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【鈴置高史】「K防疫のまやかし」から韓国人は目覚めるか 幼いナショナリズムが生む国家の蹉跌
――文在寅大統領はいまだにK防疫を誇っているのですか?
鈴置:最近では11月21日――陽性者数が急角度で増え始めた時に、K防疫を自らの実績として掲げました。その無神経さに韓国人が怒りだしたのです。
中央日報も社説「一拍遅れた防疫強化、オミクロンを抑えられるか」(12月4日、韓国語版)で「1日の新規陽性者が3000人を超えた時点で文在寅大統領は『国民との対話』に出演し、K防疫の成功を自画自賛した」と呆れて見せました。
――保守系紙は「K防疫」攻撃に乗り出しますね。
鈴置:そこが微妙なのです。もちろん、文在寅政権の防疫失敗や自画自賛は非難するでしょう。でも、K防疫そのものは批判しにくい。なぜなら、「K防疫」という言葉には政府の手柄だけではなく、「韓国人一人ひとりが優秀である」との含意もあるからです。
下手にK防疫を批判すれば、「自分たちは世界に冠たる民族だ」と信じる国民を敵に回してしまう。だから朝鮮日報などは大統領の傲慢さや、ワクチン獲得の失敗に攻撃の対象を絞っているのです。
K防疫の皮切りは「検査数が日本よりも多い」ことでした。
――検査数が多いと「優秀な国」なのでしょうか?
鈴置:むしろ逆でしょう。大邱に巨大なクラスターが発生したからこそ、大量の検査を余儀なくされたのです。「検査数が少ない」と韓国人に馬鹿にされた日本は当時、クルーズ船以外で大きなクラスターが発生しておらず、大量検査の必要がなかったに過ぎません。
日本でも「韓国では望む人は誰でも検査を受けられる」といった情報が流されましたが、まったくの誤りです。少なくともこの頃は「検査対象は濃厚接触者に限る」とのルールだったのです
――「検査大国」のからくりを韓国人は見抜いたのですか?
鈴置:いいえ。政府の宣伝を素直に受け入れ、自己満足にひたったのです。韓国人は嘘でもいいから「世界で冠たる韓国」「日本人よりも優秀な韓国人」という神話を信じたいのです。
4月15日に実施された総選挙でも、少し前までの予想を裏切って与党「共に民主党」が圧勝しました。大邱のクラスターの終息期とも重なって、文在寅政権のプロパガンダが奏功したのです。
この後も文在寅政権はK防疫のバリエーションを編み出しました。先端の隙間をなくすことにより、瓶の中のワクチンを完全に吸い上げる「K注射器」。スマホなどITによる位置情報を利用した濃厚接触者への警告システムなどです。いずれも「日本には存在しない、我々の優秀さを示す証拠」として韓国メディアは宣伝しました。
もっとも、いずれも「オチ」が付いていて、「K注射器」は品質管理の甘さから異物の混入事件が多発。スマホ利用の警告システムは泣かず飛ばずに終わりました。この時期のコロナ株は感染力がさほど強くなく、映画館の席で隣り合ったぐらいではうつらなかったためと思われます。
外から見れば、早々にK防疫はその馬脚を現していたのですが、韓国人のほとんどが神話を信じ続けてきたのです。
――でも、死亡者数は韓国の方が少ない。
鈴置:それこそ怪しいのです。
2020年1年間の日本の死亡数は前年に比べ9373人(0・7%)減りました。高齢化により死亡数は年に2万人ぐらいずつ増えていたことを考えると、実質的には約3万人減った計算になります。
一方、韓国の死亡数は前年に比べ9838人(3・3%)増えました。韓国も高齢化で死亡者が年平均2%増えていますが、これと比べても明らかに多かったのです。
その差の1・3%の人がコロナで死亡したとすると、3875人になります。ところが韓国政府の発表によると2020年1年間のコロナによる死亡者は917人に過ぎません。実際の4分の1程度に見せかける、過少計上の可能性があります。
――いつも厳しく政府を攻撃する韓国紙が、過少計上を追及しないのは不思議です。
鈴置:そこがポイントです。冒頭に申し上げたように、保守系紙といえども「K防疫」神話をぶち壊す勇気はない。「本当は日本より韓国の方がコロナによる死亡者がはるかに多い」と今になって聞かされれば、韓国人は怒り狂うでしょう。
さきほど、政府も病院も個人も「グル」と申し上げましたが、メディアも「一味」なのです。そして、ここに韓国の危うさがあると思うのです。
デイリー新潮
https://www.dailyshincho.jp/article/2021/12101700/?all=1&page=1