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【ハンギョレ新聞コラム】世界が驚いた韓国の「民主主義の情熱」「生きている民主主義の見本」
尹前大統領が政権に就いた3年近い時間、大韓民国は立ち止まっていた。現状維持どころか、むしろ墜落した。経済は沈滞し、国民生活は困窮するようになり、朝鮮半島の平和と安定は崖っぷちの状況に追い込まれた。進歩・保守を問わず歴代すべての政権は、社会福祉を拡大し、成長のための研究開発投資に力を入れた。尹前大統領はそのような基本的な任務にあっさり目をつぶった。今年の韓国の経済成長率は0%台に低下する可能性があると、ある世界的な投資銀行は予測した。ウクライナ戦争をはじめとする外的変数が作用したとはいえ、状況に機敏に対応できない政府の責任が大きい。
大統領は国民には関心を持たず、ひたすら「左派清算」ばかりを叫んだ。「破廉恥な従北反国家勢力を一挙に清算するために」非常戒厳を宣布すると述べた。国政運営の最高責任者が理念戦争に没頭するのだから、政権が正常に回るわけがない。セマングム世界ジャンボリー大会での惨事や、釜山(プサン)博覧会誘致の失敗は端的な事例だ。「目覚めてみれば後進国」というハンギョレのコラムの題名は誇張ではない。
大統領制のもとで大統領ひとりを間違って選んだ結果がいかに重いのかを、われわれは尹前大統領を通じて実感した。法執行機関に抵抗して「最後まで戦おう」と支持者を扇動する姿は、国民が抱いてきた「大統領の望ましい像」とはかけ離れていた。憲法裁の罷免決定はだからこそ幸いだ。戒厳と弾劾という無残な過程を経たが、無能のみならず邪悪ですらあった統治者に、さらに2年間を任せることなく新政権発足の機会を得ることになったのは、逆説的に機会だと考えられる。
これからは弾劾を越えて新たな跳躍を始めなければならないときだ。憲法裁の尹大統領弾劾で意義があるのは、韓国の驚くべき民主主義の回復力を全世界に示したことだけでなく、流血の事態なしに平和に民主主義をよみがえらせたことだ。昨年12月3日夜に尹大統領が非常戒厳を宣布したとき、欧米は「最も躍動的に発展する国の一つ」である韓国で、どうしてこのようなことが繰り広げられるのかと驚いた。しかし、韓国国民がみせた民主主義の情熱と回復の過程は、全世界に響きを与えるのに十分だった。
「尹錫悦逮捕」を求め、ソウルの漢南洞(ハンナムドン)にある大統領官邸の前で、大雪のなかでも夜を徹したデモ隊の写真は象徴的だ。憲法裁の決定が遅れ、心配と怒りが強まったが、最後まで既存の制度を信じて平和的手段で待ち続けたことも、評価に値する。憲法裁は、誰も反論できないよう、「大統領尹錫悦を罷免しなければならない理由」を一つひとつ説得力をもって提示することで、国民が長く待ち望んでいたことに応えた。
世界的に反動の時代だ。1990年代の東欧民主化後、オレンジ革命、ジャスミン革命、アラブの春につながり、民主主義は逆らうことができない流れとして地位を確立した。韓国はいつも先鋒だった。1987年の6月抗争で軍事独裁政権を終わらせ、10年後に憲政史上初めて平和的な政権交替を実現した。2017年には数百万人が広場でろうそくを灯し、権威主義統治を復活させた大統領を退陣させた。しかし最近になり、アジアや南米だけでなく欧州や米国でも、選挙で政権に就いた後に民主主義に逆行する権威主義的な指導者がますます増加している。米国のドナルド・トランプ大統領やハンガリーのビクトル・オルバン首相がそうだ。
尹錫悦前大統領も同じだ。選挙でかろうじて勝利したにもかかわらず。民主主義の手続きを無視し、国会との妥協を拒否し、検察権を乱用した。最後には、歴史の裏側に消えたと信じられていた非常戒厳を持ち出し、軍を動員して国会を制圧しようとした。アジアや南米では、民主主義が崩壊したとき、いかなる流血事態もなしに平和な方法で再び完璧に回復した事例は容易に見いだすことができない。長期間の軍事独裁時代を経て、誰よりも権力の退行に敏感である韓国国民の感受性と情熱が、今の時代に「生きている民主主義の見本」として世界の多くの人々にインスピレーションを与えている理由だ。