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【朝日新聞/社説】日中の世論 隣国への視座、冷静に 共存共栄の道を探る日中双方の知恵が試されている
一衣帯水と呼ばれる日本と中国との隣国関係には、常に複合的な視座が求められる。
対立点を抱えながらも互恵の領域を広げていく土台となるのは、国民同士の信頼醸成だ。両国の政治には、そのための冷静な環境を整える重責がある。
中国での日本に対する国民感情が最近、悪化の傾向にあるという。NPO法人「言論NPO」などが毎年実施する日中の世論調査で、わかった。
今年の調査は8~9月に行われた。中国で日本の印象を「良くない」「どちらかといえば良くない」とする回答が、前年比で約13ポイント増の66%に上った。
対日感情は、2012年に尖閣諸島が国有化された際に一気にこじれたが、その後は改善を続けていた。今回は8年ぶりの悪化だという。
理由としては歴史問題や尖閣問題、米中対立での日本の姿勢などがあげられている。
中国政府やメディアは最近、福島第一原発の処理水の海洋放出方針や、日本と台湾との接近に反発している。これらが影響したとの見方がある。
対日世論の改善を支えたとされる訪日中国人は、コロナ禍で約9分の1に激減した。年間1千万人に迫った観光客らが発する日本の多様な情報がしぼみ、相対的に中国政府の発信の影響力が増したともいわれる。
尖閣問題などで両国間の安全保障上の緊張が高まるなかで、対日世論の悪化は、偶発的な事案に直面した際の中国指導部の対応にも影響を与えかねない。憂慮すべき事態だろう。
そうでなくても中国では最近、米中対立を受けて対外強硬の雰囲気が高まっていると伝えられる。共産党政権は、あえてナショナリズムをあおるような危うい言動は慎むべきだ。
調査では日本の対中感情が引き続き悪いことも確認された。中国の印象を「良くない」などとした日本人は前年から微増の9割に達した。
中国の軍拡や強引な海洋進出を考えれば無理もないが、尋常な数字ではない。日本だけでなく、欧米諸国の世論調査でも対中感情は軒並み悪化している。中国政府はその原因をよく考えるべきだ。
来年は日中国交正常化50周年に当たる。岸田首相と習近平(シーチンピン)国家主席は10月の電話協議で、これに言及した。今後も意思疎通の機会を広げるとともに互いの国民向けの発信も増やし、不信の連鎖を防ぐべきである。
戦争の過去を背負った国民感情は敏感で壊れやすい。一方で、多層な交流で幾多の懸案を乗り越えてきた蓄積もある。共存共栄の道を探る日中双方の知恵が試されている。
朝日新聞 2021/11/5 5:00
https://www.asahi.com/sp/articles/DA3S15101192.html?iref=sp_rensai_long_16_article