あわせて読みたい
「いくら金出しても買えない」中国で出会った北朝鮮出身者の証言
瓦屋根が広がる住宅街を行き来する北朝鮮北部・新義州の住民=対岸の中国・丹東で2021年9月、米村耕一撮影
長距離巡航ミサイルに、変則軌道で飛行する弾道ミサイル、さらには極超音速ミサイル――。9月に入って立て続けに発射実験を繰り返すなど、着実に軍備を増強している北朝鮮。新型コロナウイルス対策のための厳重な国境封鎖が続く中、庶民の暮らしはどう変わったのか。最近、北朝鮮から中国入りした中朝貿易関係者らに尋ねて回った。
「以前は米ドルで100ドル(約1万1000円)あれば家族3~4人が1カ月暮らせたが、今は300ドル、400ドル必要だ。理解できないのは輸入品でなくても値段が上がることだ。いくら金を出しても買えないものも多い」。今夏、中国入りした男性がこぼした。
コロナ禍前は、10錠ほど入った解熱鎮痛剤のシート1枚が1000北朝鮮ウォン(実勢レートで約30円)で売られていたが、これが1錠で2500ウォンになり、男性が中国に来る直前には、全く手に入らなくなったという。
また、北朝鮮産のたばこも値段が7000ウォンから2万5000ウォンへと3倍以上になった後、入手困難になった。さらに、ウォン紙幣そのものの不足も問題になっているという。
ビルの壁面に「自力更生」のスローガンが書かれた北朝鮮北部・新義州の街並み=対岸の中国・丹東で2021年9月、米村耕一撮影
「国はコメやトウモロコシの価格を統制し、上がり過ぎないようにしているが、それだけで暮らしていけるものではない。国産といっても中国から輸入される原料なしには作れず、(多くの住民は)さまざまな物資が実は中国頼みだと改めて感じている」とも語った。
一方、同じく最近、中国に来た女性がこんな話を教えてくれた。ある商人がたまたまコロナ禍前から大量に所有していた人工甘味料のサッカリンなどを売りさばき、大もうけした。この商人が周りの人に「(もうかったので)コロナにもいいところがある」と語ったところ、治安当局に通報され拘束されたという。
この女性は「コロナ対策を巡る発言に(当局は)敏感になっており、関連した失言で住民が捕まる例は少なくない」と語った。
北朝鮮が今年設定した「国家経済発展5カ年計画(2021~25年)」では、米国による経済制裁など「外部環境」に左右されない自給自足中心の体制を整えることが、重要な目標の一つとされている。
北朝鮮が国境封鎖を継続する理由として、コロナ対策だけでなく、こうした経済体制を確立する狙いもあるとの見方もあるが、国境封鎖と生活水準の向上の両立は、極めて困難なようだ。【北京・米村耕一】
毎日新聞 2021/10/16 07:00(最終更新 10/16 07:00) 974文字
https://mainichi.jp/articles/20211016/k00/00m/030/007000c