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【夕刊フジ】台湾有事の日本波及は明らかだが…政府対応は抑制的 玉城デニー知事は中国人観光客誘致のため黙して語らず
習近平国家主席率いる中国軍による、台湾や日本への特異な行動が続いている。今年すでに、軍用機延べ約680機を台湾の防空識別圏(ADIZ)に進入させたうえ、日本の衆院選に合わせるように10月17~23日、中国とロシアの海軍艦隊が日本列島をほぼ一周した。ジェイク・サリバン米大統領補佐官(国家安全保障問題担当)は7日、台湾への軍事的圧力を強める中国について「一方的な現状変更に反対する」と強調した。「台湾有事」は「沖縄有事」「日本有事」に直結する。国境の島々が抱える危機感とは。沖縄県・石垣島を拠点とする日刊紙「八重山日報」編集主幹、仲新城誠氏が迫った。
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日本最西端の与那国島(与那国町)は、台湾との距離が111キロと近く、晴れた日には肉眼で台湾が見えるとされる。台湾が戦場になれば与那国島はもとより、同じ八重山諸島の島々が巻き込まれるのは目に見えている。
だが、中国の習主席は「必ず台湾を統一する」と公言。台湾のADIZに延べ数百機の軍用機を進入させるなど、軍事的圧力を強めている。
沖縄県民にとって台湾有事が決して他人事ではないのは、中国が台湾への威嚇行為と並行して、尖閣諸島(沖縄県石垣市)侵奪の動きを強化しているからだ。
中国は、尖閣諸島を「台湾の付属島嶼(とうしょ)」と呼ぶ。台湾侵攻の際は当然、尖閣諸島も視野に入るはずだ。台湾防空識別圏への軍用機進入と、尖閣周辺海域への中国海警局船の領海侵入。根は一つだ。「東シナ海支配」に向けた一連の戦略である。
八重山諸島と台湾は単に距離が近いだけではない。石垣市、与那国町は台湾の自治体と姉妹都市提携しており、民間レベルでの交流も活発だ。特に、石垣市では台湾からの移住者の家系も多い。
石垣市で商工会の副会長を務める下地寛正さんは「台湾有事が起きた場合、八重山で住民の命や島の経済にどのような影響があるのか、国はシミュレーションし、対策を考えてほしい」と求める。10月の衆院選では、来島した候補者に「台湾有事」への対応を問いただした。
だが、国境の島々の不安をよそに、日本政府の対応は抑制的だ。
松野博一官房長官は10月の記者会見で、台湾情勢を問われ、「関心を持って注視する」と述べるにとどめた。中国への直接的な非難も避け続けている。
中国人観光客の誘致に熱心な沖縄県の玉城デニー知事も、尖閣や台湾に関しては「黙して語らず」を貫く。
ジョー・バイデン米政権の対中政策は、中国の「デカップリング(切り離し)」に言及したドナルド・トランプ前大統領ほど強硬ではない。民主主義諸国で対中包囲網を構築する方針のようだが、フランスが距離を置く姿勢を示すなど、欧州には明らかに温度差がある。
対中抑止は結局、日米が基軸になるほかない。とりわけ、日本の立ち位置が問われる。日本はぶれることなく、台湾有事に関しても当事者であるという自覚を持ち、毅然(きぜん)として中国と対峙(たいじ)すべきだ。
中国の王毅外相は、台湾を支援する各国の動きに対し、「必ず代償を払うことになる」と警告した。しかし、中国にこそ、侵略的行為の代償を払わせなくてはならない。沖縄は中国からの観光客誘致に汲々とする姿勢を改め、中国のデカップリングへと舵を切った方がいい。
■仲新城誠(なかしんじょう・まこと) 1973年、沖縄県石垣市生まれ。琉球大学卒業後、99年に地方紙「八重山日報社」に入社。同社編集長に就任。現在、同社編集主幹。
夕刊フジ公式サイト 2021.11.9
https://www.zakzak.co.jp/soc/news/211109/for2111090002-n1.html