの高度な滑りのどちらが上かを見極める。
「例えば2人の選手が全く同じ構成のランをしたとして、1人は3つの技でグラブの位置を全て変えていたとする。もう1人は全て同じ場所をつかんでいたとすると、2人の違いは『多様性』だけ。多彩さに富んだ前者のほうに高得点がつく」とマニングは言う。
では、この評価基準を基に平野の2本目のランを読み解いてみよう。平野が滑走中に繰り出した最初の技は、最高難度のトリプルコーク1440。一方、ジェームズも最初にスイッチバックサイド1260という高難度の技を成功させた。
この技は、縦回転と横回転ともにトリプルコーク1440より回転は少ないが、平野のこの技にはない要素が入っていた。自分が得意とする足とは反対の足で技に入る「スイッチスタンス」だ。
スイッチとは、野球で言えば右利きのバッターが左側で打つようなもの。平野が五輪史上初のトリプルコーク1440の成功者になった一方で、ジェームズの技も非常に難度が高かった。
マニングは、最初の大技で2人はおそらく似たような得点を得ていたのだろうと推測する。技の高さと完成度についても、2人は同じくらい。そうなると、残る評価基準は多様性だ。この点についてジャッジはジェームズに高評価を下したのだろうとマニングはみる。
「スコッティは(スタンスおよび回転の方向の組み合わせで言えば)全4方向の技を決めたが歩夢は3方向だった。スコッティのほうが多様性に富んでいた」とマニングは言う。「多様性はスコッティが上で、後はほとんど互角という状況の中、総合的にどういう点数をつけるかはジャッジの見方に託された」
「悪意に基づく採点」ではなかった
そして4人が、平野にジェームズより低い得点をつけた。ではジャッジたちは平野のスコアを出す前に「話し合い」をしたのだろうか? マニングによれば、ジャッジたちが他のジャッジの得点に影響をおよぼそうとすることは考えにくいという。
「ジャッジ席で、滑りや順位について手短に議論することは確かにある。だが裁量権は各ジャッジたちにあるし、最終的にどんな点をつけてもいい」
怒り心頭の解説者リチャーズと世界中の多くのファンたちの見方では、ジャッジは判断を間違えた。しかしマニングから見れば、あれは悪意に基づく採点ではなかった。ジャッジたちは、報酬のためではなく純粋に競技への愛から、極度のプレッシャーと責任がのしかかるこの仕事を引き受けているからだ。
マニングによれば、「オリンピックのジャッジに支払われる額は、ハンバーガー屋で8時間働くのよりも少ない」と言う。
それでも、もしマニングがアメリカの自宅でテレビ観戦する代わりに審査員席に座っていたとしたら、平野の2本目にどんな得点をつけた? この質問に、彼はこう答えた。「自宅のソファで審査員ぶって直感で採点するなら、私だったら歩夢にトップの点数をつけていただろうね」
https://news.yahoo.co.jp/articles/19dd9a4a32ef7d91ceef5fda6d34798b2e16b0c0?page=2