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【アホ】国旗損壊罪の新設案 窮屈な社会が待っていないか:朝日新聞
2025年11月24日 5時00分
政府の気に入らない表現は取り締まっていく――。そんなメッセージを出そうとしているのだろうか。憲法が保障する表現の自由や思想・良心の自由にかかわる問題で、法制化には懸念しかない。
自民党と日本維新の会は連立政権の合意書で、来年の通常国会での「日本国国章損壊罪」の制定を掲げた。参政党も、日本を侮辱する目的で国旗などを傷つければ2年以下の拘禁刑か20万円以下の罰金とする刑法改正案を参院に提出し、自維両党に協力を呼びかけている。3党がまとまれば衆参で過半数に達し、可決・成立が可能になる。
刑法は、外国に対し侮辱を加える目的で、その国の国旗など国章を損壊した者を罰すると定める。日本国旗は対象ではない。参政党はこの点に触れ「他国の国旗も我が国の国旗も同じように扱う、真っ当な要求だ」とする。自民党も2012年に法案を提出。廃案となったが21年に再提出の動きがあった。中心にいたのは高市早苗首相である。
■何を守るための法か
刑法は犯罪を防ぎ、個人や社会、国家の利益を守るためにある。ほかの手段では利益を守れない時にのみ刑罰を用いるのが基本的な考え方だ。
外国国章損壊等罪は、日本の外交上の利益を守るためにあるとの考えが有力だ。「国交に関する罪」の章にあり、外国政府の請求を要件としている。これらを踏まえれば、同罪があるからといって日本国旗の損壊罪が必要との理屈には首をかしげる。なぜ改正が必要なのか、守る利益は何か、どちらも腑(ふ)に落ちない。
極めて抑制的であるべきだが、日本国旗の損壊が処罰されたこともある。1987年の沖縄国体会場で掲揚された日の丸を降ろして焼き、開始式を妨害したとして器物損壊などの罪に問われた男性はその後、有罪が確定した。他人の器物を損壊する罪の法定刑は3年以下の拘禁刑、または30万円以下の罰金で、改正案の国旗損壊罪よりも重い。
■強さの証しと源は
政府に抗議するため、国旗を燃やしたり、やぶったりする行為は繰り返されてきた。そうしたやむにやまれぬ市民の叫びを刑罰で抑え込むことは、表現の自由の重みに照らせば許されることではない。
米国では80年代、政権への異議申し立てのために星条旗を燃やした男性が起訴されたが、連邦最高裁は、国旗を焼いた行為は憲法で保障される表現行為にあたると述べ、禁止や処罰は違憲と判断した。
判事9人の議論は5対4と拮抗(きっこう)の末、多数意見は「我々の判断は、国旗が最もよく表す自由・包摂の原則と、被告のような批判を寛容に受け入れることが我々の強さの証しであり源であるとの信念とを再確認するものだ」とした。
もちろん国旗を汚す行為を見て、不快な気持ちになる人は少なからずいるだろう。ただ、法律で罰するべきかとなると話は別だ。判例や学説は、基本的人権の中でも表現の自由をひときわ重視し、刑事罰で制限することには極めて慎重であり続けてきた。民主主義を深めるには、自由に考え、それぞれの意見を交わすことが何より欠かせない。
想像してほしい。ひとたび規制すれば、窮屈な社会が待っていないだろうか。日の丸をモチーフにした芸術作品や広告への非難、要件にあてはまるような行為がないかを監視するような空気……。あるのが当たり前と思っていた自由や権利ほど、失った後に取り戻すのは容易ではない。
■自由の抑制に警戒を
世界を見渡せば、(略)






