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米国の抑止力弱まる ロシア、ウクライナ巡り強硬 米ロ首脳協議は平行線 中国も見透かす
2時間に及んだ米ロ首脳のオンライン協議の主要議題はウクライナ情勢だった。米欧はロシアが隣国ウクライナとの国境付近に軍を集結し、2014年に続いて再び侵攻すると警戒を強める。両国は対話を続けるとしているものの溝は深い。
ロシアはウクライナと後ろ盾の米国に軍事圧力をかけ、自らが提示する条件をのませようと狙う。その中には北大西洋条約機構(NATO)の東方拡大の停止、ロシア国境近くに攻撃兵器を配備・供給しないことを含む。
ウクライナは4000万を超す人口と広大な国土を持つ旧ソ連第2の地域大国で、欧州連合(EU)とロシアに挟まれた地政学的要衝にある。
プーチン氏はロシアとウクライナの両国民が「ひとつの民族だ」と訴え、政治と経済、社会の一体性を強化すべきだと主張する。一方、ウクライナはNATO加盟を目標に掲げ、ロシアとの対立が深まっている。
米欧とロシアの相互不信は根強い。プーチン氏は1日の演説で、1990年のドイツ統一を巡る協議で、米欧がソ連にNATOの東方拡大をしないと口頭で約束したにもかかわらず「全く反対のことが行われた」と積年の恨みを口にした。
プーチン氏は、7日の首脳協議ではウクライナのNATO非加盟要求に加え、攻撃兵器をロシアの隣接地域に配備しないことも保証するよう求めた。
米欧には受け入れられない提案だ。バイデン政権は厳しい経済措置を講じると警告する。米メディアによると、世界の銀行の送金システムを運営する国際銀行間通信協会(SWIFT)からロシアを排除することも選択肢にあがる。バイデン政権は安保と経済の両面から圧力をかけるが、プーチン政権が歩み寄るかは予断を許さない。
ロシアは今後も軍事圧力をかけつつ、時間をかけて打開の糸口を探るとみられる。仮に一時的に緊張緩和に応じたとしても、ロシア軍の集結や挑発行為は断続的に続くとの見方が多い。
ロシアが強気に出る背景にあるのが米国の抑止力低下だ。14年のクリミア併合を巡る日米欧による経済制裁はロシアを追い詰めるに至っていない。バイデン氏が副大統領を務めたオバマ政権は「米国は世界の警察官ではない」と宣言し、ロシアへの軍事力行使には踏み切らなかった。
今回も、仮にロシアがウクライナに侵攻しても米軍が軍事介入するとの見方は少ない。米国がウクライナ情勢で対応が後手に回れば、世界の安全保障にも影を落とすのは間違いない。
実際、14年にロシアがクリミアを併合して以降、中国は南シナ海や東シナ海で現状変更を試みる挑発行為を加速した。20年には香港国家安全維持法の制定を強行して香港の高度な自治を保障する「一国二制度」が崩れた。台湾にも軍事威嚇を続ける。
バイデン政権は最大の競争相手と位置づける中国の抑止へインド太平洋シフトを進めている。ウクライナ情勢への積極関与は重荷だ。米紙ワシントン・ポストは3日、米情報機関の報告書などの内容としてロシアが22年初めにもウクライナ侵攻を計画していると報じている。中国の動向をにらみつつ、ウクライナ問題にどう対応するか。バイデン政権は難しいかじ取りを迫られている。
日本経済新聞 2021年12月8日 21:59 (2021年12月9日 5:18更新)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN083660Y1A201C2000000/