あわせて読みたい
「奴隷にされたくない、自由がほしい」中国で打倒・習近平の蜂起呼びかけ、英国から遠隔操作…進化する反共運動
8月29日夜10時ごろ、重慶大学の中心商業地域の煕街のビルの壁に突然、巨大プロジェクターによる標語が浮かび上がった。
「立ち上がれ、奴隷に甘んじたくない人々よ」「立ち上がって、反抗し自分たちの権利を奪い返すのだ」「共産党がなくなってこそ、新しい中国があるのだ」「自由はあたえられるものではなく、奪い返すものだ」「嘘はいらない。真実がほしい」「奴隷にされたくない、自由がほしい」「赤いファシズムを打倒せよ」「暴政の共産党を転覆させよ」といった標語が50分ほど、かわるがわる投影されたのだ。
おりしも新学期のスタートが近く、キャンパス内に学生が戻ってきており、多くの人々がこの「事件」を目撃していた。SNS上でも、動画が投稿され、すぐさま海外のSNSにも拡散された。翌朝には多くの警察車両が現場に集まり、厳重に警備されているのも目撃された。
このあたりは重慶大学だけでなく、重慶師範大学や四川美術学院など多くの大学が集まり、最も学生たちが密集する地域。キャンパス周辺では緊張した空気が漂い、学生たちは、この事件についてあまり語っていない。なぜならSNS上の学生たちのチャットグループは、学生指導の「補導員」たちが監視の目を光らせているからだ。
キャンパス内には、明らかに私服警官とわかる物腰の男たちが増えていた。事件当時の学内の監視カメラ映像は警察に提出され、犯人捜しが始まったという。
伝え聞くところでは、これらの標語を映し出したプロジェクターは通りの向かいにあるホテルの一室に設置されていたらしい。だが、警察がその部屋に乗り込むと室内は無人で、一通の手紙が残されていたという。
その手紙には「私はどこの組織にも属していない。やむを得ない事情でここまできた」とあり、中国共産党の数え切れないほどの罪を糾弾した上に、警官たちに、「今、あなた方は受益者の立場にあるかもしれないが、この土地にいる限り、いつか被害者の立場になるだろう。無関係の人を巻き込まないように。やむを得ないというなら、その銃口を少し上に向けてはどうか」と呼びかけていたという。
部屋には600ワットの屋外用プロジェクターが1台と、3台の監視コントロール設備があり、リモートで定時にスイッチが入るようセットされ、1台はルーターと電話SIMカードによって操作できるようになっていたという。
こうした「仕掛け」をした人物は、実はこのときすでに英国に脱出していた。戚洪という名の人物が人気セルフメディア・不明白博客でキャスターの袁莉からインタビューを受け、自ら犯行を宣言、そのいきさつを解説していたからだ。
(略)
この重慶でのプロジェクターをつかった反共標語計画をたてたのは今年7月。2022年10月の四通橋に反共メッセージを掲げた彭載舟や、2023年2月の済南市万達広場で反共メッセージを投影した柴松、今年4月の成都反共標語事件をしかけた梅世林らの行動に啓発をうけ、自分なりのやり方で、もっと芸術的にもっと科学的に共産党批判をしようと思ったという。
8月20日に妻子とともにすでに英国に移住していた。彼は英国から、このプロジェクターによる標語投影計画をすべてリモートで行ったという。彼はもともと9月3日の反日反世界ファシズム戦争勝利80周年記念の日にこの計画を実行するつもりだった。だが、ホテルの部屋を長く不在にしておくことで計画が事前にばれる可能性を恐れて8月29日に前倒しで実行することにしたという。
(略)
中国社会への怒りと絶望
一つは、彭舟載や梅世林らのように、命をかけても共産党批判をあえてやろうという人物が増えている。何度も不条理にさらされ、すべてを奪われていわゆる「無敵の人」になった人民の不満は、一部で反日行動や社会報復テロのような犯罪に向かうケースもある。だが、自らの苦境の原因を共産党政治にあると正しく理解できる知識層は、共産党に対して、暴力ではなく、こうした言論、メッセージの発信など「表現」を武器にした抵抗を行うのだ。
また、このような反共標語事件を仕掛けた人物が全員、IT分野の出身かITに詳しいというのも注目すべきだろう。かつて富裕層への近道になると信じられ、若者が目指したIT分野の仕事も、今や「コード農民(碼農)」と侮蔑的に呼ばれ、長時間労働の激務の割に給与は少ない労働搾取の対象だ。特に中国ITバブル時代を知っている30代以上の理工系男性は、今の中国で最も喪失感の大きい世代だと言われている。
続きはソースで
(福島 香織:ジャーナリスト)
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/90532